フェルム地方出身
第五章
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『……という訳でフェルムバトルはポケモンとの絆が試されるんですよ』
穏やかな陽気の中、アカデミーで相棒のフカマルと共に座学を受けている。外の気候から考えて、ポケモンバトルにはもってこいな感じだ。
先生の話を聞き流しながら外の風景を眺めていると、私に向かい飛んできた声があった。
『ネリネさん。聞いていますか?』
『……?え。は、はい!』
『今日はフェルム地方の歴史をお伝えしました。始まりの話はなんでしたか?』
『始まり?!え、えーっと。世界の始まりは、そうですね。うーん、』
『……。世界の始まりとまでは言っていませんよ。ネリネさん。いくらバトルが強くても、歴史やその背景を知らねば力は虚しいままで終わります。いいですか?後で来なさい』
みっちり補講をします!と眼を光らせる先生。
やらかした。隣にいたフカマルもやっちゃったねというような顔をしている。
それから補講として、フェルム地方の歴史、といっても伝説のようなものについて滾々と聞かされた。
先生曰く、フェルム地方の始まりは数千年前に突如として現れた隕石によるという。その隕石は世界を滅ぼすような規模であったが、ここだけは残った。それはとある人とポケモンのおかげだった。
もう駄目だと誰もが思った時。伝承者と呼ばれたその者が祈り、あるポケモンと心を通わせ共にその隕石に立ち向かった。世界の大部分が消滅しそうになったが、その力のおかげで奇跡的に全滅はま逃れた。
だが、それにより元の世界と在り方が変わったのも事実だった。一度、何もかもなくなった。生き残った人々ははじめは嘆いたが、それでも前に進んだ。
そして、破壊の後にあったのは創造であった。隕石、伝承者とポケモンの力が合わさり大地に降り注いだことで新たな世界がそこにはあった。それから人々は人とポケモンが心を通わせること、絆により今があるということを、儀式のようにして伝承をしていった。それがフェルムバトルの始まり。
『時代と共にフェルムバトルの在り方は変化し、今は共鳴の強さを競うバトルがメインとなっていますが、元来、絆の力を試す儀式だったのですよ』
それを忘れずに強くなりなさいと、先生は私とフカマルに語り掛けた。
ずしりと腹部に重みを感じ、まどろみから目覚める。眩しい朝日が視覚から脳に直接覚醒を促していく。その景色は先ほどまで見ていたアカデミーの外とは異なっている。先生の気配や声もなく、鳥のさえずりが微かに聞こえるのみだ。
どうやら夢を見ていた様だ。夢と言ってもあれは間違いなくアカデミーに通っていた時の記憶。懐かしいな。微かに鳴き声がしてそちらを見ると、エーフィが私のお腹の上にのっていた。どうやら起こしに来てくれたようだ。
「ありがとうエーフィ。こんなふかふかのベッドで寝たことあまりなくて、思わずぐっすりだったよ」
そんな呟きをしながら、欠伸をかみ殺す。シロナさんの家にある家具はどれも一級品だなこれは。
リビングに向かうとガブリアスとブラッキーが困ったようにこちらをみていた。何だろうと思ったらキッチンから何か爆発音のようなものが聞こえた。何事かと思いキッチンに向かうと、シロナさんがやっちゃったわーなんて言っており、持っているフライパンから黒い煙が出ている光景があった。
「シロナさん、いったい何が?」
「卵焼きを作ろうと思ったのよ」
「……見事なダークマターですね」
シロナさんが見せてきたのは哀しき産物。
料理はあまりしないのよなんて言うシロナさん。どうやら慣れない料理をして私をもてなそうとしてくれたらしい。その心根はとても嬉しかった。卵焼きであるはずだったものは異様にしょっぱかったが。
お邪魔しましたと玄関で頭を下げ、色々あったシロナさん宅を後にしてシロナさんと共にカンナギタウンに向かう。
カンナギタウンはテンガン山の麓にある村だった。シロナさんの祖母である長老様に挨拶し、中央にある古代の遺跡の話を伺った。時間と空間の神。そして、それと対になるようにしていたと言われる三匹のポケモンの存在。
遺跡にはシンオウ神話にまつわる壁画が残されているらしい。
「実物を見た方がいいわ。行きましょうか」
「はい」
シロナさんに連れられ遺跡に向かう。入り口にはディアルガとパルキアが描かれていた。まずは中からと、洞窟の奥に案内される。洞窟に入り奥に行くと、中には三匹のポケモンが描かれていた。そのポケモンたちをみて驚く。
「あれ、このポケモンたちは」
「どうしたの?」
「この三匹、ついこの間会ったポケモンとそっくりです」
「えっ、ネリネさん。ユクシー、アグノム、エムリットに会ったことがあるの?!」
「はい。旅芸人の皆さんとハクタイシティに向かう時に偶然。ハクタイの森の洋館でゲンガーたちに襲われた時に、気が付けば洞窟にいて、そこを出たらおくりのいずみというところだったんです。そこでこの黄色い丸い頭のポケモンに旅芸人の皆さんのところまでテレポートをしてもらったんです」
