フェルム地方出身
第四章
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「ちょっと待って!」
いくらなんでも早くないか、あの子。私もフェルムバトルをしている身だからそれなりに鍛えている方で運動はできるほうだと自負していたが、あの子はどんな運動神経しているんだ。
突然現れた謎の少女。私の返事を聞く前に、走って暗い森の中を進んでいった。
待ってという私の言葉は耳に届かないのか、きゃはと笑いながら森を進んでいく少女。見失ったかと思ったら、こっちだよ!とどこからともなくひょこりと顔をのぞかせ私を誘う。
こんな夜更けに、あの子は何をしているんだろうか。そういった心配もあって、放っておくこともできなかった。
「こっち!こっち!あそこのお屋敷なの!」
少女が指さし、走り去っていく。
どこにそんな元気があるんだなんて思いながら追いかけると、突然森の中に大きな屋敷が現れた。そのお屋敷の大きさに、ガブリアスたちと驚いて顔を見合わせた。
こんなところにこんなお屋敷があるとは思いもしなかった。
どうやら少女は中に既に入っているのか、どこにも見当たらなかった。
「ねえ。ここでいいの?」
そう尋ねるも、返事はない。先ほどまであんなに元気にはしゃいでいた少女の存在が、辺りにはどこにも感じられなかった。
ガブリアスたちとどうしようかと、話をしていると、唐突にお屋敷の扉がゆっくりと開いた。ぎいい、という音を立ててひとりでに開いているその姿は不気味だ。
「どうする?行く?」
静寂の中、ガブリアスたちに聞くも彼らも困ったような顔をしている。
前にフェルム地方でお化け屋敷に行ったとき、ブラッキーはそれなりに平然としていたが、エーフィと何故かガブリアスまでもおっかなびっくりで、私の服を掴みながら後ろをひょこひょことついてきていた。ガブリアスとエーフィがちょっとした物音に毎回敏感に反応する姿を見ていて自分の怖さは消えていたものだ。
そんなことを思い返していると、こっちだよ!と元気な少女の声が扉の向こうから聞こえた。
「とりあえず、行きますか」
私の言葉と共に、エーフィのしっぽがピンと伸びた。大丈夫だよと宥めながら屋敷へと向かう。
外からでは明かりがついているのかすら分からない屋敷。不気味すぎるが、あの子のことも気になる。
お邪魔しますと、屋敷に足を踏み入れた途端、明かりがついた。
突然のことにびくりとする。ガブリアスがさり気なく私の後ろに隠れてきた。怖がってると笑いかけると、アナタを守るためですと言わんばかりにふんぞり返って来た。全く。
ついた明かりはどうやら炎のようだ。私たちの影が、炎に合わせてゆらゆらと揺れている。
ふと、何かが横ぎった気がした。何だと思いあたりを見回すも何もいない。
「お客様とは珍しい。お待ちしていましたよ。ようこそいらっしゃいました」
声をかけられ、そちらを向くと笑みを浮かべたご老人が立っていた。いつの間にいたのだろうか?
