フェルム地方出身
第七章
名前変換
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マントを羽織り不思議な格好をした女性がこちらをまっすぐに見つめている。その顔に、どこか見覚えがあった。
その人物は驚愕の表情のまま、ふらりと微かにおぼつかない足取りでこちらに向かってきた。私の足元にいたゴニョニョがその人物に元に駆け寄っていった。
「……誰?」
「シガナ!あたし、ヒガナだよ?覚えてない?」
「……ヒガナ?」
ヒガナともう一度小さく呟く。ダイゴさんの時と同じだ。どこか懐かしい感じと共に、胸がしめつけられるような感覚だ。
「シガナ。またあそこが繋がったの?こっちに来てくれたの?」
今度は歓喜の表情を浮かべ、私の手を掴んできた。な、なんなんだ?!急に親し気に話しかけてくるヒガナと名乗った女性に戸惑う。ガブリアスが私たちの間に入り、エーフィやブラッキーが唸っている。
「ごめんなさい。私と貴女は初対面、だと思います」
勘違いじゃないでしょうかと告げると、ヒガナはまた驚愕の表情を浮かべ明らかに落胆の様子を浮かべた。だが、すぐにそんなはずはないなどとブツブツ呟いている。
「私が、シガナを間違えるはずがない。それに、この子の反応から考えると、貴女がシガナでないはずがない。ねえ、」
その勢いに、今度は私が目を見開くしかなかった。何なんでしょうこの子は。シガナって、私のこと?
シガナ。ふと、脳裏に数多の人が嫌がる私を呼び、引きずっていく姿が過った。あの時にみた夢の内容だろうか。シガナ、シガナ。
「違う。私は、シガナの名はもう、」
「?!シガナ、やっぱり」
私はその名は捨てようとした。そう告げようとした。捨てる?どういうこと?
突然叫ぶように伝えようとした言葉に、私自身が驚く。何を言っているんだ私は。私は自身の口が勝手に紡ぐ言葉に戸惑いながら、口元に手を当てた。眩暈がする。
「ネリネちゃん!」
ふらつきそうになる私を誰かが支えた。黒い服が視界の端で見える。
「ダ、ダイゴさん?」
「大丈夫かいネリネちゃん。ヒガナ。君、いったい彼女に何を?」
「……邪魔をしないでもらえるかな、元チャンピオンさん」
「大丈夫です、ダイゴさん。少し、会話をしていただけです」
ダイゴさんの焦った声とヒガナの冷たい声がする。ダイゴさんに支えらえていることで、眩暈も大分落ち着いた。地に足が付いた感覚に安心していると、目の前のヒガナが怒りの表情を浮かべた。
「シガナ、どうしてデボンと関わっているの。この人たちは、貴女を殺すも同然なのに!」
「え?!」
「君、先ほどのことといい、それはどういう意味だ」
突然の内容に私もダイゴさんも驚きで声を上げる。心外だとばかりにダイゴさんが警戒を含ませて告げる。
「もう行かなきゃ。なんにせよ、時間がないもんでね」
ダイゴさんが待てと告げる前に、ヒガナという女性はマントを翻し出口に向かった。
「シガナ。今は、覚えていなくてもいい。また、会いに来るから」
一度こちらに振り返り、先ほどの雰囲気と打って変わって柔らかい雰囲気になった彼女が私に向かって告げる。
シガナ、と誰かが遠くで呼んでいる。行かなくては、レックウザの元に。あの隕石に立ち向かわなくては。今度は、私があの人のように使命を果たさなければ。
「行かなきゃ」
「ネリネちゃん?」
「え。あ、あれ?」
「顔色が悪い。休んだ方がよさそうだ」
大丈夫ですと告げ歩き出そうとしたが、たたらを踏んだ。相棒たちの心配そうな鳴き声が耳に届く。とっさにダイゴさんが名前を呼び支えてくれる。
「やはり無理をしない方がいい。僕の家で休んでいるといい」
「……すみません」
歩こうとしたが、ふわりと身体が浮いた。何だろうと思うとダイゴさんが私を抱えていた。
「ちょっと、ダイゴさん。流石に歩けます」
「その顔色で言っても説得力皆無だよ。いいから、今は休んで」
恥ずかしさもあるが、確かに眩暈は止まらない。ここは素直に甘えた方がよさそうだと思い、お礼を言い身を預けた。
「僕はこれから流星の滝に行ってくる。ネリネちゃんは、ゆっくりしていてね」
はい、と返事をし、微かに眠気を覚える。トクサネ宇宙センターから外に出たとき、夕日がトクサネシティを囲む海に眩しく反射していた。その眩しさに、閉じようとしていた目を細める。
海が夕日の光を吸って紅くなっている。紅。赤。きゅわんとユクシーの鳴き声が頭の中で響いた。目が合った時のことが思い起こされた。
眩しい空を相棒と共に、見つめていた。空は、隕石のせいか夕日のせいか、赤く染まっている。隕石と共にやって来た小さい隕石やその欠片が地上に降り注いでいる。人々のすすり泣く声、慟哭が耳に届く。
突如として現れた隕石。もっと遥か上空に出現してくれれば、この世界全部を守れたかもしれないのに。目前に迫るあれに視線を投げかけるも現実は何も変わらない。この絶望的な状況下で、救える命は一握り。それでも、救える命があるのならば。
拳を握る。隕石を、破壊しなくては。
『いこう、レックウザ。巻き込む感じになっちゃってごめんね』
気にするなとばかりに、私の周りをぐるりと回る。祈りを捧げ、エネルギーをレックウザに還元する。眩い光と共に、レックウザの姿が変わった。
姿を変えたレックウザと頷き合い、共に空に向かう。これで私の役目も終わる。そうすれば、私も一緒にいける。
「……ダイゴ」
「?ネリネちゃん?」
「え、あれ、レックウザは……?」
私が呟いた言葉に、レックウザ?と疑問を浮かべるダイゴさん。心地よい揺れの中で、ダイゴさんの声が耳に届く。意識が戻ってくる。あれ、私寝ていた?今のはいったい?
もうすぐ着くというダイゴさんの声と共に、私は目を閉じた。