不動峰の日々
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「峰子ちゃん、昨日ぶり!」
「杏さん。おはようって時間じゃないけれど、おはよう。昨日ぶりだね」
「クラス違くて残念ー。よかったら一緒に帰らない?」
「うん。是非」
今日の不動峰1年は転校生の話題で持ちきりだった。橘杏さん。明るくて可愛くて、人気が出るのも頷ける。
相変わらず杏さんの右腕には黒いものが付いている。それをちらりと見つつ、昨日準備した言葉を紡いだ。
「あの。もし杏さんが良ければ、引っ越しのお荷物の整理とか手伝おうか?一緒にお話もしたいし」
「えっいいの?!実はまだ少し荷物残ってて。私も一緒にお話ししたいし!お兄ちゃんも、峰子ちゃんがゴクトラ好きみたいで仲良くしたそうだったから!」
嬉しいという雰囲気を前面に出しながら笑いかけてくれる杏さんに、心が少しばかり痛んだ。
じゃあこの時間にと集合時刻を決めて一旦解散をする。別れ際も、楽しみと明るく笑顔を向けてくれた。家に上がるための言い訳に申し訳なく思う。
けれど、杏さんや橘さんとお話しして仲良くなりたいのは本心でもある。
心の中で少し謝ってから、準備をして杏さんの家に向かうことにした。
「きっとあの部屋のどこかにあると思うんです。特徴、もう一度お伝えした方がいいですか」
「大丈夫。行ってくるよ」
「お願いします」
ひそひそ話で玄関にて幽霊さんと別れ、橘家に入る。
目的の部屋は杏さんの部屋のすぐそばだった。杏さんと話をしつつ、荷物の整理を手伝った。
杏さんが出た合間に、目的の部屋に移動し探す。それらしきものが挟まりそうな場所。
「……あった」
特徴と一緒のネックレス。
隙間に挟まっており、よく探さなくては見つからない場所だ。今まで見落とされていたのも頷ける。
私はそのネックレスを握りしめポケットにしまった。
杏さんが戻ってきて、お話をしながら平然を装いつつ片づけをしていった。
「ありがとう峰子ちゃん。ちょっと休憩しようか」
そう言ってグッと体を伸ばす杏さん。
話をしていく中で、本当にいい子であることが分かる。私も伸びをしつつ、気になっていることをやってみることにした。
「杏さん。ちょっと右手をみせて」
「え?右手?いいけど、どうしたの?」
「まだ、重い?」
「……うん。なんだろうねー。見た感じは全然腫れていないのにさ」
そう言って見せてくれる右腕。
これをやったら、気味悪がられるだろうか。
けれど、ネックレスが見つかった今、この家にあがる必要ももうない。
騙すような形で家に上がらせてもらったお詫びも込めて、私は杏さんの右手の黒雲を指で弾くように払った。すると以前のように雲は離れ、空気に溶け込むように霞となって消えていった。
ー―よかった。
ホッとした私は、杏さんの方を見る。
杏さんは驚愕の顔をしている。
ああ、やはり気味悪がられてしまうか。そうだよな。
この後くる言葉は分かってる。私はそっと目を閉じて離れようとした。
だが、杏さんがそれを許さなかった。グッと手を引かれ零れんばかりの大きな目を更に大きくしている。
「す、すごい!何なに?!急に右手が軽くなった!!峰子ちゃん!何したの?!ありがとう!!すごい!」
「え?!」
瞳を輝かせて告げられた言葉に、今度は私が目を白黒させた。
私が答えに詰まりながら、おまじない?みたいなことを言うとより一層笑みを深めありがとう!と大きな声で言われた。
「き、気味悪くないの?」
「なんで?!すごいなって思う!気味悪いなんて全然思わないけれど」
「……ありがとう」
「え、なんで峰子ちゃんがお礼言うのー」
あっけらかんとしている杏さんの態度に、胸につかえていたものが一気に取れたような感じがした。肩の力が抜ける。
私は微かに鼻の奥がツンとしながら、ポケットに入れていたネックレスを杏さんに見せた。
「これ、部屋に落ちてたんだ。隙間に挟まっている感じだったんだけど、橘さんの?」
「何これ?ネックレス?……うーん、初めて見るわ。お母さんのでもなさそう」
「隙間に挟まっている感じだったから、前の人のかもしれないね。私、届けてくるよ」
「いやいや。うちでやるよ!遠くかもしれないし。個人情報とか今の時代は煩いし」
「た、確かに」
ちょっとお母さんに伝えてくるねと杏さんが部屋を出ていった。杏さんが不在の間、玄関に待つ幽霊女性さんにこっそりネックレスを見せに行った。
「これです!ありがとう。ありがとう」
そう言って幽霊女性さんは花が咲くように笑った。
*******
「峰子!やっぱり前の住人の方のものだったみたい。なんでもすごく大切で、ずっと探していたんだって。お礼言いたいから会いたいだって!明後日家に来るみたいなんだけど、峰子に来てほしい」
「私?いやいいよ」
「そう言わないの!私もお兄ちゃんも峰子と話したいし!ゴクトラも待ってるよ」
「はは……」
「なんとお兄ちゃんが腕をふるって炒飯作るって」
「ぜひ行かせてください!桔平さんの料理!」
「ふふふ」
あれから名前の呼び方も変わり、橘家に足を運ぶことが途絶えることもなかった。
ゴクトラ君になぜか気に入られ、飛びつかれるのは勘弁してほしい。
「峰子さん、ありがとう。まさか娘の顔ももう一度見れるなんて、思ってもみなかった。本当にありがとう」
ネックレスをご家族の方に渡した日。そう言って幽霊女性さんは娘さんを見守りながら光となった。
ーーありがとう。
その一言は私の心も救ってくれた。
私にしかできないこと。
私が幽霊を見れる意味。
きっとそれには意味があるはず。今まで無視をしていた自分を恥じた。
大切な友人に伝える勇気を持てない私は、まだ弱いけど。いつか、橘兄妹に伝えられたら、とも思う。
この件以降、私は幽霊を見かけたら無理のない範囲で願いを叶えるようにした。
変わったことをしている子といった目で見られることもあるが、それなりにやっている。