Pokémon短編
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僕の恋人はモテる。人ではなくポケモンに。それも、ドラゴンタイプ。いや、今のは違うな。彼女の人柄もあり、人にも普通にモテると最近気が付いた。我ながら気が付くのが遅すぎる。
愛する人が他からも好感を持たれるのは嬉しいことでもあるのは分かっているが、僕にも独占欲というものはあるらしく、面白くないことでもある。彼女は、はじめはひっそりといてあまり目立たないような存在でいるのに、いざ関わりを持ってみて関係を深めるうちに、皆どんどん惹かれていく。ダイヤモンドの原石のように、磨けば磨くほど、彼女は美しくなっていくのだ。底なし沼かというくらいだ。そんな人たらしであるのもまた事実。恋人の僕としてはあまりよろしくない事実だ。
この前だって、特に用もなさそうなのに、ホウエンにたまたま寄ったからという理由で、カントーとジョウトのチャンピオンであるドラゴン遣いが彼女に会いに来ていた。今までそんなことあまりなかったのに、ここ最近明らかにホウエンにたまたま来すぎだ。そもそも彼と接点があったことすら驚きだった。シンオウチャンプや国際警察らとも友人であることといい、意外な接点に驚きを隠せない。どこで知り合ったのか聞いたら、たまたまフスベシティに行ったときに、野生のドラゴンポケモンと戯れていたら話しかけられたとか何とか。てっきり一匹二匹と戯れていたのかと思ったが、まさかの群れかというレベルの数と戯れていたと後日知った。
人たらしでドラゴンたらし、それが僕の恋人であるなまえだ。
なまえのパートナーはガブリアス。フェルム地方のグランドマスターであり続ける彼女の大切な相棒。本当によく育てられているとガブリアスを見る度に思える。ガブリアスが相棒だからドラゴンタイプに好かれるのか、ドラゴンタイプに好かれるからガブリアスが相棒なのか。共に流星の滝に行くたびに、どこからともなくタツベイが現れるのを繰り返し、他の場所でもドラゴンタイプが、気が付けば後ろにひょこひょこついてきていたりする。ドラゴンタイプが好きなフェロモンでも出ているのかと、一度真剣に尋ねたら笑われたものだ。
なぜ今こんな話をしているかって?うん。いい質問だよ。
「で、今度は何をたらしこんだの?」
「だから!違いますって!」
ただいま、と帰って来た彼女の後ろにいたのは見知らぬ男。目の下の隈や痩せた頬、顔色が明らかに悪い、というより失礼を承知で言うと人相が悪い。だが、どこか底知れなさを感じる。
なまえ曰く、さ迷っていたから連れてきたと。怪我をしているようなポケモンを連れ帰って一時的に保護して野生に返していることは今までもそれなりにあったが、人間を保護してきたのは初めてだ。今すぐ返してきなさいなんて言えない。普通に友人の国際警察に保護して貰った方がいいんじゃないかと思う。
「それで、君は一体誰だい?」
「アカギさんですよ」
「何でなまえが答えてるの」
アカギと呼ばれた男はどこを見つめているのか、心ここにあらずといったかたちで茫洋としている。なまえが無理くり連れて来たなこれは。
「もういいだろうなまえ。やはり、もう行く」
「行くって、またあそこに戻るんですか?!」
「ああ」
「ダメです!」
「ちょっと二人とも。とりあえず、中に入ったら?」
玄関でいさかいを始めた二人をなだめ、中に促す。アカギは踵を返そうとしたが、なまえが腕を引き中に入れていた。どこかなまえが必死な感じに、何かあるのだろうかと思えてきた。
とりあえず中に、ということで大人しく椅子に座っている。紅茶を淹れたなまえがアカギという名の彼の隣に座った。机を挟んだその向かいに僕がいる。なまえが改めてそれとなく他己紹介をしている。
いったいどうしようか、と様子をうかがっていると、突如なまえのポケットから声が響いた。
『なまえ、電話ロトー!ニアからロト!』
「え、ニアさんから?!ごめんなさい、ちょっと出てくる」
