フェルム地方出身
最終章
名前変換
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ネリネ。ネリネ。
誰かが私を呼んでいる。
そっと目を開ける。あたりは真っ暗だ。右も左も上も下も。
私はどうなったんだっけ。ああ、そうだ。フェルム地方がなくなったから。
あれ?けどなんでこんなところにいるんだ?いやそもそも、
「ここは?」
『ネリネ』
名前を呼ばれる。振り向くとそこには人が立っていた。真っ黒な空間の中に、その人と私だけがぽつんといる。暗いはずなのに、その姿ははっきり見える。
その人物に思わず目を見開く。
「え、私?」
コクリと頷いた人物。生き別れた双子だと言われても信じられるくらいそっくりだ。というより、服くらいしか違わなくないか。
『ありがとうネリネ。貴女のおかげで私も、あの人も、あの世界も救われた』
「……どういたしまして?」
言ったはいいものの、よく分からない。この返しで良いのだろうか。
戸惑っている私にその人は、というより私が微笑んできた。まさかという思いがわく。
「もしかして、シガナ?」
私の疑問に彼女はまた笑った。
『さあ、次は貴女の番よ』
「え。私の番って?」
どういうことかと尋ねようとした。しかし、彼女は再び感謝の言葉を告げるとともに、光の粒となってこの場から消えた。
なんだったんだ?ヒガナさんといい彼女といい、どうしてこうも伝承者は確信を濁す言い回しなんだなんて思っていると、周囲が急に明るくなった。
「今度は何?!」
あたりを見回すと、この世で想像できる限りの綺麗を散りばめたような空間にいた。
ここはどこだろうか?フェルム地方でもないし、ホウエン地方でもない。そもそもこんな場所が現実にあるのだろうかとさえ思える。ここはまさか、あの世というやつだろうか?
『ここは、運命も宿命も、苦しみも哀しみもない。美しいものしかない。お前をこの世界にとどまらせることは私にはいとも容易い』
突如として声が響いた。だが、響くと言っても直接脳内に話しかけられるような感覚だ。何だと思いあたりをみまわしてもその声の主はどこにもいない。
『どうするネリネよ』
どうすると、言われても。私には何の選択肢があるというのだろうか。どうしたいと捉えていいのかな?私が今、一番望むこと。
「私は、また皆に会いたいです」
『皆とは、あの地方で出会った人か?』
「今まで出会った人たち、相棒のポケモンたち、それら全てです」
欲張りですからと笑う。
『あえて苦しみのあるヒトの世界に戻るのか?』
「苦しいだけじゃありません。大変こともありますけど、それがあるから楽しいとかそういう思いも抱けますから。それに、」
『それに?』
「一人じゃないですから。相棒もいて、大切な人もいました」
『……そうか。そうだな』
一瞬声の主が息を詰まらせたような反応をした気がした。だが、次は納得したような声音を響かせた。このやり取りはいったい何なんだろう。普通に会話をしているけれど、そもそもこの声の主はいったい?
そんなことを思ってると、目の前に光の塊が現れ、何かが私の前に立った。
「おババさん?」
目の前にはあの流星の滝で会い、もう一つのホウエン地方の話をしてくれたおババさんがいた。どうしてここに。そう思うや否や、その人物が霞のごとく消えた。
そして、その霞がはけた先にポケモンのような存在が現れた。
「あなた、は?」
金色の輪を身にまとう純白のポケモン。ポケモンでいいのだろうか。どこかディアルガやパルキアたちに似ている。
驚く私をよそに、それは頷きある一点を示した。そして、先ほどまで響いていたものと同じ音色で言葉が紡がれた。
『ネリネ。さあ行くがよい』
それが地面をトンと叩くと、示された一点に眩い光の輪ができた。そこに入れという事だろうか。
私が見つめるとそれは頷いた。その瞳は慈愛の中に寂しさのようなものも感じられる。いっておいで、と背中を押された気がした。
「ありがとう!」
何故かその先には希望が満ちているように思えてならなかった。湧き上がる思いをそのままに、口元は自然と緩んだ。感謝の言葉と共に、私は息を吸いその中に飛び込んだ。
『さらばだネリネ。我が愛し子よ』
私の世界は再び光に包まれた。だが、今度はどこか温かい。