24 -seasons-
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「お母さんもうお雛様だしたの?」
「ええ。ちゃんとお嫁に行けるようにね!」
「またそう言ってー」
私が中学生になった今でも、意気揚々と母は張り切ってお雛様を飾っている。お雛様をしげしげと眺める私に向かって、立春を過ぎたら飾って良いことや、今日は大吉な上に季節の節目だから、この日に飾ると良縁に恵まれるのだと嬉しそうに語っている。
「あ。そろそろ行かなきゃ」
「今日は風が強いから気を付けてね」
はーいと返事をして玄関に向かう。今日は友人と遊ぶ約束をしている。お気に入りの帽子をかぶり外に出た。
身を切るような寒さが去り、穏やかな陽気が広がっている。もうすぐ本格的な春が来そうだと感じる。
友人と合流し、海沿いを歩く。千葉の海は穏やかだ。以前、このくらいの時期に日本海側のところに行った際は、その違いに驚いたものだ。
「今日は風が強いね」
友人の言葉にそうだねと伝えつつ、春一番かなと呟く。
海へと向かって吹く風は強い。ついこの間まで耳が千切れるんじゃないくらい冷たい風だったが、今日の風は暖かさがある。荒れ狂ってるけど。
帽子かぶって来たけど、抑えとかないといけないくらいの風が吹いてきたので、仕方ないが持っておくかと思い帽子に手を伸ばす。
その刹那、春の風が強く吹いた。
「ああ!帽子!」
私の手をかいくぐり、帽子は虚しくも海の方へと吹っ飛んでいった。最悪だ。
お気に入りの帽子を何とか取りに行こうと思わず駆けだす。友人がセツと呼んでくるが、大丈夫と声をかけ浜辺の方へと向かう。
帽子は風にのりどんどん飛んでいく。海に入っちゃたらもうダメかもと思いながら、砂浜に靴を掴まれるのを振り払いながら走った。
すると突然、何か棒のようなものが帽子の行方を遮った。その棒に引っかかるように帽子が止まる。
私があっ、と声をあげ足をとめる。その棒の持ち主を見ると赤い服を着た背の高い人物がいた。海を背景に、風に髪を揺らしながら佇むその姿に思わず息をのんだ。私が棒と思ったものは、どうやらラケットのようなものだった。
「帽子が飛ぶのを防止。プッ」
「?」
じっとこちらをみていたその人物が、突然発した言葉。そしてその自分の言葉に笑っている。なんだこの人。
私がフリーズしていると彼の後ろから、黒髪のこれまた背の高い人物がはしってきた。
「こおらダビデー!何してやがるー!」
「帽子が」
「ああ?」
「多分、あの子の」
そう言いダビデと呼ばれた人は私のさす。何。二人の視線が私に向く。イケメンな二人に急にみられるとびっくりするんですが。それにしても、ダビデってことは外国の人だろうか?雰囲気といい、単語でこたえていることといい。
何にせよ、まずはお礼だと思い。
「O,Oh……Thank you.It's mine」
自信がないためぎこちなくなるが、とりあえず英語でこたえる。二人はポカンとしている。そして、突然二人は笑った。
何?まさか英語じゃなかった?発音変だった?いや、そもそも文法違った?!
ひとりパニックになっていると、笑みを浮かべるダビデさんが帽子をラケットから取り、私の方に足をすすめる。
「ごめん。俺、普通に日本人。はい帽子どうぞ」
「そうだったんですね。あ、ありがとうございます」
「プッ。いやー悪ぃ悪ぃ!ダビデってのは綽名でな。こいつは天根ヒカルってんだ」
「いえ。私こそ勘違いしてしまって、すみません」
「何にせよ、よかったな」
「天根さん、ありがとうございます」
ちなみに俺は黒羽春風なんて黒髪の人も自己紹介をしてくる。春一番が吹く今日という日にぴったりな名前だ。
二人に再びお礼を言っていると、私を追いかけてきていた友人が私の名前を呼びやって来た。
「それじゃ!」
「今日は風が強いから気を付けて、セツちゃん」
爽やかに去っていく二人。少し離れたところに彼らと同じ赤い服を着た人たちがいる。彼らの服には、六角中と書かれていた。どこかで聞いたような、見たような。
「六角中……」
「ん?ああ。今度合同でやるところだよね。来週行くじゃん」
友人の一言にそうだと思い出す。もしかして、来週また会えたりするかな。
ふと今日、家を出る前に眺めていたお雛様を思い出した。帰ったら全力でお雛様を拝んでおこう。
二十四節気 「雨水」