カグラバチ
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君まだ子供だろう?ここはね、一人ではダメだよ。
番頭に言われ、摘み出された。
双城は入り口を睨んだ。睨んだって開きはしない。分かっているが、この苛立ちをおさめる方法がなかった。
――仕方ない。違うところに行くか。全く納得はしていないが。
双城は肩を落とし、踵を返そうとした。その瞬間、背後から声がかかった。
「君、もしかしてここに行きたいの?」
振り向いた双城が目にしたのは、腰を屈め、己と目線を合わせて首を傾げている女だった。
「誰だ、アンタ」
「ただここのお風呂に入りにきた客。何か君が、今にも刺しそうな目で銭湯の入り口を見ていたから」
つい声をかけてしまったと告げてくる。確かに彼女の腕には桶とタオルといったお風呂セットがあった。
突然のことに双城が黙っていると、一人かどうか聞かれた。微かに頷くと、あーっと察したように笑った。
「一緒に行く?」
そう言われ、双城は顔を輝かせ、二つ返事で頷いた。
先ほどの番頭がこちらをチラリとみたが、一緒ですと告げたことですんなり通してくれた。
彼女はじゃあねとひらり暖簾をくぐり、お礼を告げる間もなく去ってしまった。
ぽつり残された双城も暖簾をくぐり、脱衣所に入る。中は誰もいなかった。
――俺だけの風呂だ!
双城は歓喜した!
はやる気持ちを抑えながら、服を脱ぎ丁寧に畳む。
ガラリと中に入り、湯煙と共にかけ流しの湯音が双城を出迎えた。誰もいない銭湯。双城は口角を上げずにはいられなかった。
微かに鼻歌を交えながら丁寧に体を洗い、湯船につかる。
――最高だ。
体が湯に溶け出すような感覚を覚えながら、目を細めた。
双城がうつらうつらとしている中、ガラリと誰かが入ってきた。
「おおっほらみろ!誰もいないな!」
「ちょいとは隠しや!刀丸見えやんけ!」
「二人とも、いくら人がいないからって騒がない」
――チッ。騒がしそうな奴らがきたな。
双城はちらりとそちらに目を向けた。年若い三人組がワイワイ騒ぎながら体を洗っている。
体を洗うだけなのにどうしてあんなに騒げるんだと、双城はある意味で感心した。
湯船にやってきた彼らが双城の存在に気がついた。
「……ん?おっ、子供がおったわ。大人しゅうしとるな!」
「おう坊主!一人で偉いな!」
「ごめんね、騒がしくして」
「全くどっちが子供か分からへんなぁ!」
「「お前が言うな!」」
双城は全く返事をしていないのに、勝手に会話を続けて盛り上がっている三人に驚いた。
思いのほか長く浸かっていたこともあり、双城は頭を下げ、風呂を出ることにした。
色々とあったがやはり風呂はいいなと思いながら、髪を乾かした双城はご機嫌で暖簾を潜る。
風呂上がりの牛乳を買うかと辺りを見回す。
ふと、入り口で助けてくれた人物がいるのを見つけた。
風呂上がりの微かに湿った髪を垂らしながら、何やらメモのようなものをとりながら頭を悩ませている様子だ。
声をかけようかと思ったとき、風呂の出口がガラリと開いた。
先ほどの人物たちが出てきたのか、辺りは賑やかになった。
彼女がふと顔をあげ、驚いた顔をした。双城は己に気が付いたのか?と思ったが、彼女の視線は自分の後ろ、僅かに上の方を向いていた。
「あれ、みんな何でいるの?」
「みことーきとったんかぁ!」
大きな声を出した男が、みことと呼ばれた彼女に手を振っていた。
双城は彼らと知り合いだったのかと驚いた。
「みことが言ってた通り、いいお湯だったよ」
「何必死に書いているんだ?」
「ああ。この術、何か応用できないかなって思ってさ」
「相変わらずオタクしているな」
みことが手にしていたものを、風呂場で陰部を隠さず堂々とうろついていた男に見せている。彼女は何か研究をしているのだろうか、と双城は思った。
声の大きい二人と会話しているうちに、一人の男が徐に飲み物を売っている場所に行き、声をかけた。
「牛乳飲むけど、みんなは?」
「私はもう飲んでる」
「まぁたフルーツ牛乳飲んでるのかよみこと」
「お風呂上がりのフルーツ牛乳は格別でしょ!」
そう言いながら、各々が飲むものを話している。風呂上がりのフルーツ牛乳は格別、なんだかわかる気がした。やはりあの人はいい人だと勝手に双城は思った。
ふと、みことが双城の存在に気がついた。突然のことに双城は肩がはねた。
「あれ。君?」
「さっきの子じゃないか」
「ん?みこと、知り合いか?」
「みんなこそ」
かくかくしかじかと、みことはそれぞれの飲み物を取り出しながら説明をした。なるほどなぁと感心しながら男たちも風呂で会ったことを話しつつ、飲み物を手にした。
みことは最初に出会ったときのように腰を屈め、双城に何かを差し出した。
「騒がしかったでしょう。ごめんね。これお詫びと言っては何だけど」
みことが差し出していたのは、フルーツ牛乳だった。
フルーツ牛乳は半ば押し付けられるように、双城の掌に収まった。
「ありがとう。俺も、フルーツ牛乳好き」
「おっ、君は将来有望だねー」
みことはニカリと笑った。そろそろ行くかと、彼らが声をかけ、みこともそちらに向かおうとしていた。
双城は咄嗟に、みことの服を掴んだ。驚いた瞳が双城を見つめる。
「さっきも、助かった」
ありがとうと、まっすぐに目を見ていった。
みことはどういたしまして、と嬉しそうに双城の頭を撫で、去っていた。
双城は貰ったフルーツ牛乳をしっかり握り、蓋を開けた。
どこか落ち着かない気分で、フルーツ牛乳をあおる。熱った体に、甘さがじんわりと沁み渡っていった。
――お湯活はやはり最高だ。
双城にとって、風呂上がりのフルーツ牛乳が恒例になった。そんな日だった。
