フェルム地方出身
天上の花束
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ネリネちゃんが連れ去られた。
ヒガナと名乗る流星の民が次元転移装置を破壊し去る時に、ソライシ博士が「ネリネさんはどうしたんだ」と告げたことで分かった。ヒガナは貴方たちには関係ないとばかりに、振り向くこともせず去っていった。
次元転移装置が破壊された。ネリネちゃんが連れ去られた。いったい、何が起きているんだと思うしかなかった。
ヒガナの語った内容も心に引っかかる。自分たちがこの世界も、また別の世界も守ることができると彼女は言っていたが。それに、以前彼女はネリネちゃんを僕達が手にかけるというような内容の発言をしていた。それはいったいどういう意味だろうか。
ソライシ博士がそばにやって来て、ネリネちゃんが連れ去られたいきさつを語った。なるほど、彼女らしいと言えば彼女らしい選択だった。
「ヒガナという人物が言っていたこと、確かに気にならないわけではありません。けれど、今我々にできることはこれしかない。私は、何とかして次元転移装置を修復します」
「はい。博士はそのままお願いします。僕も、自分にできることをします」
「ネリネさんのこと、お願いします。私たちを庇って、こんなことに」
壊された次元転移装置を掴みながらソライシ博士が意を決したように告げた。
それからすぐに何か騒がしい音がした。
何かと思い見るとネリネちゃんの相棒であるガブリアスたちが今にも暴れ出しそうな雰囲気を纏っている。それに、トクサネ宇宙センターを先ほどまで占拠していた一味の残党がまだいるようだ。
僕は急いでそちらに向かい、残っていた組織のメンバーに去るように促し、ガブリアスたちを宥めた。
「君たちのご主人を迎えに行こう」
ネリネちゃんはデボンの試作ポケナビを持っている。それを辿れば居場所が掴めるだろうと踏んだ。
僕に今できること。さしあたっては巻き込んでしまったネリネちゃんが無事かどうか確認しなくてはと考える。
彼女が今いるのは、流星の滝だとすぐに判明した。
ガブリアスたちは大人しくついてきている。どうやら少しは僕を信頼してくれているみたいだ。だが、何か刺激を与えればすぐにでも暴れ出しそうだ。向かう道すがら、横目でガブリアスたちを見てよく育てられていると改めて感心した。
以前シロナ君と連絡を取った時のこと。シンオウ地方で出会った自身と同じくガブリアスを相棒にしている面白いトレーナーがいたと嬉々として語られた。チャンピオンをしている僕たちはそれなり強いと自負している。それと同時に、なかなか自分よりも強いトレーナーに会う機会がなく、バトルでの高揚感というものは久しく感じていなかった。
電話越しでシロナ君は、いつか彼女とバトルするのが楽しみだわと僅かに興奮を滲ませ楽しそうに語っていた。彼女と聞いて女性なのだと知った。気持ちの昂るバトル。それができるのは何と幸せなことなんだろうかと思うと同時に、そんな感覚を本当に味わうことができるのだろうかと馳せたものだ。そして、それからすぐ後、ホウエン地方の危機を救ったトレーナーが、チャンピオンに挑戦しにやって来た。成る程、こういう事かと僅かに納得した。
あの時実験として行ったネリネちゃんとのバトルは、その時と似た感覚だった。チャンピオンという肩書きをかけたものではない、純粋なトレーナーとしてのバトル。かつてないほどに血が滾った。お互いに遠慮なしで攻撃を仕掛け、実験だということを忘れるくらい夢中になった。
異世界から来たというネリネちゃん。ハギさんやゲンジから話はすこし聞いていた。初めは全く知らない世界に迷い込んでしまった彼女に対し、ホウエンチャンピオンとして不憫に思い協力しようと思っていた。実際に会いその人となりに触れるにつれ、胸の奥にある不安を隠しながらも、この世界のため自分に出来ることならと真っ直ぐに歩む姿が眩しく写った。それに色眼鏡なしに人と接する彼女の姿に、ダイゴという一人の人間として支えたいと思った。
ネリネちゃんのエーフィが鳴き声を上げた。主人の気配を感じたのか、流星の滝はすぐそこだ。
あのトレーナーとついこの間来たばかりの光景だ。普段であれば珍しい石もあるこの流星の滝は僕のお気に入りの場所ではあるのだが、今はそのような悠長なことを言っている場合ではない。
流星の滝に向かったあの日、どこを見つめるもなくダイゴと僕の名を呟いたネリネちゃん。その様子から呟いたのは確かに僕の名前だか、僕に向けて告げられた呼びかけでないと分かった。名を呼ぶと、あれと戸惑った表情を浮かべていた。眠りについた彼女をそっと寝かせた傍らで、ガブリアスたちが主人の様子に心配そうな表情を浮かべていた。彼女は一体誰を思い浮かべて呟いたのだろう。寂しさの中に、愛しさも滲ませた声音だった。自分の名前なのに見知らぬ誰かに向けられたそれに心に靄がかかった。それを振り払うように、ガブリアスたちに彼女をよろしくと告げ、流星の滝に向かったものだ。