フェルムリーグの開催のことかな、と言いながらなまえはスマホロトムと共に部屋を出ていった。部屋には僕とアカギの二人きり。微妙な空気だ。彼がなまえの出ていった扉を見ている。いや、彼が見ていたのはなまえというよりも、
「スマホロトムが気になりますか?」
「……ああ」
扉を見ていたアカギがこちらを向き、何故分かったという風に眉を微かに上げた。やはり、そうだったか。
「興味のあるものや好きなものの前では、どんな人も同じような顔つきなるからね」
「そうか」
バッサリときられて終わる。会話は終わりだ、とでもいうような雰囲気だ。困ったものだ。なまえ早く帰ってきてくれ。
何か会話をするべきか、それとも僕も席を立つべきか。逡巡していると、アカギがこちらに試すような視線を向けて来た。何だと思い僅かに首を傾げる。
「……お前は、親からの、周囲からの期待というものをどう捉えている?」
「僕かい?」
突然の質問。先ほどなまえが軽く紹介した時にデボンコーポレーションの御曹司だとも伝えていた。そのことを踏まえての質問だろうか。
「僕が恵まれた環境で育ったのは紛れもない事実だ。アドバンテージがある分、周囲からは当然期待される。以前の僕は、常に完璧であろうとした。チャンピオン、御曹司、周囲が望むダイゴという姿。けれど、それは違うと気が付いた」
逡巡し、ポツリポツリと語る僕をアカギがじっと見ている。
「僕は常に完璧なダイゴであれ、と己に言い聞かせていた。肝心な時に何もできず己の使命を果たせなかった自分が許せない中で、各地を旅していた。そんなときに、僕はなまえと出会ったんだ」
「なまえに?」
「今の自分が未来の自分に誇れる姿であるかを大切にしたいとなまえは言った。それにね、なまえは常に完璧でなくてもいいと言った。完璧は逆にそれ以上の成長がないからと。人は失敗を繰り返して、そこから成長をしていくものだと思うと」
この話は、本当に何気ない会話の中で行われたものだった。けれど、その言葉が当時の僕にとってはとても衝撃を与えた。そして、気付かせてくれた。
自分こそ己の寄る辺だ。
「周囲が望む姿を演じるのではなく、自分自身がどうありたいか。それを考えたとき、僕は僕の考える姿で、期待に全力でこたえられるように成長していきたい、そう思えたんだ」
それが僕の誇りに繋がる。そう告げると、そうか、とアカギはポツリと呟いた。あまり答えにはなっていない気もするが、以前はただただ重圧に感じていた期待というものが、今は圧も含めて誇りとなっている、その事だけでも伝わっただろうか。彼の中で何か思い当たることでもあったのか、その瞳に郷愁の念を感じた。
「なまえともっと早く会えていれば、私も変わったかもしれない」
「?」
アカギがどこか遠くを見つめるように告げる。ここに連れてくるまでに、なまえと一体どういう会話をしたのだろうか。だが、彼女のことだ。彼の様子から考えて、きっと何か彼の琴線に触れるような関わりをしたのだろう。
「私は、自身の過ちを償わねばならない」
それからアカギは手を組み、目の前にある紅茶を見つめ言葉を溢した。まるで何かに祈るような雰囲気だ。
「やり直すことに、遅いなんてことは無いと僕は思う。貴方が何をしたのかは分からないし、あえて聞くつもりもない。確かに行ったことの事実は消えない。けれど、それをいつまでも嘆くことは何も変わらないし、寧ろ新しい不幸の始まりでもある。それを背負い、己のできることを一つずつしていく。それが、過ちを犯した僕たちのやるべきことなんじゃないかな」
「たち、だと?」
お前も何かをしたのかというような眼差しを向けられる。僕は静かに頷いた。
「僕は、この世界を守るために意図しなかったこととは言え、別の世界を消す寸前までいった。挙句、年若いトレーナーにすべてを託すことになってしまった。己の無力さを痛感したよ。視野が狭かったんだ。ある人の言葉を借りれば、想像力が足りなかった。それだけじゃない。会社が使用している∞エナジー、それの元となるものはポケモンの生体エネルギーだ。命は取らないまでも、ポケモンたちの大きな負担になるのは変わりない」
