カグラバチ
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ふわりと空気が揺らいだ。
京羅は背後に立つ人物に対し、手に玄力をこめ振り向く。殴った手応えがない。だが空を切ったわけでもない。京羅の手は、何か壁があるかのように遮られていた。
結界術と判断した京羅は、ならばと次の手を考えつつ、鋭い視線を向ける。
そこにいた人物に、僅かに息を呑んだ。思わず、攻撃の手が止まった。
「……みこと?」
「お久しぶりです。京羅さん」
みことは結界術を解き、恭しく頭を軽く下げた。今まで何をしていたのか、なぜここにいるのか――みことにぶつけたい疑問が目まぐるしく京羅の脳内に駆け巡る。だが、みことの腕におさまっているものに気が付き、聡明な京羅は全てを察した。
「父に、か」
「はい」
頭を上げ、京羅に微笑んだみこと。手にしていた花束を大事そうに抱えて告げる。以前よりも、ずっと静かな顔をしていた。
「私にとって、宗羅さんは師のようなお方でしたから」
これを墓前に、とみことは京羅に差し出した。
「私を運び屋にするとは」
「家、知りませんし」
漣家の墓地は、本家の地下にある。裏社会に生きる漣家は結界で隠されており、場所は漣家しか知り得ない。だが、京羅は僅かに眉を上げた。
「君が本気を出せば、すぐ見つけられるだろう?」
「これ以上言わせないでください」
真っ直ぐに告げるみことに、京羅は無言で差し出された花束を受け取った。
無事に受け取ってもらえたことに安堵したのか、みことは微かに息を吐いた。花束を眺めながら、京羅は郷愁を込めて告げた。
「もう、会うことはないだろうと思っていた」
「今日だけです」
みことはどこか寂しげに告げる。京羅はそんなみことを見つめた。
目の前に立つ人物の顔に、もはや幼さはない。あれから随分と時が経ったものだと、京羅は無意識に目を細めた。
「父さん」と、どこかから京羅を呼ぶ声が聞こえた。どうやら探しているらしい。
「……今のは、宗也くんですか?」
「ああ。早く去るがいいみこと。私に鞘をはなたせないでくれ」
「私もですよ、京羅さん。では」
寂しげに笑ったみことは最初の時のように、頭を下げ一陣の風と共に消えた。
相変わらず玄力操作に淀みがない姿に、京羅はため息をこぼした。
京羅は手に残った花束を見つめ、そこに宿るみことの意思の重みを感じた。ただの弔いではない。ここに込められたのは、みことなりの線引きだった。
「最後まで、威葬を警戒していたな」
みことは去るその瞬間まで、京羅の手を警戒していた。――当主となった自分はもう威葬を使えないのに。
幼い頃、共にいた時間は決して多くはない。だが、京羅の威葬で何度か吹っ飛ばされたことを、今も覚えているのだろう。
二十年近くも前の話だ。
かつて漣家と関係が深かった家に、みことはいた。その家の当主の息子と年も近かった京羅は、交流の場にいたこともあった。だが、ある日突然お家壊滅の報が入った。京羅はその騒動で、みことも亡くなったと思っていたが、どうやら生きていたようだった。
生きていたことにどこか安堵をしたが、以前よりも陰りが増したように感じた。
あのみことのことだ。楽座市をよくは思ってはいないだろう。だからこそ互いに、最後に牽制をしあった。
何者かが、さりげなく人死が関わることだけ介入している気配を、京羅は感じていた。だが商品となる前の介入であり、楽座市の遂行自体には介入していなかった。ギリギリのラインであるため、京羅も大きく調べる事はしなかった。
――お互いがお互い、積極的に潰しにかかるような事態はずっと避けていたということか。
どこか納得したように、瞑想の時のようにそっと目を閉じた。
三つの足音がこちらに近づいてきた。京羅は息をつき、目を開けた。
その足音のもとに京羅も歩を進める。伯理と天理を連れた宗也が、こっちだとばかりに合図をしながら声をかけてくる。
まだ涙で目を腫らしている伯理が、やってくる京羅の手にしているものに対し、素直に疑問を告げた。
「父さん、それは?」
「ああ。古い友から、受け取ったものだ」
おじいちゃんに届けに行こう、と息子の手を引いた。
ふと吹いた風に、みことから託された花束が静かに揺れた。
