フェルム地方出身
天上の花束
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左右に描かれた壁画を眺める男がいた。
流れる時間、広がる空間。そして奥に描かれているのは知識、感情、意思という心。それらを唾棄すべきものの如く睨みつけ見つめている。
「いずれ消し去り、完全なものを手に入れる」
そう呟くと男は踵を返した。この村に来れば、何か新たなヒントが得らえれるかと思ったようだが、長老の孫娘が帰ってきているとかで村全体が聞き取れるような雰囲気ではなさそうだった。構わない。自分は科学の力で、研究で神にたどり着いてみせる。
そう改めて思いながら男は足をすすめる。途中のポケモンセンターの前で、突如として焦ったように出てきた人とぶつかりそうになり足を止めた。向こうも己がいるのが分かったのか足を止めていた。
その人物をみて男は驚いた。かの人物が以前、ヨスガシティで見たことない力を使っているところを偶然目撃した。その時のエネルギーはすさまじいものだった。ポケモンとトレーナーのどこから生みだされているのか、そのエネルギーを解析し、利用できるようになれば世界をリセットするということもできるのではないかという考えまで浮かんだくらいだ。
男はその人物に興味を持っていた。そして、尋ねた。世界の始まりとその人物は呟いた。考え込んでいる様子だ。そして何かに思いを馳せるように遠くを見つめた。
「始まりというものは、分かりません。実際に見たことは無いので。ですが、きっとそれは、何かの終わりも同時にあったんだと思います」
「何かの終わり、だと?」
「はい。とある地方が、破壊の後の創造により成立したと聞いています。きっと、始まりというものは何かの終わりの後。それに、終わりがあるからこそ、始まりがある。なんて、答えになっていますかね?」
「面白いことを言う」
そう微かに笑いながら言う人物に、僅かに動揺する。今まで何のことかと、変な質問だと真面目にとりあう人はほとんどいなかった。けど難しい質問ですね。確かに、世界って何だろうと呟きながら空を見上げている。その横顔に、この人物は、自分を理解し同じように語れるのではないかと一抹の思いがよぎる。それにあの力、男はその人物にますます興味を持った。
「君は、この世界に満足しているか?」
「え。この世界、ですか?うーん」
そう困ったように考え込んでいる。隣にたっているポケモンと顔を見合わせている。どうしたというのか。
「こんなこと言ったら笑われると思うんですけど、私は、この世界にもともといた訳ではないので、何とも言えません」
「何だと?」
この世界にいた訳ではないとはどういうことか。別の世界から来たというのか?男は疑問を浮かべる。
けれど、と言葉を続けようとしたタイミングで、その人物が手に持っていたものがけたたましく鳴り響いた。
『約束の時刻に近付いているロトー!』
「え。何この機能?!って、もうこんな時間。はやく行かなくちゃ。あっ、本当に突拍子もない話ですよね。忘れてください」
えーと、とこちらを見ながら何かを聞きたそうにしている。男はその様子から、その人物が名前を知りたいようだと分かった。
「……アカギだ」
「アカギさん!またどこかでお会いしたら、ゆっくりお話しでもしましょう。私、ネリネと言います」
「!」
会った時から言おうと思っていたんですけど、しっかり寝ないとだめですよ!などと余計な一言を笑いながら告げ、その人物はガブリアスたちに引っ張られるようにその場を走り去っていった。
男はその場を動かずにいた。その顔には驚きの様な幻でも見たのかというような表情をしている。
ネリネが去る時、その手に持っていた電子機器の画面が、こちらに笑いかけてきたように見えた。かつて己と出会い、そして別れたポケモンとそっくりだった。だが、あのようなものにまで入り込めたのか?それに一瞬だが話していた。
