フェルム地方出身
第六章
名前変換
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『こんなところにずっと引き込もっているのかい。変わってるね』
はじめの印象は無礼なヤツ。そっこうアナタがそれを言うのかとツッコミをいれたものだ。
足を滑らせたのか、勝手に落ちてきてそのまま眠りこけているのものだから困ったものだった。離れて棒のようなものでツンツンしたら、微かにうめき声がしたから生きてはいると分かり、同時にけがをしているのだと気が付いた。
治療をして目を覚ました彼は、私の存在に興味津々とばかりに話をしてきた。民たちからは外の人と関わってはいけないと言われ続けていたため、はじめは戸惑った。どうせ今日限りだろうと思っていたら、それからも彼は懲りずにやって来た。禁忌だと伝えると、ボクが勝手に来ているだけだから、君から関わってないし大丈夫だろうなどどあっけらかんとしていた。
それからの日々はかつてないほど鮮やかだった。時空を超えた友との出会いもあり、毎日が今までの単調な、民とだけ会う閉ざされた石の世界を塗り替えた。
しかし、幸せというのは儚きものだった。
『一緒にどこか遠い所へ逃げることも』
『いいや。ボクは、ボクの責務を全うするよ。力をもつ者として、このホウエンを守る』
『そう、ですね』
『大丈夫。全てが終わったら必ず迎えに来る。だから、その時こそ。その時こそ、君を自由にしてみせる』
そしてと何か告げられながら渡されたブレスレット。私の手を取って優しい手つきで静かにつけてくれた時の手に伝わる温もりに、心まで温められていくようだった。この時、もっと強く引き留めていれば。いや、勇気を出して共に行っていれば。
『どこにいるのですか。あの人の気配がどこにも感じられないんです。彼に会わせて』
『伝承者様。落ち着いてください』
『やはり外の世界と関わらせるべきではありませんでしたか』
『あの方はもう』
『嘘です!彼は約束しました!!私に、私に』
『シガナ様!どうかホウエンを……!』
『違う!私はもうシガナなんて呼ばれる資格はないの』
『伝承者の名を否定なさらないでください!さあこちらへ』
『いや!私は、あの人と共に』
制止を振りほどこうとするも、幾重にも私の体に纏わりつく手はまるで鎖のようだ。
彼との約束、それをまだ果たしていないのに。
「いや!!」
跳ね上がるように身を起こし叫ぶ。心臓が早鐘のようにうっている。ぐっしょりと汗もかいている。ここ最近で最悪の目覚めだ。
また、この感覚だ。いったい、何だというのか。これは、記憶?夢?
内容はおぼろげにしか思い出せないが、心臓を握りつぶされたような感覚だ。それに、あんなに夢では顔を合わせていたのに、その顔は塗りつぶされたように思い出せない。
布団を握り、肩で息をする私を心配するようにガブリアスが私の手に顎を乗せてきた。先ほど叫んだ時に驚いたのか、エーフィとブラッキーが耳をピンと立たせながら私に向けて小さく鳴いた。
「ネリネちゃん、どうした?!」
相棒たちに大丈夫だよと告げながら撫でていると、ハギさんが先ほどの私の声を聞いたのか勢いよく部屋に飛び込んできた。
「ハギさん?!何でそんな銛なんて持っているんですか!」
「いやあ、何か悪党でも出たのかと思ってな」
「大丈夫ですから。心配してくださって、ありがとうございます」
すぐリビングに行きますねと告げると、ハギさんは安心したように踵を返した。だが何かを思い出したのか、足を止めてこちらを見た。
「ネリネちゃん。ブッキーからさっき連絡が来てな、ダイゴくんが用があるみたいじゃ」
「ダイゴさんが?いったい何でしょうか?何かバトルグラスのこととかで新しい発見があったんですかね」
「どうじゃろうな。して、この後迎えに来てくれるみたいじゃぞ」
何だろうかという思考をいったん止め、急がねばと思い起き上がる。
「そうじゃ。シシコ座の流星群、楽しんでくるんじゃぞ」
「シシコ座の流星群はまだ先ですよ。それに、まだ返事していませんから」
ふふふと含み笑いしながら部屋を出ていくハギさんは完全に楽しんでいる。
そう、初めて会ったあの日、そのままバトルグラスを見せたりしながらダイゴさんと共にハギさんたちの元に戻ったら、やはりハギさんたちが言っていた人物だと判明した。
お互いに話をして、私の今までのことなどを話した。ダイゴさんはデボンコーポレーションの御曹司でポケモンリーグ関係者と知り驚きを隠せなかった。ムクゲさんと楽し気に石のことを話す様子をみてああ親子だとしか思えなくなったが。ツワブキさんと呼ぶと二人とも反応してしまうため、ツワブキさんをムクゲさん、ダイゴさんはダイゴさんと呼ぶことにした。
それから年も近いこともあり、それなりに打ち解けた。ムクゲさんがぽろりとシシコ座の流星群のことを話し、その存在を初めて聞いた私に、それなら一緒にどうだいとダイゴさんに誘われたのだ。
ダイゴさん。ついこの間はじめましてなのに、長年の友のような感覚だった。私が一方的に抱いている感覚であることは否めないから、口には出せないけれど。
「今日ダイゴさんに会うって。楽しみだね、ガブリアス」
そう告げると、どこか拗ねたようにガブリアスが鼻を鳴らした。その様子に笑いながら撫でると、今度は嬉しそうに喉を鳴らした。可愛い奴め。
ふと、ガブリアスを撫でる自身の手首にブレスレットがないことに気が付く。
どこに、やってしまったんだろうか。一瞬恐怖を覚えるも、いやそもそもブレスレットなんて持っていないとハッとする。
「何か、やっぱり変だよね」
ポツリと呟いた言葉に、相棒たちが首を傾げた。