だから、いまは仕事の傍ら、各地を回りながら困っている人々を助けつつ、また別のエネルギーの開発方法を模索している。石探しももちろんしているが。そんな中で、噂を耳にして訪れたフェルム地方。そこで、僕はなまえと出会った。なまえはそんな僕のことを知ったうえで、協力してくれている。チャンピオンや御曹司そういった柵を抜きにして、ダイゴという一人の人間と共に道を歩んでくれている。
僕の話に耳を傾けていたアカギが、何かを考え込むような様子をみせた。エネルギー、と呟いていた。そして何か自分の中で答えが見つかったのか、こちらを見て微かに頷いた。
「なまえから聞いた通りの男だな」
「え。それ、ちょっと詳しく聞かせてくれないか」
チャンピオン、御曹司、様々な重圧がある中で一度は大きな挫折も味わっている。けれど、それに屈することなく寧ろそれを糧として努力を重ね、誇りをもって自分で切り開いた道を堂々と歩んでいる。そんな真っ直ぐな僕に勇気を貰えていることや、大切に思っていると。
「お前と出会えてよかったと言っていた」
アカギが紅茶を飲み、話は以上だとばかりに息をついた。まさか、なまえがそんなことを思ってくれていたなんて。直接面と向かってはこうストレートに言われることはあまり多くないからこそ、なんだかこそばゆい。あの時、もしフェルム地方に足を運んでいなければ、あの時声をかけていなければ、きっと今の僕らの関係はなかったかもしれない。今まで、どこか常に何かを探し求めていた己の心を、虚しさのあった僕を満たしてくれるなまえ。彼女に出会わないでこれから何年もの日々を過ごしていたとしたら、想像するだけで胸がつぶれる思いだ。
丁度そのタイミングで、ただいまとなまえが戻って来た。どうやら、フェルム地方で再びグランドマスター戦に繋がるリーグの開催が決定したようだ。ガブリアスが嬉しそうにしていると顔を綻ばせながら詳細を告げてきた。アカギはフェルムリーグを知らないようで疑問を浮かべていた。そんな彼になまえが先ほどしたバトルのことだと説明している。誰かと戦ったのだろうか。
なまえから聞いた日時を自身のスケジュールと照らし合わせ確認する。
「その日は僕も行けそうだ。なまえとガブリアスたちの活躍楽しみにしているよ」
「ありがとう。楽しみだなあ。アカギさんも是非フェルムリーグ来てくださいね!」
「……ああ」
アカギが小さく返事をするとなまえは一瞬驚いた表情を浮かべ、笑みを深めた。何なら参加します?なんて笑いかけているなまえに、アカギは返事をすることなく小さくため息を溢していた。
「馳走になった。私は行くことにする」
「アカギさん」
「安心しろ。あそこにはもう戻らない」
あそことはどこだろうか。明らかに安堵した表情を浮かべたなまえの様子からして、元々アカギがいたところは、あまり良くはないところなのだろう。
玄関を出てなまえと共にアカギと向き合う。アカギはなまえをじっと見つめている。
「アカギさん?」
「なまえよ。お前があそこで私に告げた言葉。ダイゴも同じことを告げた。私は、私の行ったことと向き合い、やるべきことを行ってくる。その後、新たな道を歩んでいこうと思う。また、会おう」
「はい!」
「なまえ。そして、ダイゴ。二人に感謝する」
なまえに、幸せになと、告げるアカギ。あんな穏やかな顔もできるのかと感心した。
それから、スマホロトムと何か言葉を交わし、彼はギャラドスと共に飛び立っていった。なまえはその背中に笑顔で手を振っている。
そんななまえの肩を抱きながらアカギを見送り、共に家に戻った。
「なまえ。僕も、なまえに会えてよかったと思っているよ」
「え。どうしたんです急に?……って、その言葉」
部屋に戻り、アカギから聞いた時から伝えなくてはと思っていた言葉をなまえに告げる。まさかと驚きの表情を浮かべるなまえ。そんな表情一つが愛おしい。
「今度アカギさんに会ったら、そういうのは告げないようにと言っておきます」
「僕としてはどんどん口に出して欲しいんだけどね」
「けれど、重い奴と思われそうで」
ダイゴはクールだし、と顔をほんのり赤らめていうなまえ。え、クール?この僕が?
