フェルム地方出身
天上の花束
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
『誰?!』
ゴニョニョと追いかけっこをしていて、洞窟の中に覚えた違和感。なぜかそれが、その空間だけが違和感があった。無邪気にそこに入り込んでいったゴニョニョを追うように、それに手を伸ばした。行けると進んだ先にいたのは一人の女性だった。
突如として現れたゴニョニョを優しく撫でるその女性は、マントを羽織り、そのいで立ちは小さい頃からおババに聴かされていた伝承者のようだと思った。
警戒する眼差しと共に告げられたシンプルな一言。
『あたしは、ヒガナ。あなたは?』
『……シガナ』
『なんか似てるね!よろしく』
しばらくの沈黙ののちに告げられた名前。似ていることに喜んでいたら、シガナは驚いた顔をした。何でも後から聞いたけど、シガナと言う名前は伝承者の名前の総称らしくて、その名を出したのに何も反応しないところか無邪気に笑っているあたしに驚いたらしい。
シガナは色んなことを知っていた。シガナの話はどれも新鮮で、楽しくて、伝承者の候補として育てられ友人がいないあたしの願いを、神様が聞き入れてくれたんだと嬉しかった。
シガナは神様と呼ばれるポケモンたちとも心を通わせられるらしい。流星の民に伝わる伝承者。真の伝承者はレックウザ様だけでなく、それ以外のドラゴンタイプとも心を通わせられるのだと知った。そして、その神々から平行世界というものの存在も聞いたと。
あたしとシガナは、平行世界の住人だと告げられた。幼いあたしには当時はよく分からなかったが、あたしにも分かるようにシガナは上手くかみ砕いて説明をしてくれていたと思う。
あたしとシガナの世界が違うのだとハッキリと理解したのは、メガシンカがないという事実だった。それは、あたしがメガシンカがやっと使えるようになったといったときに、なんだそれはと言うような反応をされて気が付いた。似ているようで違うあたしたちの世界。何でもシガナの世界は3000年前の戦争で最終兵器が使われていないようだった。
毎日会えるわけでなかったが、たまに会えるシガナとの時間があたしにとってはかけがえのない物だった。
辛い伝承者としての修行も、シガナのようになれるならと頑張れた。あたしにとってシガナは、姉のようであり、憧れの人でもあり、大好きな人だった。それくらい全てだったのだ。
だが、ある日から、シガナとの会話の中で一人の人間の存在がちらつくようになった。だれか新しい人と出会ったようだと分かった。それもシガナの世界に住む流星の民以外の誰かと。
それからシガナは楽しそうに話す様子が増えた。その見知らぬ人物には悔しいが、シガナをこのように明るくさせてくれていることに感謝をした。だけどやっぱり悔しいから、いつか会ったら一発は殴らせて欲しいと思った。
幸せな日々が続けばいい、心からそう思っていた。だが、それは叶わない思いだった。
崩れるようにして涙を流していたシガナに必死に語り掛けた。
『シガナ!逃げないと!ここ、神様が通れるようにしてくれたんでしょ?!こっちの世界に、』
『いいえ。ごめんね、ヒガナ。私はこの世界に残る』
『けど!!』
『私は伝承者だよヒガナ。その役目を全うするの。あの人のように。決めたの。最期まで逃げない』
『シガナ!!』
泣きじゃくるあたしと対になるように、冷静に告げるシガナの顔にはもう涙はなかった。決意を固めているような様子だった。
行かないでとばかりに腕を掴むあたしに、シガナは泣きそうな顔で笑いかけた。その瞳の奥にある悲しみに、いったい何があったのかと言葉に詰まる。
シガナ様!さあ早く!というような騒がしい声が響く。外はパニック状態だろうというのがここからも伝わってくる。
シガナはあたしの方に向き直り、両手であたしの手を包んだ。
『……ヒガナ、これを持っていて』
今までありがとう。
その言葉と共に、ゴニョニョと空間にそっと押し出された。
『シガナ!!』
手を伸ばすも、彼女は微笑みマントを翻して去っていった。
竜の咆哮の様なものが響き、眩い光があたしを包んだ。
それから、二度とあの世界とここが繋がることは無かった。
「シガナ。これを、貴女に返すその日まで」
かつて扉のあったここは何もない。大切な宝物がチャリと金属の音を出す。再びそれを握りしめた。
グラードンとカイオーガの復活を通じてのレックウザの降臨は失敗した。
隕石が予想軌道を変更してこちらに向かっている。タイムリミットはもう間もなく。こんなに余裕がなくなるとは思わなかった。
「行こう、シガナ。まずは、そうだね。キーストーンを集めて、石の洞窟あたりかな」