フェルム地方出身
第五章
名前変換
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『起きて!流星群はじまっちゃうよ!』
誰かが私に声をかけている。ごめん、眠いから、もうちょっと。
『もー!……あー!ほら!流れたよ!』
早く早くと声をかけられる。相変わらず元気いっぱいだ。流星群なら、きっとこれからたくさんの流れ星が来るだろう。だが、仕方ない。あんな元気いっぱいに、嬉しそうに話しかけてくるのだ。起きるか。
ふああと、微かに欠伸をして体を起こす。
「そんなに焦らなくても星は逃げないよ、ヒガナ」
待っている彼女に声をかける。ゆるやかに頭が覚醒してくる。
しかし、返事は一向にない。
どうしたのかと思い、辺りを見回すも、柱があるのみで静寂に包まれている空間が広がっていた。周囲の様子から、ここは洞窟か。
え。ちょっと、待って。
「……ヒガナって、誰?」
まただ。また、この感じ。いったいどうしたというのだろうか?
いや、今はそれよりも。ここはどこだ?
「ガブリアース!エーフィー!ブラッキー!」
いつもそばにいた相棒たちの気配がしない。急に不安に駆られる。そうだ。確か、怪しいお屋敷でゲンガーたちと対峙して。そして、怪しげなテレビのお部屋でゲンガーたちと戦って、急に後ろに引っ張られて。
光に包まれて見知らぬ場所にいる。もしかしてフェルム地方に戻って来た?そう一瞬思ったが、相棒たちもいないし、フェルム地方だとしても全く知らない場所だ。
とりあえずはこの洞窟の様なところから出よう。そう思い、ポツンとある柱を調べてみるもところどころ掠れており、『3本の柱を抜けて、まどろむ の元へ が30を超える前に』などと意味深なことしか読み取れなかった。出口と思わしきものは4か所。どうしようか。
とりあえず行ってみるかと思い、ちょうど先にあった部屋に入るも、また同じ場所に戻っていた。なんだこれ。
困ったと思っていると、ふと鞄の中でジジ……と電子音がした。何だろうと思い見てみると、ポケナビの画面が点滅していた。
もしかして、旅芸人の誰かが連絡をしてくれているのだろうか。いやそもそも、ポケナビで連絡を取れば良いじゃないか!そう思いポケナビを出すも、画面が点滅し、一瞬砂嵐になりすぐに戻った。同時に、日時を確認すると次の日になっていて、もう朝のようだ。ガブリアスたちは大丈夫だろうか。旅芸人の皆にも心配をかけているだろう。
「……圏外」
ですよねー。なんて思い、ため息を溢す。マップとか機能しているのかな、なんて思いながら軽くいじっていると、画面が一瞬また砂嵐になり、突然矢印が表示された。
「?こっちに行けってこと?」
ポケナビを動かすと、矢印も動く。その矢印の先には、4つあるうちの1つの出口があった。とりあえず、信じて行ってみるかと思い足をすすめる。
ひとつ。
ふたつ。
みっつ。
部屋をぬけていくと、足元に光が差し込んできた。外だ!
「やったー!でられた!」
早足で外に出ると、そこには湖が広がっていた。霧が深いためその規模は分からないが、それなりの大きさがありそうだ。
安堵と共に、再びポケナビを見る。時々画面が点滅したり歪むが、何か壊してしまったのだろうか?心配になるが、このナビゲーション機能に助けられた。ツワブキさんにしっかりお礼を言っておこう。
「にしても、ここはどこだろう?」
マップを立ち上げようにも画面が点滅していて上手く表示されない。
『……「おく…りのい…ずみ」…ロト』
突然点滅と共に、出てきた文字に驚く。え、音声認識?こんな機能あるの?それにロトってなんだ?
「おくりの、いずみ?」
聞いたことのない地名に、思わず呟くと数回の点滅のあと、シンオウ地方のマップが表示された。そして、光る丸があった。きっと、ここにいると示しているのだろう。便利な機能だ。
どうやら、あのお屋敷があったハクタイシティの方からだいぶ遠くにいるようだ。だが、変わらずシンオウ地方にいることは分かった。
旅芸人の人たちに連絡しようと思い、連絡先をひらこうとしたタイミングで、ちょうど連絡が来た。
「もしもし」
ーネリネちゃん!やっと繋がった!