「おくりのいずみ?」
話を驚きながら聞いているシロナさん。おくりのいずみというところがどこか分からない様子だ。ここですと言いポケナビを使い示す。そんなところに湖が、と呟くシロナさん。今更ながらだが、確かになんで私はあの時あんな洞窟にいたんだろうか。そう思うとあの時何があったんだろうと改めて疑問に思えてきた。
「普段は湖にいると言われている三匹。その三匹がなぜそんなところに。それに、シンオウ地方にもう一つの湖もあるの……?」
おくりのいずみについて調べてみる必要がありそうねと呟くシロナさん。
「入り口にあったディアルガとパルキアと、この三匹。長老さんの話と言い、やっぱり私がこの世界に来たのはディアルガとパルキアが関係しているんでしょうか」
「その可能性は大きいわね。……あれネリネさん、なんで表に描かれたポケモンがディアルガとパルキアって分かったの?」
「え」
あ。確かに。シロナさんはまずは中からと言ってあの壁画のことは話さずに入った。
だが、見たときあ、ディアルガとパルキアだって迷わず思った。
「どうして、でしょうか」
どこかでまただ、と自分を振り返り思う。シンオウ地方に来てから本当に変だ。自分のことなのに自分が分からない感覚。何故だろうと思い、再び三匹が描かれた壁画を見る。
ユクシーと呼ばれた黄色いポケモンと会った時のことを思い出す。微かに目が合ったあの時。
ふと脳裏に何かが浮かんだ。
『ディアルガ、パルキア、ギラティナ。私、いつか自由に、外の世界に行ってみたい。あの人に会って今まで以上にそう思うようになったの』
そう外に思いをはせて私が告げると、頷くドラゴンポケモンたち。
そうだ、神と呼ばれしポケモンは三匹いた。ディアルガとパルキアは描かれている。だが、辺りを見回してもここにはその存在はどこにも描かれていなさそうだ。
「……ギラティナは?」
「え。ネリネさん。ギラティナって?」
「え。あ、あれ?」
何を言っているんだろう、私は。
「すみません。私も何が何だか。この黄色いポケモンと目を合わせたときのことを思い出して、それで急に何かの光景が浮かんで。……正直言って、混乱しています」
「……ユクシーは記憶を司る神とも言われているわ。もしかしたら、何かの記憶が?」
「けど、私にはそんな覚えはないんです」
その一方で、その記憶にいる私は私だと思う。その時の感情まで蘇ってくるくらいだ。何なのだろうか?
シロナさんも真剣な顔で何かを考えている。ギラティナ、おくりのいずみと呟いている。
不思議な感覚を抱えながら遺跡を出る。
出た先にポケモンセンターが見えた。最近連絡が取れていないハギさんと連絡がとれるだろうかと思い、シロナさんにホウエン地方と連絡を取っていいか尋ねた。
「あたしもおばあちゃんと相談したいことがあったから全然平気よ。また合流しましょう」
「はい」
集合時間を決めて一旦別れる。ポケモンセンターに入り、連絡を試みるも、やはり繋がらなかった。
「ホウエン地方で何かあったのかな?」
ポケナビをいじり、ハギさんの連絡先を眺める。どうしたのだろうか。試しにその連絡先を押してみる。また電波の届かないところにってアナウンスが来るんだろうな。
そう思い不毛なことだと電話を切ろうとしたら、突然ポケナビから大きな声が響いた。
ーネリネちゃん!帰って来たのか?!
「え、ええ?!ハギさん?!繋がった?!」
ーなんじゃ?今どこにいるんじゃ?
「まだシンオウ地方です」
ーシンオウ地方じゃと?!なんで繋がっとるんじゃ。
「で、ですよね。けど確かに繋がっています」
ーけどそれならよい!今ホウエン地方が大変なことになっとる。しばらくはシンオウに、
ーハギちゃん!何をしている、ここも危険だ!
ーああ今行く。残りの住人を逃がすんじゃ。すまぬネリネちゃん!またの!
ハギさん!と告げるも通話が切れた。ハギさんの言葉の後ろからは騒がしい音が響いていた。ホウエン地方が大変なことになっている?どういうこと?
そう思っていると、ポケモンセンターのテレビで緊急速報としてホウエン地方で天変地異が起こっているという話がでた。ホウエン地方への渡航を中止するという話が耳に入って来る。
「何が、起きているの?」
嫌な予感がする。ガブリアスたちも心配そうな顔をしている。
私は焦燥感に駆られながらポケモンセンターを出た。その時にちょうど人が来ていたらしく、ぶつからないようにと思わず私は足を止めた。
「君は」
「貴方は」
そこにいたのは、以前ポケモンコンテストの後に出会った男性だった。向こうも覚えているのか、なぜここにというような顔をしている。突然の再会に驚いて止まっていると、その人は私とガブリアスたちを交互に見るようにして何かを見定めるような眼差しを向けた。
「君は、世界の始まりを知っているか?」
え。突然の質問に思わずそんな声が口から洩れた。