フェルム地方出身
最終章
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「ねえ!してよ!メガシンカしなさいよ!」
最上階の手前の階段に降り立つ。その瞬間、上から激しい声音が耳に届いた。この声はヒガナさん?
ダイゴさんと顔を見合わせ上に登る。
祭壇には、あのトレーナーとヒガナさんとゴニョニョ、その前にレックウザがいた。レックウザが私の方を見て咆哮をあげ、私とダイゴさんを囲むようにしてこちらにやって来た。心臓の鼓動がはやまる。
「シガナ?!どうしてここに?!」
「ヒガナ」
ヒガナが驚きの表情とその表情にぴったりの声で叫んだ。レックウザの顔が手を伸ばせばすぐのところにある。その額のところを撫でる。手に伝わる思いから、どうやら、パワー不足であることが分かった。
そっと目を閉じてレックウザと額を合わせる。足元から大地に向かって流れるエネルギーを探る。そのエネルギーをレックウザに注ぎ込むイメージを描いた。
閉じた瞼からうっすらと光を感じた。目の前のレックウザが光に包まれているようだ。うまくいっただろうか。目をゆっくりと開けると、光がレックウザに溶け込むように消えた。
静寂が訪れる。これが、真の伝承者の力とヒガナが呟くのが耳に届いた。
レックウザと再び見つめ合う。先ほどよりも力がみなぎっている。仕上げとばかりに何かを訴えかけるような眼差しを向けてきた。そっと、手のひらでレックウザの額に触れる。隕石。その単語がレックウザに触れる手から伝わってきた気がした。その瞬間、トレーナーの鞄から何かが瞬いた。隣にいたダイゴが何かを察したのか、トレーナーの名を呼び告げた。
「隕石だ。レックウザは隕石からパワーを貰えるはずだ」
そう告げられると同時に、トレーナーは瞬く隕石を素早く鞄から取り出してレックウザへと与えた。レックウザから碧のオーラが揺らめいた。隕石を与えてくれたトレーナーにレックウザは試すような視線を投げかける。
その様子を打見し、ダイゴの方を見る。気を付けてというように彼が頷いた。
ヒガナの元に近付く。伝承者としてやるべきことが自然と伝わってくる。
「ヒガナ。いこうか。ガリョウテンセイを、レックウザに」
「うん」
ヒガナと協力し、レックウザにガリョウテンセイを伝承する。
そして、祈るようにレックウザに再び額を合わせた。
「レックウザ。あの子と一緒に、よろしくね」
レックウザは承知とばかりに咆哮で返事をしてきた。大地のエネルギーをレックウザに、と改めて祈りを捧げた。レックウザの緑のオーラがさらに強くなる。
レックウザと目が合う。身体が微かに重いのを気にしないようにし、隣にいるヒガナの肩を叩く。
「あとは、お願いしてもいい?」
「もちろん。それはこの世界にいるあたしの役目だもの。ありがとう、シガナ」
「こちらこそ」
ヒガナがトレーナーの元に向かう。レックウザが力を制御できるように、伝承者としてバトルをするのだろう。
それができれば後は、そう思うと安堵したのか体に力が抜けた。へたり込みそうになる私をダイゴさんと相棒たちが支えた。
「ネリネちゃん」
「ダイゴさん、すみません。安心したのか。力が入らなくて」
「平気だよ。お疲れ様」
ダイゴさんが私を抱えしゃがみ込む。ガブリアスたちも心配そうな面持ちで傍らにいる。向こうではヒガナさんがバトルをしている。よかったという思いで、胸に手を当てる。
ダイゴさんと共に、この世界の伝承者と新たな伝承のバトルを遠くから眺める。そのバトルを見つめながら、ダイゴさんがふと、私に尋ねてきた。
「ネリネちゃん、君はこの騒動が終わった後のこと、何か考えているかい?」
「この後のこと、ですか?」
うーん。そういえば特に決めていないなと気がついた。次元転移装置を一緒に研究してフェルム地方を探すなんてのもありかもしれないなんて考えが僅かに浮かぶ。隕石が迫っているのに、私は暢気に今後のことに思いを馳せ胸がじんわりと温かくなった。
「そういうダイゴさんは、何か考えているんですか?」
「僕かい?そうだね、色んな事を見て回りたいかな。今回のことで、己の未熟さを痛感した。それに、世界はとても広いからね。珍しい石も探したいし。まあすぐには厳しいだろうけれど」
「旅ですか。いいですね」
私が笑うと、私を支えるダイゴさんの手に力がこもった。何だろうかとダイゴさんの方を見る。彼もまたこちらを見ていた。何かを決したようにダイゴさんが口を開いた。
「もし、ネリネちゃんが良ければなんだけど……」
「?」
ダイゴさんの言葉が止まった。
シャランと金属がすれる音がする。ブレスレット。そう言えば、流星の滝で目が覚めた時からつけていた。彼から貰ったブレスレット。
視界が微かに歪んだ。
「一緒に世界をめぐるのはどうだろうか」
『必ず君をここから連れ出す。シガナの名から、定めから君を解放したい。だからその時は、シガナではない名前を君へ贈らせてほしいんだ』
二つの声が耳に届く。どちらも全く同じ声だ。
え、と驚く私にダイゴさんがクスリと笑った。
「ゆっくり考えてみて欲しい」
そう告げるダイゴさんの手は肩越しからじんわりと私に温もりと安心感を与えてくれた。なんだか、とても眠くなってきた。何だろう。
「シガナ、大丈夫?」
その声と共にヒガナさんがこちらにやって来た。どこか憑き物が落ちたような表情をしている。
「あの子とレックウザは?」
「隕石に向かったよ。シガナのおかげだよ。これで全てうまくいく。ありがとう」
その言葉に安堵が胸に広がる。ダメだ、眠い。
「こちらこそ、ありがとうヒガナさん。今の私はシガナじゃない。ただのネリネだよ」
私が告げると、ヒガナさんは目を見開き納得したようにそうだね、と告げてきた。
あとはあの子に託そう。再び、ホウエンの世界の危機を救ってくれることを信じて。
何かがあった時にすぐ対処できるように、トクサネ宇宙センターに戻ろうとダイゴさんが声をかける。私は、頷き、睡魔を振り払おうとした。
頭上の遥かかなたで何か強いエネルギーがはじけた。昼間だというのに、遠い空には流れ星の様なものが多く見えた。
その様子を見て、これで、もう一つのホウエン地方は救われる。そう思った。よかった。
「隕石が。ネリネちゃん、隕石が砕けている」
「あの子、やってくれたみたいだね。シガナ、あたし、貴女を救えた?」
空に向かってヒガナさんが言葉を投げかけた。
私もダイゴさんに支えられ、立ち上がった。空は、真昼だというのに流星群のように星がはしっていた。
行こうと、二人と共に進もうとした。
しかし、
「ネリネちゃん?!」
「シガ、いえ、ネリネ?!」
力が入らず、私はその場に倒れこんだ。