以前のことを思い出しながら中に入ると、その時に話をしてくれた流星の民のお婆さんが倒れていた。倒れている、といよりも丁寧に寝かされているといった方が正しいだろうか。
「もし。大丈夫ですか」
「んー。おや、君は確か以前年若いトレーナーと来た銀髪のイケメンじゃないか」
声をかけるとお婆さんはすぐに目を覚ました。とりあえずはイケメンかどうかは置いておいて、そうですと告げた。
「大丈夫ですか、お婆さん。ここに、僕と同い年くらいの女性は来ませんでしたか?」
「ヒガナが連れて来た、あの子のことかね?」
それならきっと奥にいると立ち上がった。なんだか急に眠くなってしまってね、気が付けば寝ていたよとその人物は告げ奥に向かおうとした。怪我などはしていないようだ。
ふと、ヒガナが何度もネリネちゃんに向かい告げていた名前を思い出した。もしかしたら流星の民であれば何か知っているだろうか。
「お婆さん、貴女はシガナという人を知っていますか?」
「シガナ?さあ。ああ、人ではないが、ヒガナが可愛がっているゴニョニョがその名前だよ」
ある日突然そう呼び始めたんだよと言いながら、あの日くらいから彼女の笑顔が曇るようになったね。とポツリと溢した。成る程と自然と顎に手を当てる。ヒガナのあの言い方だと、シガナは人の名前っぽいが。
お婆さんを追いかけようとしたタイミングで、急にガブリアスが唸った。エーフィとブラッキーも尻尾と耳をピンとたて、身を低くしている。
「どうした?」
尋ねると同時に、激しい耳鳴りがした。何だ?!
ガブリアスがある一か所に向けて身構えた。そこには水面があるだけだ。だが、その水面にジワリと黒い空間が広がった。ガブリアスが吠える。まさか、ネリネちゃんがそこに?
「ネリネちゃん!いるのかい?!無事か?!」
声をかけると同時に何かが黒い空間から飛び出した。
「ダイゴさん!ガブリアス、エーフィ、ブラッキー!」
ネリネちゃんの声が頭上から響いた。何事かと見上げると、見たことのないポケモンがいた。流星の民のお婆さんが信じられないとばかりに声をあげた。
「おお。ギラティナ、なぜ、ここに」
「ギラティナ?」
聞いたことがないポケモンだ。驚く自分たちの元に、ひらりとネリネちゃんが降り立った。ガブリアスたちから熱い抱擁をされている。
皆の声が聞こえて戻ってこれたと笑顔で告げてくる。それからネリネちゃんはギラティナと呼ばれたポケモンに向き直り、お礼を告げている。名残惜しそうな様子を見せたが、そのポケモンは黒い空間へと戻っていった。これは現実かと疑うような光景に思わず息をのんだ。
「真の伝承者のようじゃ」
その様子をみてポツリとお婆さんが呟く。唖然としていると、ネリネちゃんがこちらに振り向いた。無事な姿をみとめ我に返った。
「ネリネちゃん、よかった」
「ダイゴさん。もしかして探しに来てくださったんですか?」
頷くと、ネリネちゃんは驚いたあとにありがとうございますと感謝を述べてきた。花が綻ぶような笑顔に心臓がドキリと脈打った。それから、僕の隣にいるお婆さんに、何故ここにいるのかと驚いていた。お婆さんは何のことだと疑問を浮かべていたが。
「申し訳ない、二人とも。だが、あの子はもう立ち止まれないところに来ている」
この世界を、ヒガナをどうかとお婆さんは告げた。ネリネちゃんは不思議そうな顔をしている。何かあったのだろうか?
二人でお婆さんに挨拶を交わし流星の滝を出る。
隣を歩くネリネちゃんの横顔をちらりと見る。最後に見たときの顔色の悪さはうかがえない。だが、何か浮かばれない表情をしている。どこか憂いを帯びたような表情に再び心臓が脈打った。
「ネリネちゃん、事態はあまり思わしくない。これから僕はトクサネ宇宙センターに戻る。君はどうする?」
いたって冷静を装い、ネリネちゃんに簡潔に起きたことを説明してこれからどうするかを尋ねる。彼女は考え込むような動作をした。その手首に以前はなかったブレスレットが見えた。あれは、デボンが新たに作っているものと似ている。どこでそれを手にしたのだろうか、疑問がわいたが今聞くべきことではないなと頭の隅に押しやった。
突然僕の元に、連絡が入った。トクサネ宇宙センターだろうかと思い、見たが、そこにはまさかの人物の名前があった。
「ダイゴだ」
ー久しぶりねダイゴくん。ホウエン地方の天変地異、おさまったみたいで安心だわ。
「また別のトラブルが起きているけどね。で、シンオウチャンプの君が僕に連絡なんて、どうしたんだい?」
僕のその言葉に、ネリネちゃんが驚きの声を上げた。