24 -seasons-
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炬燵の温もりに眠気が襲ってくる。ああ、この時期に炬燵を出してしまったのは間違いだったかもしれない。12月に入り急に冬将軍が本気を出してきた。さらば11月、さらば秋よと思いながらうとうとしていると、突然、足に違和感を覚える。
「くすぐったいよサエ!」
「せっかく一緒に勉強しようってなったのに、セツが俺を置いて眠りの世界に入ろうとしているからだろ」
俺をフリーにしちゃだめだよとウインクをする彼に優しく名前を呼ばれる。無駄に男前なサエは時々やんちゃな面もみせる。眠りそうだった私の足を思いっきりくすぐってきた今だってそうだ。そのくすぐり攻撃もあり、眠気などどこかに吹っ飛んでいった。
期末考査が終わっても、これから受験が控えている。付き合っている彼と同じ高校に行けるように、今は頑張っているところだ。机にかじりつきながら今日の目標を達せられるように勉強をすすめていく。
あと少しで区切りとなりそうな中、サエが何か連絡を受けたのか携帯をいじり始めた。彼の手元の問題集をちらりと見る。彼は今日のノルマをとうに終えている。勉強も余裕そうな彼に、自分の唇がとがりそうだ。神様は二物を与えずとか言うけど、彼はまた別なようです。
「そんな顔するなって。ほら、この章までだろう。あとちょっとだ」
私の様子に気が付き、面白いものを見るように笑い、区切りをしめしてくる。携帯を眺めながら、楽しみだなと呟く彼。
「何かあるの?」
「終わったら海に行くよ!」
「え、寒いでしょう。それに夜に海に入るのは……」
「別に入るだけが海じゃないだろ。ほら!頑張れ」
そう発破をかけられ、何とか問題を解き進めていく。私が悩んでいる問題に、笑顔で的確にアドバイスをおくるサエ。その様子は今にも鼻歌でも歌い始めるんじゃないかと言うくらい楽しそうだった。
「時間ぴったり。流石だね」
サエは満足げに微笑み、ほら、風邪ひかないようにねと言いながら私に自身のマフラーをかける。いや、ここ私の家だから私のマフラーあるんだけど。そう思っているとサエが私のマフラーを持ってよろしくといった顔をしている。彼の意図を理解し、先ほど彼にしてもらったように、私は彼に自分のマフラーをかけた。
「ありがとう。よし出発!」
私の手を引き、玄関に向かう。途中、家族がいってらっしゃいと声をかけてきた。いってきますと二人で返事をして海に向かう。
海辺につくと六角のテニス部の皆がいた。どうやら先ほど連絡をやりとりしていたのは、彼らだったようだ。近くにイルミネーションがあるらしく、それを見に行こうとなったようだ。
寒空の下、空に浮かぶ星々とともにイルミネーションを眺めながら、横に広がる波の音に耳をすます。その寄せては返す波の音に、今までの思い出が自然とよみがえってくる。
「あっという間の、3年間だったね」
修学旅行、体育祭、文化祭……終わっていった学校行事を振り返る。後に残る大きな行事は卒業式だけだ。過去を振り返りながら寂しいなあと呟いていると、葵君が笑顔でそんなことないですよと私に向かって元気に言い放つ。
「これからクリスマスだってありますし、正月にはお餅を食べて皆で初詣に行って!そこでセツさんとサエさんみたいな素敵カップルになれるようにお祈りして、大吉のおみくじ引いて、4月の春の桜の下で素敵な女の子に出会って恋人になって!全国に行って、来年こそU-17 合宿に呼ばれて彼女に世界大会で応援してもらうんですから!」
「欲張りすぎだよ剣太郎」
「クスクス。あと今月は剣太郎の誕生日もあるね」
「そうだな!皆でお祝いだな!」
その頃には今ここにいない天根君と黒羽君も戻ってきているだろうとサエが言う。二人は今、U-17代表合宿に参加しオーストラリアでW杯に挑んでいる。そんな二人を思ってか六角の皆が海を見て微笑んでいた。この海の先に、彼らはいる。
「来年の代表合宿、俺たちも行きたいのね」
「そうだね。よーし!そうと決まれば皆で今からこの浜辺でテニスしようよ!」
「いや、まずは海遊びだね」
「来年も楽しみだなー!はやく受験終わんねえかなー!」
ああ。この人たちは、本当に。和気藹々としている彼らの姿に思わず頬が緩む。
そうだね。過ぎたものを懐かしむより、まだ見ぬ未来を想像して楽しもう。明日は明るい日なのだという言葉が頭によぎる。
「セツ。ほら、何ぼーっとしてるんだい。行くよ!」
「二人ともー、早く早く!」
笑顔を共にサエが私の手を引く。冬の寒さが逆に私の手を握る彼の手の温もりを強く感じさせた。胸に溢れる幸福を隠せず私はほほ笑んだ。
冬だということも忘れ、全力で皆と海で遊んだ。
そこでとった写真を送られた海外にいる二人から後日、対抗とばかりに他校の選手も含め全力で美女をナンパしているような写真が送られてきた。何をやっているんだ本当に。
二十四節気 「大雪」