フェルム地方出身
第五章
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舞台袖からちらりと会場を眺める。まもなく開始しますといったアナウンスに会場から拍手がわき上がる。
止まらぬ歓声と拍手の雨に心臓が激しく脈打つ。ソワソワする思いを落ち着かせるように、耳につけているバトルグラスをいじる。
「ほ、本当に、だ、大丈夫かな」
カチコチに固まる私を勇気づけるようにガブリアスが私の背中に頭を押し付けてきた。
そうだ、これはフェルムバトルと一緒だ。そう考えよう。あれだって大歓声の中でやっているんだ。大丈夫と再び言い聞かせる。
ポケモンコンテストは、全部で3つの審査が行われる。それぞれでアピールをしなければならない。シロナさん曰く、難しいものはないから大丈夫と言って詳細はあまり分からないままだが、本当に大丈夫なのだろうか。とりあえず使うからどうぞと、いろいろなものが入ったアクセサリーボックスをシロナさんから預かったが。
これから何が起こるのかもそうそう分からないまま考えていると、さあ!とスタッフから声をかけられガブリアスが行こうと爪で舞台を示していた。
「うん!さあ行こうか!」
「ネリネさんとガブリアスちゃんです!」というアナウンスに視界がパッと明るくなる。眩しいライトと拍手に戸惑う。ガブリアスもわずかに緊張しているのか、いつもより動きが少ない。
「それでは一次審査です!」
参加者の紹介も終わり、控え部屋へと案内される。一次審査はアクセサリーでポケモンをかざるらしい。テーマを言い渡されるが、何がそれに当てはまるのか分からない。
ガブリアスとこれがいいかな?あ、でもこっちのほうが?とか相談しながら話していたら、そろそろお時間ですーと声がかかった。ちょっと待ってー!
「ええい!こうなれば、ままよ!」
ラストにとりあえずつめこんで、ガブリアスに色々つけていく。
なんか前衛的なオブジェのようになってしまった。ガブリアスもジト目でこちらを見ている。お前なんてセンスしているんだよと全力で訴えかけてきている。
「いや、一周回って良い感じかもしれない」
そんなことを呟く私にガブリアスも考えこむような顔をして、まあいいかというように息をついた。といってもアクセサリーで表情は分かり難いけど。
審査委員の声で、それぞれのポケモンたちが紹介されていく。
ネリネさんのガブリアスちゃんです!というアナウンスにガブリアスが全力でポーズを決める。
他の人たちは拍手やヒューヒューと言った声が上がっていた。
どーんと示した私たちは、一瞬の水をうったような沈黙。どよめきと共に一部パラパラと拍手が上がった。だが、それもまるで気まずいこの雰囲気を何とかしようと気をきかせたような拍手に感じられた。
「……ごめん、ガブリアス」
見事撃沈した私たち。ガブリアスがポンと私の肩を軽く叩いた。泣けるぜ。
続きまして2次審査ですとアナウンスが入る。そうだまだ2つの審査がある。気を取り直していこうとガブリアスと頷きあう。
次は何だろうかと思っていると、ダンスをするというものだった。参加者が順番にメインで踊り、そのダンスの真似をする。そのダンスを上手くできるか、メインの時はセンスが問われている。
「私リズム感ないけど、これいける?」
そうガブリアスに呟くように問うと、またジト目を向けられた。だがやるしかない。ダンスの指示はこちらが行うようだ。その行い方は自由な感じだ。
曲が始まり、メインポケモンが踊る。なるほどああいう感じか。それを真似するようにガブリアスに指示を出す。指示といっても、いつものように言葉には出さず心を通わせるだけだが。なかなかいい感じだ。それに楽しい。私もガブリアスと同じように体を動かす。
私たちがメインの番が回って来た。ガブリアスが踊りたそうな動きを見極めて指示を出す。
ガブリアスも楽しそうに踊っている。参加者の一人が「どうすればあんな動きできるんだ」なんて呟いて真似に困ってそうな様子が視界の端でちらりと見えた。
「お疲れ様でした!さあ次は最終審査!技審査です!」
そして中間結果を告げられる。どうやら今のところ違う人がトップのようだ。技審査と聞いて、これは私たちの得意分野では?とガブリアスと顔を見合わせる。
よーし逆転ねらうぞ!
