フェルム地方出身
第七章
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心地よい眠りからゆっくりと意識が現実世界に戻されていく。
ぎゃうと元気な鳴き声が響く。
「ガブリアス、エーフィ、ブラッキー」
目を覚ますと天井を背景に、相棒たちの顔がそれぞれあった。ダイゴさんに連れられ、そのまま眠っていたらしい。時間を確認するとそれなりに眠っていたようだ。
ゆっくりと身体を起こす。よかった、眩暈は治まっている。
ダイゴさんは流星の滝に行くと言っていた。あれから時間も経っている。もう戻って来た頃だろうか。
「トクサネ宇宙センターに戻ろうか」
気分も良くなったため相棒たちと共にトクサネ宇宙センターに向かうことにした。
それにしても、あの時のは何だったのだろうか。ユクシーが関係しているということは、あれは夢というよりも、記憶なのだろうか。けど、誰の?
「私の記憶、なんだろうか?」
歩きながらガブリアスたちに尋ねる。何のことだと首を傾げられる。うん、私も分からないや。
どこか不安をもちながら足を進めていると、トクサネ宇宙センターが見えてきた。
何か騒がしい?
ただならぬ気配を感じたため、相棒たちと隠れ様子をうかがう。トクサネ宇宙センターに、以前トウカの森で見たような怪しげな集団が勇んで中に入っていくのが見えた。
「何だろう、ソライシさんたち大丈夫かな」
相棒たちと顔を見合わせ、隠れながら入り口に向かう。中は水をうったように静かだ。
微かに悲鳴のようなものが聞こえ、足を進めた。研究室の一角で、奇抜な衣装を着た人たちが研究員たちを脅している。その中にソライシさんもいた。
「待ってください!」
「あー?誰だテメえ」
「ネリネさん……!」
私が声をかけるとその集団が一斉にこちらを向いた。ソライシさんも私に気が付いたらしく小さく名前を溢している。
奇抜な人は、邪魔するなら容赦しないぞと問答無用でポケモン繰り出してきた。
「ガブリアス、お願い!」
「ああーテメえはあの時の!」
私がガブリアスを繰り出し戦っていると集団の中にいた一人が、あっと声を上げた。確か、以前トウカの森であった気がしなくもない。前に即行負けたことが思い出されたのか、大人しくなった。他の人たちが繰り出してきたポケモンもガブリアスが落ち着かせた。
「こ、ここは一旦引いてやる!幹部の方々の時間稼ぎは十分できたはずだしな!」
そう吐き捨てるように去っていった。だが、トクサネ宇宙センター内は彼らで占拠されているらしく、油断はできない。
「ネリネさんありがとう、助かったよ」
「ソライシさん。皆さん、お怪我はありませんか」
「ああ。彼ら、次元転移装置を狙っているみたいなんだ。急がないと」
「そうですね」
ソライシさんと共に、去っていた集団の後を追おうとした。しかし、ソライシさんに向かって何かが頭突きをしようと飛び込んできた。以前に見たゴニョゴニョだ。ガブリアスがとっさにそれを弾き、警戒するように私の近くに立った。
「このゴニョニョは、」
「なーんだ、ここには次元転移装置はないのか。とすれば、幹部が今は持っているのかな」
「ヒガナ、さん」
「シガナ。存外またすぐ会えたね」
「ネリネさん、知り合いかい?」
ソライシさんが尋ねてくる。知り合いなのか何とも言えない感じに、戸惑う。
ヒガナさんは再びソライシさんを見ながら行かなきゃと告げる。何でも次元転移装置を壊すというようなことを言っている。次元転移装置を壊す?けれど、そんなことをしたら。
「ヒガナさん、けど、それがなければ隕石が」
「シガナ。そこの博士やデボンの親子に何を言われたのか分からないけど、それは使ってはいけない」
「え」
戸惑う私に、彼女は困り顔をする。それから、ソライシさんの方をみて、何かを察したのかため息を溢した。
「ソライシ博士。肝心なこと、シガナに伝えていないよね」
「な、何を言う」
肝心なこと?いったい何が?