「あまりそういう事、言わないじゃないですか。だから、そういうの、好きじゃないのかなって」
今までの自身の言動を振り返る。
「愛してるって、一日100回くらいは思っているんだけど」
「え。そんな言われた記憶、ないですけど」
え。それって、つまり。今まで心では色々となまえに愛を囁いているが、口にしていないということか?
あれ?あれれ?
「つまり、僕のせいじゃないか!」
「?!」
なんてことだ!自分に往復ビンタを喰らわせたい。てっきり言っていると思っていた。がっしりとなまえの手を両手で握り、その指に口づける。なまえの手がピクリと動いて、顔を見ると頬に軽く朱がさしていた。
「なまえ、愛してる。僕は、君と出会って人を愛することのすばらしさを知った」
「え。ちょっとなんです?!」
「ああ!そういう反応もとても愛しい。普段凛としている君がそうやって見せてくれる色々な表情が、鋼タイプを抱きしめたときみたいでとても愛らしい」
「鋼タイプ……」
「寂しい思いをさせてごめんねなまえ。これからは、遠慮せず僕も全力で思いを伝えさせてもらうよ」
「えっ。えええ?!」
全力って、なんていいながら茫然とするなまえを抱き寄せ、額にキスを落とす。なまえの体に緊張が走ったのに気が付いた。そのまま顎を掬いあげ角度を変えて何度も柔らかい唇を貪った。気が付けば窓の方までなまえを追い詰めている。 なまえが抵抗とばかりに微かに僕の胸を手で押し返してくる。そんな行動一つひとつが僕にじんわりと熱をともしてくる。このまま今日は、なんて考えながらなまえの服に手をかけた。
その瞬間、窓が水面のように揺れ、何か激しい風がそこから吹き荒れた。僕が驚いたその一瞬の隙をなまえは逃さず窓際から抜け出した。
何だと思い、そちらを見ると黒い渦からひょっこり顔をだしているポケモンがいた。
「?!」
「そんなことされたら!心臓が持ちません!」
そう叫びながら、なまえは真っ赤になった顔を覆っている。それから、ありがとうギラティナとひょっこり顔をだしているポケモンに声をかけていた。え、ギラティナって……。お礼を言われ嬉しそうにしているそのポケモンは、フリーズしている僕に誇らしげな顔をしてきた。
ドラゴンタイプに好かれる僕の大切な恋人は、どうやら神と呼ばれし伝説のポケモンまでたらしこんでいるらしい。
それからしばらくしてからのこと。
トクサネ宇宙センターに、ある優秀な一団がやって来た。
彼らの、とりわけその集団の長の卓越した知識と技術でフェルム地方の共鳴という現象を紐解き、デボンコーポレーションと共に新エネルギーの開発が行われることになった。
そして、なまえの元に訪れる人物がまた一人二人と増えていった。けれど、やって来る度になまえが話している僕のことをこっそり教えてくれるから、悪くない。それに、なまえの方から甘えて来てくれるのも少しずつ増えてきている。
僕らの関係も、そろそろ変わる頃合いかもしれない。そんなことを思っていると、連絡が入った。その連絡先を見てなんていいタイミングなんだと思わず笑った。
「はい。……ええ。でしたら、明日とりに伺います。完成品、楽しみしています」
こちらの準備も万端だ。
己とのお揃いのそれを指にはめるなまえを想像して、自然と笑みが零れ落ちた。
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