「ネリネ。君は、いったい何者だ?」
またと彼女が告げた言葉が、頭の中に響く。また出会った時に、ロトムのことも聞いてみよう。そう男は微かに考えその場を静かに去った。
アカギとネリネが別れたのと同時刻、カンナギタウンの長老の家から、一人の女性が出てきた。家を出た先にある遺跡が視界に入る。
他の地方から、いや、他の世界からやって来た人物が、シンオウ地方のディアルガとパルキアの姿を知っていた。そして、突如としてギラティナという知られざるポケモンの名前を呟いた。更にその人物は、謎の第四の泉で、知識、感情、意思の神とも接触していた。
共鳴バーストと呼ばれたメガシンカに似た現象。兄弟子にもシンオウ地方でメガシンカのようなものが見られた伝えたが、そんな馬鹿なと呟いていた。
「ネリネさん、貴女はいったい何者?」
日常の様子やコンテストでのポケモンたちとのやりとり。コンテストでも、言葉もなくガブリアスと心を通わせていた。それらを見て、ネリネという人物を知れば知るほど、悪い人物ではなく寧ろ善人であることが分かる。そして、謎は深まるばかり。
祖母と話をした。ネリネとのやりとり、今までのことなどを全て。
「流星の民。まさか、そんな民がいたなんて」
祖母と話す中で、語られたホウエン地方にいる流星の民。
以前カントー地方のチャンピオンワタルから出身のフスベシティについて話をした時に、ドラゴン使いの聖地や関わりが深い場所としてソウリュウシティと共に名が挙がった流星の滝。流星の民は、その近くに暮らしていたドラゴン使いの一族だという。
流星の民には、伝承者と呼ばれる神を呼び寄せる術と力を備えた者がいるという。伝承者はドラゴンと心を通わせられるとの話だ。そして、それは時にポケモンの姿をも変え凄まじいエネルギーを生み出すと。
あくまでも言い伝えであるため、どこまでが事実かは分からないとのことだが。
ふと、ネリネの相棒であるガブリアスもドラゴンタイプであると思った。ホウエン地方から来た、ディアルガとパルキアとギラティナを知り、ドラゴンタイプを相棒に連れて心を通わせている者。それにあの共鳴バーストと呼ばれるメガシンカのような現象。
もしや、彼女が……。いや、そんなはずはないか。
神と呼ばれしディアルガとパルキアはドラゴンタイプだと聞いている。憶測ではあるが、ギラティナもドラゴンタイプだろう。もし、伝承者の話が本当であれば、ディアルガ達とも心を通わせられるのだろうか。伝承者がいればシンオウ神話の解明にも繋がるのではないか。
「シロナさーん、お待たせしました!」
そんなことを考えていると、元気な声が響いた。彼女はガブリアス、エーフィ、ブラッキーと共に走ってこちらにやって来た。やって来る彼女の表情にどこか焦燥感が募っている様子が見て取れた。
「全然大丈夫よ。けど、どうしたのそんなに慌てて」
「ホウエン地方が!」
なんでもホウエン地方に謎の異常気象が起きているという。しかもなぜか一度ハギというホウエンにいる人物と連絡がポケナビで通じたらいい。
「ネリネさん、どうするの……って聞くまでもなさそうね」
「はい。ハギさんはしばらくはシンオウに、と言いました。けど、私は」
「分かっているわ。けれど、無理は禁物よ」
まっすぐに自身を見つめて告げるネリネ。その決意は固そうだ。本来は止めるべきなのだろう。だが、どう止めても彼女はホウエンに行くだろう、そう思えてならなかった。
ホウエン地方までの連絡船など交通は現在止まっている。どうするかと考え込む。とりあえず現状把握も兼ねてホウエン地方のチャンピオンに連絡を取ってみるかと思い至ったとき、何かの鳴き声と共に風が吹いた。
「あっ。シロナさん!あれ!」
「?あれは……!」