ヒガナさんの一言に、ソライシさんが今度は戸惑いの表情を浮かべた。何か隠していることでもあるのだろうか?
「次元転移装置。さて問題です。それを使った隕石は、いったいどこに行くんだろうね」
「通信ケーブル次第とは聞いたけど。ワープホールを使って、隕石の軌道をズラすのではないの?」
「ズラす、ね。はは。巧く言ったものだ」
ヒガナさんが寂し気に笑う。ソライシさんを見ると、苦しそうな表情を浮かべている。何か、違うのだろうか。
「ワープホールを使って、別の世界に飛ばそうとしているんだよ」
「別の、世界に?」
ヒガナさんが腕を組み告げてくる。別の世界。てっきり、隕石をこの世界の中で軌道をズラしてどうにかするのかと思っていた。もし、別の世界に隕石を飛ばしたとしたら?
「そう。その世界にいる人たちはどうなるんだろうね」
「君、そんな突拍子もないことを!別の世界。そんなものは、現代では実証されていない!」
私の考えていたことが分かったのか、ヒガナさんが頷きながら言葉を紡ぐ。そんな彼女に向かって声をあげるソライシさん。だが、その言葉に同意ができなかった。だって、ヒガナさんの言っている別の世界の存在。フェルム地方、こことは似て非なる世界。私はそこから、恐らくこことは別の世界から来たのだから。
「……いえ、ソライシさん。違う世界。それはきっと、あります」
「え、ネリネさん?」
「流石だよシガナ。貴女ならそう言ってくれると思ってたよ」
ヒガナが嬉しそうに笑う。
「だから言ったよね。シガナ、貴女はこの悲しき知識の結晶たちに、殺されるって」
「どういう、こと」
ヒガナさんの言い方。それは、まるで隕石の飛ばされる世界と私が関わっているかのような言い回しだ。彼女は確信を持っていそうだが、それを濁すような言い方で戸惑う。
ソライシさんの方に視線を送ると、彼は苦し気に呟いた。
「だが、今はその方法しか」
「かりそめの希望に頼ったって意味がない。まあいいよ。どうせ理解しないことは分かっているから。あたしはあたしのやるべきことをやる。さあ次元転移装置を壊しに行かなきゃ」
「待て!そんなことさせるか」
去ろうとしたヒガナさんを止めようようとソライシさんが声をかける。舌打ちの音と共に、彼女がモンスターボールを構えた。
そのただならぬ様子に彼女は本気だと思い、思わず声をあげた。
「やめてヒガナ!この人たちに手を出さないで」
「シガナ。けど、」
「お願い」
「……じゃあ、一緒に来て。貴女はここにいてはいけない」
静かに告げる彼女。まっすぐな瞳だ。きっと、彼女は約束は守るだろう。
分かった、と頷く。
「ネリネさん!」
「大丈夫ですから。ガブリアス、エーフィ、ブラッキー、皆をお願い」
ソライシさんや相棒たちが行くなとばかりに首をふる。しかし、今はこれが一番ベストな選択だ。相棒たちがソライシさんたちの元にいれば、怪しげな集団やヒガナさんたちは手を出すことはないだろう。
大人しくヒガナさんの後ろについていく。彼女の連れているゴニョニョが嬉しそうに飛び跳ねている。
「……シガナ。いや今は、ネリネ、だっけ。ごめん貴女を守るためなの」
「?何?」
しばらく黙って歩いていたが、唐突にヒガナが立ち止まり、静かにごめんと謝罪を口にしてきた。
それから突如振り向きざまに彼女が出した蝙蝠の様なポケモンが、私の眼前に迫った。
けたたましい鳴き声と共に、超音波が発せられる。脳がかき混ぜられるような感覚だ。どうやら私に向かって放ったようだ。もろにくらったため、視界が回りふらつく。
「ごめん、シガナ」
その言葉を最後に、私の意識は途絶えた。意識を失う直前、シャランと金属の音がどこからか耳をかすめた。