「はじめまして。女の子に誘われまして……お邪魔しています」
「あの子に連れられてきたんですね。どうぞどうぞ」
あの子、ということは知り合いなのか。この人が少女の言っていたおじいちゃんだろうか。
すぐに帰りますと言い出す間もなく、どうぞと言われ連れられながら屋敷の中を歩く。綺麗なお屋敷だが、どこか違和感がある。
「ご夕食でもいかがですか?」
「あ。いえ。済んでおりますのでお気になさらず」
「そう言わず、さあさあ」
「本当にたまたま寄っただけですので。あの、あの子は?」
笑顔の圧が強い。本当にふらりと寄った身。ガブリアスたちもそわそわしている。私としてもどこか落ち着かない心に、申し訳ないがあの子に会って一言だけ話して帰ろうと思った。
「ここにいるよー!」
い、いつの間に。隣に突然現れた少女に心臓が微かに跳ねる。
「誘ってくれてありがとね。君がお家に着いたのも確認したし、お姉ちゃん、そろそろ帰るわね」
「帰るなんてダメだよ!夜ご飯も一緒に食べるの!」
激しく駄々をこねる少女に、申し訳ない気持ちになる。ここはハクタイシティに繋がる道だ。きっと明日の昼に旅芸人の皆と共にまた通るだろう。
「明日の昼、この付近を通るから、その時また会えるよ」
「いやいや!一緒にいるの!」
「!」
行かないでとばかりに、少女が私の腕を掴んだ。
その手の冷たさにどきりとした。全く体温を感じない手。思わず条件反射のように、振り払ってしまった。
少女がしまったという顔をしたと思った途端、その顔が激しくゆがんだ。
ブラッキーが唸ると同時に、ガブリアスが私の前に飛び出し何かを払いのけた。エーフィが私の足元に庇うように立っている。
戸惑いながらあたりを見ると、先ほどまでそこにいたはずの少女がいなくなっていた。
「何があったんですか?」
奥に立っているご老人に、何があったのか声をかけるも返事がない。どうしたのかと思っていると、ご老人の輪郭が揺らめいた。驚きのあまり絶句する。
「どうか、お許しを」
「……え?」
どういうことか、と聞く前にご老人の身体が透けてきた。霞のように揺らめいている中に、微かにポケモンの気配を感じた。
この感じは……。
「ガブリアス!」
何度かフェルムバトルでもあたったことのある。トリッキーなことを多くしてくるあのポケモン。
ガブリアスの名を呼び、待っていたとばかりにガブリアスが飛び出す。とびかかるようにして攻撃を繰り出すも、小憎らしい笑みと共に消えた。
ガブリアスが気配を探るように身を低くするも、どうやらあたりにはいないのか、起き上がり私の元に戻って来た。
「ゲンガー、やっぱりやっかいなポケモンね」
あの子たちは、ゲンガーが見せていた幻だったのだろうか?
とりあえずここから出ようかと、ガブリアスたちに告げる。明かりが消え、ブラッキーの明かりだけが頼りだ。
一息ついて、辺りを見回してぞっとする。綺麗だと思っていた屋敷は、荒れ果てていた。ゴーストタイプがたくさんいそうな場所だ。あれらもゲンガーの作り出した幻覚だったのだろうか。
おかしい。
歩き回るも、一向に出口が見つからない。確かご老人に案内されたときは一直線だったはずだ。
困った。エーフィにテレポートを頼んだが、どうやら上手くいかないようだ。ゲンガーがやっているのか。このままでは埒が明かないと思い、息を吸った。
「ゲンガー!いるんでしょう?でてきてくれる?ここから出してほしいんだけど」
……しーん。
まあそう易々とでではくれないよな。
そう思っていると、相変わらず小憎らしい笑みを浮かべたゲンガーがひょこりと彫刻のところから顔を出した。そうやっているのは、かわいいのだけれど、今は状況が状況だ。
「ゲンガー、出てきてくれてありがとう。ここから出してくれる?」
げげげ、と言いながらゲンガーも困ったような顔をしている。どういうことか?できないのかと聞くと、こくりと頷いた。
「ゲンガー以外のゴーストタイプの子がやっているの?」
ゲンガーが身体を左右に振っている。恐らく違うと言っているのか。
「じゃあこれはどういう状況なの?」
ゲンガーがうーんと、顔を上に向け悩むようなしぐさをする。すると、突然、少女の無邪気な笑い声があたりに響いた。エーフィがびっくりしたように再び尻尾をぴんと張った。
「逃がさないよ。ずっと、一緒に遊んで!」
まさかの本当のお化け屋敷?!
そう思い背筋が凍る思いをしていると、ゲンガーが突然引っかかったとばかりに、笑い始めた。
「え、何?!」
げげと言いながらふわふわと宙に浮く。その周りに、ゴース、ゴーストといったゴーストタイプが集まって来る。
そして、一斉に私たちに向かって遊ぼうとばかりに襲い掛かって来た。
「ゲンガー!だましたわね!!」
私の言葉が誉め言葉とばかりに、ゲンガーが悪戯に成功したとぴょんぴょん跳ねている。
ちくしょう!と思いながら、踵を返す。いくらなんでも数が多すぎる。まずは一旦は逃げようとガブリアスたちに声をかける。ガブリアスも何度も首を縦に振っている。
「あそこ!一旦あそこに隠れよう」
ある程度走り回り、それなりに振りきれたところで近くにあった部屋に滑り込んだ。
その部屋には、古びたテレビがあるだけだった。