「ご心配をおかけして申し訳ありません」
ーガブリアスちゃんたちが、もっのすっごい形相で宿に飛び込んできたときは何事かと思ったわ。それにずっと連絡繋がらないし。
「ガブリアスたちは無事なんですね!」
よかったと呟く私に、姉御さんはそれは私たちの台詞よ!と言われた。
ー無事ならよかったわ。どこにいるの?
「おくりのいずみというところです」
ーおくりのいずみ?
「はい。どうやらリッシ湖とかの方みたいです」
ーええ?!なんでそんな遠くにいるの?!
「私も分かりません」
とりあえず、今から戻ります、と告げようとした時、ふと何かが私の横を過ぎ去ったのか、微かな風が吹いた。
ー……ネリネちゃん?
「あ。いえ、気のせいみたいです」
どう合流しましょうか、ネリネちゃんポケモン今いない状況だしテンガン山を越えるのは危険だし、と旅芸人の人たちが言葉を交わしているのが聞こえる。私もどうしようか考える。
きゅわんと頭上から声がして、何だと思い上を見る。
「?!」
見たことのない3匹のポケモンが空にふよふよと浮いていた。尻尾のようなものをたなびかせ、黄色、桃色、青色の小さな3匹が楽しそうに私の周りを飛んだ。悪意はなさそうだが、いったい何だろうと疑問が浮かぶ。
ーネリネちゃん?どうしたの?
「……見たことない、ポケモンが」
ーえ?ポケモン?!大丈夫?!
無言になった私を心配して声をかけてきた旅芸人の人たちは、私が野生のポケモンに遭遇し襲われていると思ったのか、焦ったような声がポケナビを通じて響く。
害はなさそうに見えるが、突然、黄色まるっとした頭をしているポケモンが私の顔の前にぴたりと止まる。
あまりの近さに驚いていると、そのポケモンの額にあった赤い石のようなものが煌めき、閉じられている目がうっすらと開いた気がした。
微かに眩暈がして、目を閉じる。目を閉じる直前、きゅわんと声がして桃色と青色のポケモンが視界の端を横切った。
一瞬浮遊感のようなものに包まれた。
「?!」
「え。ネリネちゃん?」
「え。あれ?私、どうして?」
一瞬の浮遊感の後、目を開けるとそこには、旅芸人の人たちがいた。あたりを見回すも、湖はどこにもない。何が起きたのか理解する前に、衝撃が私を襲った。
この感覚は。
「ガブリアス!エーフィ!ブラッキー!よかったあ!」
ガブリアスたちが体当たりをしてきた。心配をかけた。何が起きたのか分からないが、とりあえずは戻って来たみたいだ。
「突然現れたからびっくりしたわ」
「エーフィちゃんがテレポートでもしたのか?」
「違うって首を振ってるぞ」
「じゃあいったい何が?」
「それに、ポケモンに襲われていたんじゃ?」
「いえ。きっと、そのポケモンがここに運んでくれたんだと思います」
「へえ。珍しいこともあるもんだ」
「けどネリネちゃんが無事に戻ってこれたからよしだ!」
先ほどのポケモンがテレポートでもしてくれたのだろう。確かに見た目はエスパーぽかった。
なんにせよ、よかった。今度あの子たちを見かけたらお礼を伝えよう。何となくだが、また会える気がする。
シャワーを浴びた後に旅芸人の人たちと出発し、ハクタイの森を抜ける。その時に、昨日行った古びたお屋敷が見えた。昼間に見ても不気味だ。しかも、あそこでは昔、小さい子とその祖父が命を落とし、今もその霊がさ迷っているという噂があるらしいことを旅芸人の人から聞いた。
その噂を利用してゴーストタイプのあの子たちが悪戯をしているのか、本当にそこで哀しい出来事があったのか。真実は分からない。けれど、昨日の夜の出来事を振り返り、無視はできなかった。ガブリアスたちと顔を合わせ、お屋敷に向けて手を合わせた。
ふと、一つの部屋に目が留まる。あそこは恐らくテレビがあった部屋。微かにしか見えないが、テレビが砂嵐のままついているような気がした。そして、そこを二人の人影が横切った気がした。うん。きっと、気のせいだ。
どうか安らかに。そう思い、持っていたポフィンとモモンの実をその屋敷に供えるように置き、旅芸人の人たちを追いかけた。