24 -seasons-
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関東平野という名の通り、どこまでも平たくまっすぐだ。自転車でどこまでも行けちゃうこの道が好きだ。
先日は5月だというのに30℃を超える日があったりして、季節のスイッチがおかしくなっているんじゃないかと天に猛抗議したものだが、今日は5月らしい過ごしやすい陽気だ。自転車をこぎながら感じる風が心地よい。
自転車ではしる田んぼ路。今は麦の季節で、田んぼが秋のように金色になっている。その金色の道の中、緑色のユニフォームを着た彼が目に留まった。
私は自転車をこぐ足を速め、彼の元に行く。
「季楽くん!」
「?ああ、君か」
あと少しの距離になったところで声をかけ、自転車を降りた。緑山中のユニフォームを着た彼はこちらを見て挨拶をしてきた。
「これから部活?」
「まあね。大会も近いし」
休日である今日もテニス部は部活をするみたいだ。大会が近いならそれもそうかと納得する。テニス部のコーチは彼の父だと聞いている。しかも元プロ。その息子でもあり、昨年に引き続き部長をしている彼。てっきり父親と一緒に部活に向かうものだと思っていた。
「歩きで行っているの?」
「トレーニングがてらね」
汗をかくのが嫌いだと前に言っていた彼が、トレーニングとして徒歩で学校に向かい、汗をかいている。
「今年は全国で勝ち上がりたいから」
そう静かに告げた季楽くん。その様子に僅かばかり驚く。
昨年の季楽くんは、どこか達観しているような感じであった。さめているという見方もできたくらいだ。元プロの息子さんで、2年生で部長もしているし、そういうものなのかななんて思っていたが。
昨年の夏明けの頃、テニス部が今までより練習に熱を入れ始めたのは何となく感じていた。それに、どこかテニス部の皆の顔つきが変わったような気がした。
「テニス部、変わったよね」
「え?」
「あ、いや。一生懸命ですごいなって素直に思って!」
何かに情熱を注げるってすごいと思う、と告げると季楽くんは何か考え込むような顔つきをした。
「あいつに勝ちたいから」
「あいつ?」
季楽くんは誰かを思い浮かべたのか、微かに頷いた。
「だから、練習して、強くなって。勝ちたいんだ」
静かに、だが熱を秘めた眼差しで力強く語る。今まで見たことのないような季楽くんの様子に、本気なんだと改めて感じられる。そんな熱血な様子に応援したい気持ちが自然と胸にわいてきた。
「うん!私も応援している。という訳で、学校までランニングコーチみたいに自転車で追いかけてあげる!」
「ええ?何それ」
「よくあるでしょ?駅伝とかではしっている人の横とか後ろとかについてるあれ」
「意味わかんないんだけど」
「季楽くんの応援団ってことで!」
「団って言ってもセツ一人じゃん」
「これから増やすんですー!」
はは変なヤツなんて言って笑う気楽くん。なんだ、そんな無邪気な表情もするんだ。
今まで冷めてるとか思っててごめん。普通に同い年の男の子だなって表情に、思わず私も笑った。
「よーし!じゃあ行きますよー!」
「仕方ないな」
レッツゴーなんて言いながら、自転車に乗りペダルをこぐ。気楽くんは軽くトントンと体を跳ねさせ、思いっきり前に走り出した。早っ!流石テニス部!
負けてらんないなんて無駄に対抗心を燃やして、彼の背中をエールを投げながら追いかける。
麦秋の季節。金色の道を突っ走る彼。
まるで勝利への道を駆け上がっているようだった。
二十四節気 「小満」