3人いる審査員にそれぞれアピールしていくようだ。いこうガブリアス!と声をかけ腕をぶつけあう。ガブリアスもやる気満々だ。先ほどのダンス審査から私たちのボルテージも上がっていた。
「さあコンテストも終盤!存分にアピールをしてください!」
アナウンスが入り、それぞれが技を繰り広げる。さあ次は私たちの番だ!
「いくよ!ガブリアス!」
いつもの調子でいけば大丈夫。そうガブリアスと目を合わせ技を繰り出していく。やはり思う存分体を動かせるのが嬉しいのか、ガブリアスも生き生きとしていた。そんなガブリアスをみて私も嬉しくなる。観客も盛り上がっている。審査員もガブリアスの技をみて、おおと声を上げているのにどこか誇らしくなった。
何回かローテーションで技を行っていく。他の参加者の技も面白く、競うべき相手であることも忘れてガブリアスと共に盛り上がっていた。
「さあ最後の技審査です」
あと一回の技審査でコンテストは終了する。分からないまま始まったコンテストであったが、こんなに楽しいとは思わなかった。共鳴ゲージも十二分に満タンだろう。ガブリアスと顔を合わる。
「最後だし、共鳴バーストしちゃう?」
会場も広いしいけるんじゃないかと思う。ガブリアスは当然とばかりに胸をはった。よし!
「ネリネさんどうぞ!」
「はい!」
審査員3人が注目する。興味深そうに私たちを見ている真ん中の人に向けたアピールをする。
舞台の真ん中に立ったガブリアスと目を合わせ、頷きあう。バトルグラスに手をかける。何か違う雰囲気を感じたのか、会場が静まりかえった。
「ガブリアス!」
私の声と共にガブリアスの咆哮が会場を揺らす勢いで響く。ガブリアスが空に跳ねる。眩い光がガブリアスを包み、姿が変わる。
何事かと審査員や会場の観客たちが息をのむ。
姿の変わったガブリアスが技を繰り出していく。会場が揺れる。久しぶりに共鳴バーストを決められることにガブリアスも嬉しそうだ。私が新たに指示を出そうとしたら、ピピーッという笛の音と共に、スタッフが慌てたように出てきた。
「ちょ、ちょっとー!ネリネさん!ガブリアスちゃん!ポケモンを変えるのはルール違反です!!」
「えっ?!」
スタッフに止められ、戸惑う。変えたわけではないのだが、確かに進化とも言えるのだろうか?
私が止まったことで、ガブリアスも止まる。シュンと光と共に、ガブリアスの姿が元に戻った。元に戻ったことにスタッフが驚いた様子を見せている。何が起きたのかといった表情だ。
「すみません。あの。その、知らなくて」
「あ、いや。ですが……。前代未聞ですので、どう対応するか」
困りますねといったように、審査員3人に目を向けるスタッフ。静かだった会場にどよめきがわく。あれは何だ?ガブリアスって進化するの?会場抉れているけど、なんて声が聞こえてくる。セーブしたつもりであったが、会場を少し壊してしまったかもしれない。
「ちょっとごめんなさいね。ネリネさん!」
「シロナさん」
失礼ーと言って、客席から現れたのはシロナさんだった。シロナさんは審査員とも知り合いなのか、何か話をしている。
初めての参加だったため知らなかったとして、今回は途中棄権とさせてもらった。ごめんなさいと思いながら、舞台を降りる。
ガブリアスはやってしまったとばかりに落ち込んでいる。その様子にこちらが申し訳なくなってくる。