禍祓いの影札
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神奈備所轄の訓練場。頭上では太陽が容赦なく照りつけ、若い術者たちが汗を流していた。これからの神奈備を担う者たちだ。
各々が書物と見比べながら結界の陣や移動のため陣を書いたり、掌印の練習をしたりしている。そのような若者たちの中をゆっくりと巡りながら、みことはそれぞれを確認し、声をかけていた。
ふと時間を確認したら、終了時刻に迫っていた。みことは手を叩き、今日のおさらいをざっと告げる。
「――では、今日はこれくらいで。お疲れさま」
全体へ発したその一言と共に、その場は解散となった。各々が友人と語りながら、時にはみことに挨拶も交わしながら去っていく。
みことは無事に終えたことにホッと息をつく。何度やっても慣れない講義。本来自分は、こういった全体への指導といったものは向いていない。だが、後進育成のためには仕方ないと、言い聞かせてきた。
今日はこのあとどうするかぼんやり考えていたら、声がかかった。
「今日も精が出るな、鎺」
「区堂さん。ご無沙汰しています」
調子はどうかねと言った様子で、ひょこりと区堂がみことの隣へやってきた。優秀な若手も多くいることを告げると、区堂は嬉しそうに何度か頷いた。
チラリと周囲を確認し、区堂は声を落としてみことに尋ねた。
「彼は元気かね」
「……相変わらず騒がしいですよ」
「それは何より」
「家事もいい加減覚えて欲しいですねぇ」
みことが顔を顰めて発した言葉に、区堂は声をあげて笑った。それは無理だろうなと。みことも同意とばかりに頷いて笑った。
「で。今回はどんな依頼ですか?」
笑顔のまま、みことは区堂に尋ねる。先ほどまでの穏やかな空気と打って変わって、水を打ったように静かになった。
区堂はやはり分かっていたかというように、僅かばかり背筋をのばした。こほんと咳払いをして、真っ直ぐにみことを見つめる。
「まあ落ち着いて。これが、今回のだ」
みことは区堂から差し出された書類を静かに受け取った。そこには神奈備が調査したもの、その調査により判明したこと、今後の神奈備がとる手段等が大まかに書かれていた。
「なるほど。地方の有力な妖術師が好き勝手また何か怪しいことをしていそうで、さらに厄介な結界術が絡んでいそうと」
「その通り。流石に今回はお目溢しできない域になった」
「そんでもって、亥猿の爺さんあたりが私に行ってこいと」
「……揃っての決定だ」
みことは亥猿の名をわざとらしく大きく言った。区堂は否定も肯定もしなかったが、雰囲気からみことは全てを察した。
「自分が来ないで区堂さんを通じて依頼してくるなんて、本当によくできた性格ですよねー」
「そう言うな。神奈備の班が先行して向かっている。そこに合流して同行して欲しい」
「はいはい。あ、これは鎺みこととして同行しないほうがいいですかね」
「そうだな。だが、無理のない範囲で問題ない」
「はーい」
みことは印を結び、自身に結界術を施した。
区堂は目の前の人物が一瞬にして男の姿になり、相変わらずな器用さだと感心した。
みことは依頼の場所を確認しながら、これならあそこに飛ぶかと地面に陣をさらさらと書いていく。めんどくさいなぁなんて言いながらも、描く手に迷いは見られない。
「いつも、すまないな鎺」
それが何に対する謝罪か分かったみことは、気にするなとばかりに静かに手をあげた。ではまた、と笑顔と共にみことは印を結び、区堂の前から消えた。
「――本当にすまない」
しんと静まり返った空間で、区堂は心痛な面持ちで雲ひとつない空を見上げた。
