フェルム地方出身
最終章
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トクサネ宇宙センターにたどり着くと、ちょうど見覚えのある年若いトレーナーがどこかに向かっていくところだった。よくすれ違うな、と思いながらその背中を見送る。
行こうとガブリアスたちに声をかけ、トクサネ宇宙センターの中に入る。そのまま受付に行き、2階に向かう。ダイゴさんとソライシさんが見えた。
「ネリネちゃん、おかえり」
「ネリネさん!よかったです!」
「ただいま戻りました。ソライシさんもご無事でよかったです」
ご心配をおかけしましたと伝えると、ソライシさんが改めて良かったと頷いて、さあ作業の続きだと奥の方に向かって行った。
「行きたいところには行けたかい?」
「はい、お陰様で」
ダイゴさんと向かい合って話をする。そして、先ほど以前デボンでも見かけたトレーナーとすれ違ったことを告げた。なんでもあの子が新しいチャンピオンだということが分かった。あんなに若いのに、ホウエン地方を天変地異から守り、さらに今回は隕石にも立ち向かおうとしているという。立派なものだ。
「あの子は、空の柱に向かった。そこに、ヒガナというあの女性もいるらしい」
空の柱。ヒガナさんもそこにいる。やはりそこかと、どこか納得がいく。恐らく、レックウザ降臨の儀式を行うつもりなのだろう。
ダイゴさん、と彼に声をかける。こちらに向く彼の表情が微かに驚きを浮かべていた。私の雰囲気に、ただならぬ感じを覚えたようだ。
「私も、空の柱に行きます」
「空の柱に?」
「ヒガナはきっと、レックウザを呼び覚まし、その力を使ってこの世界で隕石を破壊しようとしているんだと思います」
流星の民が伝承者はそれを行えると言っていたな、とダイゴさんが呟いた。だが、空の柱は限られた人間しか、と言葉を続け、私を見つめた。何だろうか?ダイゴさんの眼差しに、首を傾げると、いや、ネリネちゃんならばもしやとブツブツ言っている。
それから、何か納得したような様子で私の方に頷いた。
「分かった。行こう、空の柱に」
はいと告げ頷く。君一人を行かせるわけにはいかないとダイゴさんは頑として譲らなかった。共に空の柱に向かうことにした。
トクサネ宇宙センターを出ると、ラティアスとラティオスと呼ばれたあのポケモンが私たちを待っていた。
「どうやらラティオスたちが、空の柱まで連れて行ってくれるみたいだ」
「本当ですか。ありがとう、ラティオス、ラティアス」
私がお礼を告げると二匹は嬉しそうにキュッキュと鳴いた。ガブリアスたちは乗れるかなと考えていたら、心配無用とサイコキネシスでガブリアスたちを浮かせていた。ラティアスたちは、エスパータイプなのだろうか。
航空機のようなスピードで空を滑るように駆けていく。スピードは出ているのにラティアスたちの飛び方が上手いのか、風が心地よい。
隣にいるダイゴさんを見る。真っ直ぐに前を見ている。その横顔に、何故か切なさがこみ上げ、胸が締め付けられる。
協力してくれているダイゴさん。ホウエン地方のために己にできることを模索して、何とかしようと懸命に行動している。彼には、全てを伝えた方がいいのだろうか。
私の視線に気が付いたのか、こちらを向いた。
「どうしたんだい?」
「ダイゴさん、あの」
私が気まずそうにしていると、何でも話してくれて構わないと言った雰囲気でこちらに微笑んできた。
「突拍子もなくてとんでもない話だと笑うかもしれないんですけど、」
そう前置きをする。ダイゴさんは、真剣な面持ちでこちらを見ている。
私は、静かにあの流星の滝で聞いたこと、自身が今まで夢で見てきたことを告げた。
「フェルム地方が、もう一つのホウエン地方の未来。しかも、それはこの世界の隕石がそこに落ちたことによるものだというのか」
「はい」
「それに、ヒガナがずっと君に向かって言っていたシガナという名。真の伝承者を表すシガナが、君だと?」
