24 -seasons-
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新年が明け、冬休みも終わりを告げて今日から学校が再開した。四天宝寺中学校の通学路には、派手な髪と相反して肩を落とし明らかに暗い雰囲気を纏い落ち込んでいる人物がいた。それを慰めるように隣で歩きながら肩を叩く生徒の姿があった。
「あーもうアカン!そもそも初夢から、好きな人が死ぬ夢なんて最悪やん。お先真っ暗やー。白石ーどうしたらええんやー」
「元気だし謙也。俺もな初夢、青学の不二くんと河村くんがでてきて一富士二鷹や!とか思っとったら、まさかの3日目は沖縄比嘉中の木手くんやったわ」
「茄子やなくてゴーヤになったんやな」
「ゴーヤがナス科やったらよかったんやけどな」
「いやそもそも一富士二鷹の時点で無理あるやろ」
謙也と呼ばれた落ち込んでいた人物は、隣で励ます白石にツッコミを入れるがいつものキレを欠いているようだ。そのことを白石に指摘されまた頭を抱えている。
そんな騒がしい二人に対し、後ろから呆れたように声をかける男子生徒が現れた。
「財前。明けましておめでとうやな」
「どうもッス。先輩ら新年早々なんや暗いッスね」
「財前に言われたないわ!」
そんなやり取りをしながら、挨拶を交わしていると同じ部活仲間が声をかけてきた。気が付けば、はじめは二人だった登校も今はそれなりの人数がいる。
新年のあいさつの傍ら、再び夢の話になった。謙也が初夢を嘆いていると、財前がふと何か思い当たることでもあったのか、携帯を取り出し何か検索をしていた。目当てのものが見つかったのか、謙也に声をかける。
「好きな人が死ぬ夢は、相手との距離が縮まったり、今よりええ関係に近づくといった明るい未来を示すらしいっスわ」
「えっ?!」
「夢での死は再生とか何とか聞いた気がして調べてみたんスけど、ビンゴでしたわ」
「ホンマか?!」
驚きながらも少しばかり訝し気な様子の先輩たちに対し、ため息を溢しながら財前はほらと携帯の画面を見せる。その画面を食い入るように眺め、ホンマやと皆が口をそろえる。
「やったな謙也。ごっつ御目出度い夢やん!」
「こりゃセツにアタックしかあらへん!」
「いったれ浪速のスピードスター!」
「ちょお待ちや!そ、そないにいきなり」
仲間たちが謙也の肩を叩く。謙也も吉夢だと分かり、嬉しそうな顔をしたが、いざアタックと思うとどこか気恥ずかしさがあるのか頬を赤く染めていた。そんな謙也の様子をまた皆がツッコミを入れるといった堂々巡りになっていた。
そんな中、一人が何かを見つけたのか、あっと声を上げた。全員がその視線の先をみる。
そこには、一人の女子生徒がいた。隣にいる他クラスの女友達と会話をしながら歩いている。
「セツや」
「チャンス到来やで謙也」
「偶然を装って突撃や!」
「いやいやいや!べ、別にクラスで話すから、エエよ」
「何言っとるんや!新年最初に話すクラスメイトを自分にせな」
「それ何の意味あんねん!」
「とにもかくにも!行った行った!」
背中を押され、謙也はつんのめりながら足を進める。
彼女に惚れてからどれくらいたっただろうか。今度こそ、今度こそ、と先延ばしばかりしていた自分に仲間も痺れを切らしているのは何となく察してはいた。
そもそも今日も、以前から白石と話をしてセツと偶然あったように見せかけ一緒に登校するしょうもない算段をつけていた。しかし、結局いざ当日になって勇気を出せずごちゃごちゃ言って回避しようとしていたのだ。
仲間からの応援に加え、先ほどの吉夢の話が背中を押してくれる。いつもよりも勇気が出せそうだ。うまく偶然をよそおえるように自然に彼女に話しかけよう。
なんと声をかけようか。歩きながら、セツに近づきながら謙也は頭をフル回転させる。無難にやはり挨拶か。今年もよろしく。俺と付き合ってください。あああ。センスの欠片もあらへん。それに唐突すぎる。0点や。まずは明けましておめでとう。いや、偶然やなーから始めよか。それから挨拶して……。
ごちゃごちゃ考えているうちに彼女まであと数歩。口がからからに乾く。汗ばむ手のひらを握り、謙也は大きく息を吸い声をかけようとした。
しかし、ふとセツがこちらを振り向き驚いたような顔をしたあと、明るい笑みを浮かべた。
「あれ謙也くんやないの。偶然やね。今日は朝練もないんやな。明けましておめでとう!今年もよろしゅうな!」
まさかのセツに先に言われた。初日の出と同じくらい眩しい笑顔に頭が真っ白になる。後ろで微かに仲間たちの声が聞こえる。笑い声もあるが声援が確かにあった。
「お、おう。偶然やなー」
そう言いながら無難に挨拶をする謙也。明けましておめでとう、今年もよろしく。出鼻をくじかれたが、せっかくやし一緒に行かん?とまたとない誘いをうけ、何とか自然とセツの隣に立つことができた。
校舎に入り、セツの女友達は他クラスであるためまたねと言ってクラスへ向かった。
今は二人きり。無難に年末年始の過ごした日々の話をする。話しをしていてやはり、彼女と過ごす時間は心地いいと実感せずにはいられない。やはり好きだと思いは募るが、どう切り出すのがいいのか。変に失敗して今のこの関係が崩れるのも怖い。そう思う自分を叱咤しつつ、どうしようか謙也は頭を悩ませていた。
そんな中、初詣のおみくじの話となった。セツが引いた運勢が自分と同じで笑いあった。それぞれの項目の話をしていき、謙也にとって好機が訪れた。
「そんでな、待ち人んとこ、来たいけれど来れない理由があるようですと書かれとったんや。ウチのこと思ってくれとる人がおるってことなん?!て家族で笑いあったわー。理由って何なんやろて大喜利はじめてなー」
そう笑顔を浮かべながら話すセツに、これはチャンスでは……と謙也は思う。ふと、視線を感じそちらを見ると白石が親指を立てていた。白石のうしろには仲間たちがそれぞれよう分からんが応援するような動作をしていた。
謙也は再び大きく息を吸う。先ほどは上手くいかなかったが、今回こそは。そう思い意気込む。彼女の名前を呼び、立ち止まる。
立ち止まった謙也にどうしたのかと声をかけ、彼女も立ち止まった。二人の視線がぶつかりあう。
「な、なあ!その待ち人のこと、なんやけど……」
忍足謙也。神様の後押しのもといざ!
二十四節気 「小寒」