禍祓いの影札
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とりあえずは現状把握だ。
みことは気配を消し、周囲を見回して怪しげな箇所を探した。
今回の最終目的は、この家のとある人物の捕縛。抵抗するようなら生死は問わないと隊長が告げていたことを、みことは思い返した。この地の有力な家らしいが、元々あまりいい噂は耳にしなかった。今回、神奈備が国への脅威となると認定し、粛清することになった。
みことが区堂から受け取った書類には、違法な薬物取引と人身、臓器売買についての内容が書かれていた。表向きは医療機関。
よくある話だ。特に戦後、妖術師が公になってから、こういった件が増加の一途を辿っている。みことが潰そうとしても所詮一個人。できる範囲は限られていた。
国も国で、余程のことがなければ動かない。裏社会に生きる家は、漣家のように神奈備という組織の仕組みを理解して、無駄に争わないのが賢いやり方だとされている。この者は、そこを誤り無駄にたてついたらしい。――神奈備が動いた時点で、もはや相手に勝ち筋はないだろう。
どこも神奈備が動けばいいのに、と思いながらも、再び混乱を招く可能性も分かっていた。今度は内輪で戦争が起こることになるかもしれない。そうなった場合、一番被害を被るのは無辜の民だ。
みことは歯痒さとやるせない思いを打ち消すように、息をついた。
怪しげな箇所を見つけ、それとなく探る。何箇所か気になる点があったが、ここが一番かとみことは足を止めた。
周囲は木々に囲われている。明らかな灯篭は見当たらない。ならば、と地面を軽く掘った。みことの指先に、ざらついた石が当たる。
「見つけた」
さらに探ろうと、みことは玄力を込めた。その時、背後で風を切る音がした。
とっさに頭を低くし、避ける。体を翻し、背後にいた人物に掴んだ土を投げ、距離を取った。
相手は刀を構えている。ここの家の者のようだが、目当ての人物ではなさそうだ。こんなにあからさまに襲われたら、ここは大事なところですと言わんばかりだ。みことは周囲を確認しながら、どうやって隊と合流するかを考える。目の前に敵。あたりは木と土。みことを囲むように、背後の木に人の気配を二つ感じた。
「貴様!何をしている!」
「うーん。偵察?」
「舐めおって!」
眼前の敵がみことに切り掛かってくる。刀を躱し、あとの二つの気配がある木のところに、瞬時に綾紐を伸ばす。
紐が飛んでくるとは思わなかったのか、捕らえた一人を地面に叩きつけた。躱したもう一人は、どうやら手練のようだ。
紐を引いた反動を利用して、みこと自身も地面を蹴り、大木の枝へと飛び移った。
「少しくらい、いいか」
相手から自身の姿が木に隠れて見えていないことを確認した。妖術を使わせて貰おうと、自身にかけた結界術をとく。
そのまま空を斬るように「弾禁」と手を振った。
みことが振った手の軌跡に沿って、前方の木々が次々と軋みながら倒れていく。最初に対峙した人物は、突然の倒木に気を取られている。みことは背後に素早く移動し、手刀で気絶させた。
あと一人。
気配を探ろうと身構えた。一つの方向から玄力を感じた。
開けた場所に出たため、再びみことは自身に結界術をかけた。懐にあるものに手を伸ばし、来るなら来い、とばかりに構える。
相手もみことを見ている。
相手は静かに刀を構え、こちらに向かい切り掛かる気配を見せた。相手の足が地を蹴った。
その刹那――
「派手に暴れすぎなんだよ!」
こちらに向かってきていた相手は、横から現れた雷と共に、薙ぎ倒された。
突然のことに、みことは口を開けた。
懐に伸ばしていた手を引っ込め、薙ぎ倒された相手を綾紐で捕縛する。それらを一瞥して、巳坂は流れるように納刀をした。相手が血を流していないことから、峰打ちをしたのだとみことは分かった。
巳坂が、肩を回しながら、みことの隣にやって来る。
「ったく、準備運動にもならないぜ」
「巳坂さん、ありがとうございます」
「お前、刀ねえだろ。無理すんなよ」
にしても木倒れてんじゃねえか。その音だったのか。こいつらが刀で切ったのか?なんてブツブツ言いながら、巳坂は、倒れている残り二人を引きずっている。
気絶している三人を縛り上げながら、みことは巳坂に声をかけた。
「さっきの雷は、巳坂さんの妖術ですか」
「ああ」
「どこか刳雲に似ていますね」
「見たことあるのか」
みことは首肯した。みことも戦争経験者なのかと、巳坂は納得した。
先ほど自分が割って入ったが、構えていたみことの神経は研ぎ澄まされていた。隊長の言動といい、刀を持っていないことといい、結界術の達人なだけで戦えないと勝手に思っていたが、只者ではない雰囲気を巳坂は感じ取っていた。
「巳坂さんは妖術もですが、剣術の腕も、相当ですね」
「……フン」
みことの発言に、巳坂は目を見開き、短い一言とともにぷいっと横を向いた。どうしたのかとみことは疑問に思ったが、巳坂は口元軽く押さえており、表情は伺えなかった。だが、どこか巳坂の纏う雰囲気が柔らかくなったのを、みことは感じた。
さて、とばかりに、巳坂が背筋を伸ばしこちらに向き直ってきた。その表情は、いつものような仏頂面だった。
「こいつら、どうする?」
「隊長のところへ。何か情報が掴めるかもしれない。敵に気付かれる前に、急ぎましょう」
だな、と巳坂は敵を抱え、隊に合流すべく素早く足を進めた。
