不動峰の日々
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『橘』と書かれた表札の前で佇む私と幽霊。
「ここなの?」
「そうです。私はここまでしか行けなくて。中に入れません。何とか住人の人に声をかけたり触れたりしてみたけど、うまくいかなくて」
門前でどうしたものか逡巡していると、庭にいる犬がこちらに気が付いたのか向かってきた。
そして唸ってくる。え、ショックなんですが。いやけどまあ不審者ではあるのかもしれない。しかも大きいから地味に怖い。
「この犬さんは私が何となく見えてそうなんです。犬や猫ってやっぱり敏感なんですかね」
青い顔をしているであろう私の隣で、そんなのんきなことを感心したように呟く女性。
確かに犬は、私というよりも隣の幽霊女性さんに向いている気がする。
「こらゴクトラ!何唸っている。……ん?」
窓から顔を出したのは此処の住人らしき人物。眉間に黒子がある男子だった。
門前に佇んでいる私に気が付き、頭上に疑問符を浮かべているような表情をした。
「その制服、不動峰中か。杏の知り合いか?」
「え。あー……。えーっと。その、橘さんですか?」
「?ああ、そうだが。ここからでは失礼だな。待っててくれ、今そっちに行く。ゴクトラー、静かにするんだぞ」
そう言って彼は窓から姿を消した。見た目は強面だが、悪い人ではなさそうだ。
「ゴクトラってすごい名前ですね」
「うん、思った」
相変わらず幽霊女性さんはのんきだ。
そうこうしているうちにバタバタと足音がし、扉が開いた。先ほどの人物が顔を出した。
「あ、私。不動峰中学の不動峰子って言います」
「おう。俺は橘桔平だ」
唐突な自己紹介。完全な不審者だ。気まずい。作戦もっと考えてくるべきだった。
「とりあえず中に入らないとですね」
そうは言うが女性よ、いきなり現れた見知らぬ人を家に上げるってめちゃめちゃハードル高いぞ。
「……不動峰は転校生にわざわざ挨拶するのか?」
あたふたしていると橘さんが首を傾げながら尋ねてきた。ん?転校生?そういえば今日の帰り道に転校生がくるって友人たちが言ってたな。
「橘さん、転校生だったんですね。いや、そんな文化はないです。ただ、その。ワンちゃんが可愛いなぁなんて思って!」
はははと笑うが、表情が引きつっていないことを全力で祈った。苦し紛れな言い訳だ。
「そうか!だよな、ゴクトラは俺も杏もお気に入りでな。人によっては怖すぎると近寄りがたい様だが、人懐っこい可愛いやつなんだ」
そういってゴクトラ君をなでる橘さんは完全にムツ〇ロウさんだ。
「お兄ちゃん、なにしているの?」
「杏。帰ったか。そういえば、この子はお前の友人か?」
後ろから声がし振り返るとオカッパ頭の可愛い子がいた。お兄ちゃんと呼ぶということは、橘さんの妹さん。先ほどから橘さんが杏といっていたのは妹さんのことだったのか。
そう納得しながら彼女の方を見る。
彼女はいや知らない子と、橘さんに返事をしている。内心焦りながら何か言い訳を考え彼女の方を見る。
彼女を見て、ぎょっとした。
彼女の右手には黒い雲のような塊が巻き付いていた。
「あの。右手、大丈夫?」
「へ?右手?なんで右手痛めているの知ってるの?」
「痛めているの?」
「なんかこの前、何かに掴まれたような気がして体勢を崩してしまって。それで転んだ時に打ったのか。腕が重いのよ。それに、最近門を通るたび、なんか触れられたりするかんじが家族みんなあってね」
「おい。杏。初対面でそんなことを言うもんじゃないだろ」
「そうね。ごめんなさい。あなたも、ごめんなさいね。家族みんな引っ越したばかりなのに、そんなんでちょっと参っちゃってて」
「いえ。そうなんですね。あ、私、不動峰子って言います。不動峰中学1年です」
「1年生!なら私と一緒ね、嬉しい!私、橘杏。よろしくね」
そう言いながら握手する橘さんは明るい子、という印象が強かった。その瞳の奥には疲労のようなものを微かに感じる。
橘さんが妹の橘さんに私がゴクトラ君をかわいいと言ったことを自慢気に話していた。橘さんも喜んでいる。
「あの。また来てもいいですか」
「もちろん。いつでも来て。明日から私たちも学校に通うことになるから仲良くしてくれたら嬉しい」
「うん。よろしくね橘さん」
橘さんなんて硬くならなくていいよ。杏って呼んで、といってくれる彼女はどこまでも明るかった。
いったん今日は此処で引き上げることにした。あれ結局何しに来たんだ
みたいな雰囲気に僅かになりそうになったため、私はそそくさと去った。
「あのお嬢さんの右腕。私のせいです」
橘家を離れてから、申し訳なさそうに幽霊女性さんが言う。
「あの方々が言っていた。触れられる感じは私が、必死に気が付いてほしくて触っていたんです。本当に必死で。悪気はなかったんです。気が付いてほしくて。一緒に探してほしくて。まさか、あんな影響が出てしまうなんて」
触れても害はないと思っていたが、わずかな感覚は相手に与えるみたいで、特に強くつかんだりそこに念が強くこもると、黒い霧や雲のようなものになって纏わりついてしまうのだろうか。
あの黒い塊は昔ふよふよ漂っているのは見たことある気がする。適当にはじくことができたが、今もできるのだろうか。
「うん。明日。橘さんのお家もう一回行ってみるよ。それで探してみる」
「ありがとうございます」
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