PokémonSS
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「ナックラー、もうすぐ七夕だよ。え?知らない?ほらこれ。この短冊に願い事を書いてね、笹に飾るの。天の川を挟んだ向かいに、それぞれ織姫様と彦星様がいてね。橋が架かって会えるのは、一年に一回なんだって。その日が七夕。え?なんで一年に一回なのかって?よくぞ聞いてくれました。えー、それはですね――」
頭を撫でながら尋ねていない七夕の伝説を語り掛けてくるナマエの手の温もりと声に、ナックラーは心地よく目を細めた。
「今日は、見えるかなぁ。ここ数年、ずっと曇りだったり、雨だもんね。もし雲の先に行ったら、絶対願いが届きそうだよね」
そう言いながらナマエが吊るした短冊を、ナックラーはじっと見つめていた。
ナックラーは顎を動かし、ナマエの服の裾をそっと引っ張った。自分の背中を、足元にきゅっと押し付ける。
「ん? ありがとう。もしかして慰めている?」
ナマエが嬉しそうに微笑み、再び頭を撫でた。その手の温もりが、どんな星の光よりも、今のナックラーには温かかった。
☆
「あっ。まーた、そんなとこ行って」
そう言いながら、ひょいっと掴み抱っこする。
ただでさえ、キラキラしているような瞳が更に輝きを増している。うるうるした瞳で見られても、最近はもう騙されないぞ。
「毎度毎度、あんな高いとこに……どうやって行ってるの、ナックラー」
呼びかけると、小さく鳴き声があがった。自慢気なようで、どこか悔しさも滲ませている声音だ。ジタバタして全く反省していない様子に、ため息を溢した。
高いところに昇る癖。いつからついたのだろうか。
はじめのころは、ありじごくポケモンの名にふさわしく、地面と仲良くこんにちはしていた。勝手に地面にもぐりこんで、玄関にありじごくを作っていたり。畳み終わった洗濯物にもぐりこみ、ありじごく風の様にされていたり。当の本人はご満悦の表情で、何とも言えない気持ちになった。
ただある日から、短い脚を駆使して、木に昇ったり、洗濯物を干しているときによじよじとのぼってきてぶら下がったりといた奇行をするようになった。
最近はもう、ナックラーって何ポケモンだっけってなっている。
「――やっぱり、あの七夕の日からなのかなぁ」
私がぽつりと言うと、ナックラーがピクリと動いた。
あの、空を見上げて話をした七夕の夜。 あの時を境に、この子の興味は地下から天空へとひっくり返ってしまった気がする。
☆☆
ナックラーの奇行は、ビブラーバに進化しても続いた。
進化をしたら、てっきり奇行も終わると思っていた。
自力でどこへでも飛んでいけるようになったにもかかわらず、ビブラーバは、相変わらず私を驚かせ続けた。
私がベランダに出た瞬間に、背後から音もなく近づいてきて私の背中を小さな脚で優しくがっしりと掴み、そのままフワリと宙に浮こうとした。もちろん、人間一人を持ち上げられるはずもなく、バランスを崩して、洗濯物に突っ込みそうになった。
「ちょっ、ちょっと、危ないって!どうしたの?!」
私がびっくりして尋ねると。ビブラーバが、相変わらずの声音で鳴いた。
何度か私の周りをまわって、空の方に飛んでは私の方に戻ってくるを繰り返している。これはどういう意図か、考えた。
「……え、まさか私を飛ばせたいの?」
当たりとばかりに、身を翻しながら私の周りを飛び回るビブラーバ。ふと、ナックラーが奇行に走り始めた頃を、思い返した。――七夕の日。あの時、私は何を書いただろうか。あの頃は、まだまだ私も子供で、雲の先にある星に思いを馳せて、書いた気がする。だが、それに空を飛びたいなんて書いただろうか。
あの日、曇り空を見上げながら、私がこぼした言葉。
「――まさか、以前私が、もし雲の先に行ったら、って言ったあれ?」
ビブラーバが何度も何度も頷いた。頷きすぎて、もはや身体全体が上下している。
私が忘れていたような言葉を、この子はずっと覚えていたらしい。
「そっか、そうだったのか」
ビブラーバが嬉しそうに羽を激しく震わせた。その姿に、思わず私は声を上げて笑った。
「ありがとう」
この頃は、毎度毎度、フライゴンがひょいっと私を背中に乗せて、嬉しそうに自慢げに鳴く未来が来るなんて、思ってもいなかったけれど。
☆☆☆
立派な羽を広げ、大空を飛ぶフライゴン。あの七夕の夜、小さな短冊の横で誓ってくれた、不器用でまっすぐな願い事が叶っていた。
頬を撫でる風が心地よく、ナマエは思わず目を細めた。
地上からは想像もつかない、圧倒的な星の世界が広がっていた。遮るものが何もなく、煌めいている。
一年に一度しか会えない織姫と彦星も、きっと毎年幸せに巡り会えている。ナマエは、どこかそう思えてならなかった。手を伸ばせば届きそうなほど、近くに流れている天の川に、思わず感嘆のため息を溢した。
背中越しに感じ取れる主の様子に、フライゴンは自慢げに、さらに翼を広げた。
歌声の様に響く羽音が、静かに満天の星々の海へと溶けていった。
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