「……そう、らしいんです」
らしいと告げたが、もはや確信に近かった。なんてことだと、ダイゴさんは驚いている。
「だが、それならあのヒガナが言っていたことは、そういうことなのか」
ダイゴさんはどこか点と点が繋がったというような雰囲気で顎に手を当てていた。
「それで、ネリネちゃんは空の柱で、まさか、」
「はい。私が本当に真の伝承者だというなら、レックウザと共に隕石を破壊するのに協力できるはずです」
「やはり、そのつもりなのか。けれど、そう上手くいくのだろうか」
「大丈夫。ヒガナもいます。それにダイゴさんも認めているトレーナーも。私がこの世界にやってきて、今ここにいる。それは、きっとその為な気がするんです」
そう笑いかけると、ダイゴさんは困ったように笑った。私の決意が固いことが分かったのだろう。だが、それでも危険なことに変わりはない。心配を拭えなさそうだ。優しい彼の心根に、微かに胸が痛んだ。
「……だけど、気がかりなことがある」
「何です?」
「もし、フェルム地方が隕石が落ちた別の世界のホウエン地方の遠い未来の姿なら、ここで隕石を消したら、フェルム地方は、フェルム地方にいた君はどうなる?」
「……」
流石ダイゴさん、鋭い。それに関しては、バーネットさんにも相談したが、結論は出ないままだった。
私は言葉に詰まり、視線を逸らす。
「分かりません。けれど、この世界の人々ともう一つの世界の人々を、多くの人々を救うことができます」
あの人も、という言葉を飲み込む。
私の名をダイゴさんが呼びかける。するとグッとラティアスたちが下降し始めた。どうやら、空の柱に着いたようだ。
今は私にできることをするだけだと、拳を握った。
ストンと降り立つ。空の柱の名の通り、空に届くのではないかというくらい聳え立っている目の前のものに圧倒されそうになる。
ふと、入り口のようなところに目をやった。
え。なんか変質者がいる!そう口が零しそうになった。
だけど、何なんだろうあの格好は?
「ああ、彼はミクリ。彼もまた、古の知識を受け継いで伝えるルネの民の一人だよ」
「ミクリさん?」
「アメージング!ダイゴが女の子を連れているなんて。石や鋼タイプのポケモン以外に興味を持つなんて、何者だい」
「邪推するなミクリ。彼女はネリネちゃん。彼女もまた、古の民の一人だ」
「なんと……!」
なんか不思議な雰囲気の人だ。握手をして互いに簡単な自己紹介をする。いい人そうではあるが、服装が気になって仕方ない。服装はルネの民の伝統衣装なのだろうか。寒そう。
そんな若干失礼なことを考えている私をよそに、ミクリさんとダイゴさんが何か話をしている。
どうやら先に向かっていたあのトレーナーは空の柱へと進んだらしい。
空の柱を見上げると、心臓が激しく脈打った。何だ?
何かがこちらに来ようとしている。空の彼方から、何かがこちらを見ている気がする。竜の咆哮のようなものが、どこかから聞こえた気がした。
頭の中にあるフレーズが浮かび、自然と口ずさんでいた。
「……汝、我が願いを、何卒叶え賜え」
「ネリネちゃん?」
「その言霊は」
ミクリさんが驚いたように呟いた。
それからすぐ、眩い光が空の柱の頂上から空に向かい放たれた。
激しい振動があたりを包む。
「何だ?」
「ネリネちゃん、まさかレックウザが」
「はい。レックウザが来ます」
だが、どこかレックウザの力が弱っているように感じる。行かなくては。その思いが募り、空の柱へと足を進めた。
「行くのかい?」
「はい」
「僕も行こう」
ダイゴさんが私を安心させるように傍らに立った。ラティアスとラティオスが再び私たちの前に現れた。どうやら、上まで連れて行ってくれるらしい。
ラティアスとラティオスに飛び乗り、空を見上げる。
ルネの民は空の柱に立ち入ることはできないらしく、ミクリさんは気を付けていくようにと告げ私たちを見送った。
ラティアスとラティオスが舞い上がる。
いざ、空の柱、龍召の祭壇へ。