カグラバチ
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昼下がりの六平邸。
「あ。みこともちょうど来ていたんだね。丁度よかった、これ」
やってきた薊が、先に訪れていたみことの姿を目にとめ、持って来ていた本をとりだす。神奈備本部第二層にある本の一つだった。
「おっ、ありがとう助かる」
「けど何でこの本を?みことは書庫のやつ全部頭に入っているだろう?」
「チヒロ君のお勉強に使うのよ。いやーこういう時に、本部に入れないの困るなーって思うわ」
困った困ったというように肩をすくめるみことに薊がため息を溢した。
「結界の条件を書き換えればいいじゃないか。もう今更、どうこう言ってこないだろう」
「いや絶対色々言ってくる」
――それに、という言葉を最後に、目線を落としみことは言葉を詰まらせた。
そのみことの様子を見て、薊はバツが悪い思いを抱えた。
「……悪かった。この話はもうやめよう」
「そうだね」とみことは千鉱に薊から受け取った本を渡す。さりげなく左側に差し出してくれる。千鉱はその本を受け取りパラパラと眺めた。難しそうなことが書かれている。
「よし。じゃあチヒロ君、今日はこの本の内容をやろうか」
ほら座って座ってと千鉱のために椅子を引き、みことは隣の椅子に座った。
あ、まただ。千鉱はふと心に思う。
「みことさん、よろしくお願いします」
よーしいっちょやるかーと腕まくりをしたみことがいうと、僕も一緒にやるよと薊も椅子に腰をかけた。
今日も勉強が始まった。
また別の日のこと。
「ほいチヒロ君。これお土産。ちょうどいいものがあってね」
そう言い渡されたものを手に取り、千鉱はあっと声をあげた。みことがお土産用に持ってきたのは、左利き用に作られている道具だった。
「ありがとうございます」
まただ。そう思いながら千鉱はみことに感謝の言葉を送った。
思い返せば、いつも食事の時や料理を教えてくれる時、みことは自分の右側にいたりした。玄力操作や結界術といったものを教えてくるときも、いつも千鉱がやりやすいような位置にいた。
それに、実戦とばかりに手合いをしたときは、これでもかというくらい左利きの弱点をついてきたりした。
――みことさんは左利きの扱いに慣れている。
千鉱はその事実に気がついた。
本人はほぼ無意識にやっているかもしれない。それくらい自然に気遣いをしてくれている。己に変に気遣わせたくないのかもしれない。過保護と言ってもいいくらいみことは己に甘いのもまた、千鉱は自覚していた。
本人に直接聞くのが何となく憚れ、後日やって来た柴に千鉱は尋ねた。
なんでも周囲の大人曰く、小さい頃に道具を握り扱う動作がぎこちないことから、千鉱が左利きなのではと最初に気がついたのもみことだったという。
「みことさんって、左利きの人が身近にいたりしました?」
「左利き?あー……うーん……まあ、せやなぁ」
「柴さん?」
どこか遠くを見つめながら珍しく柴は言葉を濁した。
これ以上聞いても無意味だろうと早々に判断した千鉱は、以前から気になっていたものを聞こうと話題を変えた。
「みことさんは柴さんや薊さんと違って神奈備に所属していないんですか?この前、薊さんとの会話で本部に入れないとか何とか言っているのを聞きました」
「ああ。みことは準職員みたいなもんやな。持ち前の玄力操作や結界術を神奈備の若いもんに教えたりしとるけれど、神奈備には属さず基本フリーで色々やっとる。あと、本部に入れないっていうのは、結界の関係やね」
「結界?」
「神奈備本部の結界の条件に、結界内にみこと自身は入れないといのを組み込んどる」
「特定の、特に結界をはる術者が入れないというデメリットをつけることで、よりその結界が強まる、ということですか?」
「さすがチヒロ君」
柴がその通りとばかりに指を立てる。
「……まあ結界自体は別の者が管轄しとるし、神奈備のジジババだけで十分強固なんははれるんやけどね」
現に今はみことのその条件がなくても問題なく結界がはれる。手を頭に置き上を見ながら、柴はせやけどと言葉を続ける。
「神奈備上層部のジジババの中にはみことをあまり本部に近づけたくないと考えとる者もおる。それに、結界条件に関してはみこと自身も望んだこと。俺や薊からしたら何やねんと思うねんけど、最悪の利害一致ってやつやな」
柴が吐き捨てるように告げた内容に千鉱はいささか驚く。本部に何かみことと密接なものがあるのだろうか?更に分からないことが増えた千鉱は、柴に尋ねようとした。
千鉱が声をだそうとしたと同時に、扉が開く。
千鉱は口を閉じ、扉の方に目を向けると、僅かばかりに目を見開いた。そこにはいつもの能天気さのない真剣な表情の父――六平国重がいた。
「柴」
真っ直ぐに柴を見つめ告げたのは、たったの一言であったが圧を感じた。
「喋りすぎたで!」
大きな声を上げ降参とばかりに両手を挙げる柴に対し、全くお前ってやつはと、六平は呆れるように腕を組んだ。ため息を溢し、千鉱に目を向ける。その眼差しはいつもの父の目だった。
「千鉱。明日も早いからな、もうそろそろ寝なさい」
「……はい」
おやすみなさい、と挨拶を交わし、柴にお礼を告げて扉に立つ父の横を通った。
扉が閉まり、部屋で何か柴と話をしている様子がうかがえる。気にはなるが、聞いてはいけないだろうと言い聞かせ、千鉱は静かに寝室に足を運んだ。