視界に飛び込んできたのは壁画でみた三匹。空中に円を描くように浮いていると思ったら、ネリネの周りに飛んできた。突然の幻のポケモンに驚く。ネリネはその三匹と見つめ合い、何かを悟ったのか何かに気付かされたように目を見開き、頷いた。
「この前はありがとう。そうだったんだね。また、力を貸してくれる?」
「ネリネさん?」
「大丈夫です。この子たちが、ハギさんのところまで送ってくれるみたいです」
「そんなことができるの?」
「はい。この子がハギさんのポケナビを通じて場所を教えてくれます」
「この子?」
はい、と返事をしながら告げると、ネリネはポケナビをだした。いったいあの一瞬で何があったのいうのか?ユクシー、アグノム、エムリットの三匹はネリネに何をどう伝えたのか。
疑問が滾々と湧く中、ネリネはポケナビに向かいハギさんは今どこ?と訪ねている。
『ハギ老人は、今カナズミシティ付近ロト!』
「ありがとう。洋館でも助けてくれたんだね。どうするホウエンに一緒に行く?」
『色々見て回れたから満足ロト。一旦は戻るロト!ありがとネリネ』
突然ポケナビから声がした。しかも普通に会話をしている。ジジと音がしたと思ったら、ポケナビの画面から何か眩いポケモンが飛び出した。
「これは、ロトム?」
「ロトムというんですね。洋館のテレビから付いてきていたみたいなんです。ポケナビの調子が変だと思っていたけど、まさかこんなポケモンが入っているなんて思いもしませんでした」
「ロトムってそんなところまではいれるのね」
そんな風に感心していたら、ロトムは嬉しそうに笑い身体を上下に動かした。それからどこかに飛び立っていった。ロトムに向かい、ありがとうと呟いたネリネは、準備ができたというように向き合ってきた。
「シロナさん。ありがとうございました」
「こちらこそ。本当に無理はダメよ。気を付けて。あたしもホウエンの知人を通じて何かできることを探ってみるわ。それから、ディアルガとパルキアと、ギラティナについても」
「はい。長老さんたちにもよろしくお伝えください」
頷き合い握手を交わす。ネリネの後ろに控えていた相棒たちもお礼を言うように頭を下げてきた。
「そうだわ。今度会ったら、ポケモンバトルしましょうね」
「はい!もちろんです!」
笑顔で告げネリネはエムリットたちに向き合った。そして頷いた。ありがとうとこちらに顔を向け、再び告げてきた。エムリットたちが光を放つ。
眩しさに一瞬目を瞑った。
そして、再び目を開けたとき、切り取られたようにネリネたちと幻のポケモンはいなくなっていた。
あたりを見回し、ふとガラスが視界にとまった。水面のように揺れ、黒い影が横切ったような気がした。何だろうか?しばらく見つめていても変哲もないガラスだった。気のせいか。
一陣の風が吹く。
己を呼ぶ声が後ろから聞こえた。見ると妹が焦ったようにこちらに来ていた。
「ホウエン地方が大変みたいだよ!ネリネさんにも知らせた方が、」
「大丈夫よ。ネリネさんは行ったわ」
「えっホウエン地方に?」
「ええ」
どうやってというように瞠目している妹。安心させるように微笑むと何かを察したのか、それ以上尋ねることはしなかった。
壁画を再び眺める。ユクシー、アグノム、エムリットは存在していた。確かにその存在を目の前で見た。ならば、このディアルガとパルキアも間違いなくどこかにいる。そして、伝承では語られていなかったギラティナ。きっとどこかにヒントがあるはず。そして、考古学者としての勘が、そのディアルガたちの更に先にまだ何かが存在していると告げている。きっともっと大きな何かが。そう思えてならなかった。
ポケモンとトレーナーとの絆。今までとは異なったかたちであっても、ネリネとその相棒たちには固い絆があった。世界にはまだまだ解明されていないことが多い。
そして伝承者という者の存在。
「ネリネさん。貴女の行く道が幸福で満ちていますように」
彼女の笑顔を思い返し、空に呟いた。