フェルム地方出身
第四章
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「ここらへんでいいか」
ガブリアスたちの方を見ると頷いてきた。待ちきれないといった顔をしている。私が座り込むと、ガブリアスが正面に座り込み、エーフィとブラッキーがそれぞれ私の横にやって来た。買った食べ物を開けて食べる。
傍らでガブリアスたちは、持っていた木の実で作ってみたポフィンというものを食べている。何種類か作ったが、ガブリアスは渋味、エーフィとブラッキーは辛味が苦手みたいだ。それぞれが好みの味を見つけて食べている。喧嘩せず分け合っている相棒たちの姿に自然と笑みが零れる。
「懐かしいね。こうやって見知らぬ場所で、皆で外で食べるの」
私が呟くと、ガブリアスたちも声を上げる。撫でると嬉しそうな顔をした。この子たちがいるだけで、頑張ろうと思える。
ガブリアスがフカマルの時の癖を微かに見せて甘えてくる。今でこそ、唯一無二の相棒。出会った頃の様子が嘘のようだ。
初めて出会った時のこと、今も鮮明に覚えている。
フェルム地方ではある程度の年齢になると、試験を経てポケモントレーナーの資格を持つことができる。トレーナー家庭でなかったため、トレーナーになりたいと言った時はびっくりされたものだ。
試験を受けてスクールに通い、相棒となるポケモンを見つけ、そのポケモンと共に最終試験を受ける。
相棒となるポケモンは自分で見つけることになっているが、だいたいが家族から授けられたり、元から相棒と考えているポケモンがいたりする。私の場合はトレーナーになりたいと思った時から、相棒を探していたが、なかなか見つからなかった。そういった人達のために、スクール管轄の相棒ポケモンを探すエリアがあり、そこで色々と教わりながら探すことができた。
そうして出会ったのが、フカマルだ。
フカマルは問題児と名高く、他のポケモンにも強く当たるため、そこでは一匹オオカミのような存在だった。相棒にしようとしたトレーナーはそれなりにいたようだが、気性の粗さもあり、ずっとトレーナーがいないまま。完全に腫物扱いになっていたフカマル。たまたま見かけ、私がフカマルを見つめていたら、サポートでついてきていた先生からそのことを伝えられた。
そう話している間も、フカマルは他のポケモンと喧嘩をしていた。あの子はやめた方がいい、行きましょうと言われその場を去ったが、その時ちらりと見えたフカマルの背中に、寂しさを感じた。
この子はどうだろうかと先生に何種類かのポケモンを紹介されても、何故かしっくりこなかった。その感覚には従った方がいいと言われ、相棒は見つからないまま。ついに相棒が見つかっていないのは私だけという状態になってしまっていた。
一人でふらりとエリアを探っている中、再びばったり出会ったフカマル。私と目があった途端、威嚇するように唸ってきて、まずいと思い逃げようとした。それを許さないというように、フカマルはそのまま体当たりをしてきた。かなりの衝撃であったが、フカマルと身体が触れた途端、フカマルの感情が色々と伝わってきた。
「君、寂しいの?」
倒れこみながら尋ねたら、フカマルは怒ったように噛みついてきて、去っていった。フカマルに触れたとき、一人が寂しい、一緒にいてくれる存在が欲しいと叫んでいるようだったが……。去っていったフカマルに待ってと声をかけ、触れるがまた体当たりをされ、穴を掘って逃げられた。地面に潜って消えたところを見つめながら、先ほどの感情はフカマルのではなく自分の感情だったのだろうかと疑問に思った。
それからもフカマルとばったり会うことが増え、その度に体当たりをされたり何だりした。相当嫌われていると思い、困ったものだと思っていた。
それと同時に、先生から明日までに見つけられなかったら、トレーナーになるのは厳しいと言われ私は焦っていた。感覚も大切だとは言ったが、世の中そう上手くいかないことも、妥協することも必要と諭されたりもした。
期日となる日、いつものようにフカマルと遭遇し、地ならしをしながら岩なだれと共にステップをして近づいて来た。ちょっとおお!と思いながら逃げようとしたが、沼であったため、そこに足をとられ私はそのまま地面とこんにちはした。泥まみれになった私を笑うように、楽しそうに跳ねているフカマルの姿を見て、無性に腹が立った。
「あのね、ここ最近ずっと何なのよ!危ないから!私は相棒を見つけなきゃいけないの!時間がないのよ!貴方に付き合っている暇はない!」
憧れて目指したポケモントレーナー。周囲にはトレーナー家系でもないし無理だと言われても、なりたかった。周りが相棒を見つけ、トレーナー試験に合格したと話している姿を見て、自分の無力さを突き付けられている気がした。こんな形で諦めたくなかった。
相棒は見つからず、一匹のポケモンに嫌われ、泥まみれになって笑われている惨めさに、視界が滲んできた。
突然怒り、泣き出した私に対し、フカマルが動きをぴたりと止めた。そして、こちらに近付いて来ようとした。これ以上また体当たりされたり、笑われるのを耐えられるほど私は強くない。フカマルにこっちに来るなと告げ、私は立ち上がり走った。
一心不乱に目的地も定めず走っていた私は急勾配に気が付かず、そのまま下に落ちた。下にいたポケモンたちが落ちてきた私に驚き、襲ってきたりと踏んだり蹴ったりだった。
今まで相棒としてポケモンを連れ、共に過ごしているトレーナーの姿を見てきていた。だが、ポケモンは本来その名の通りモンスター。心を通わせず相棒としていない、野生のポケモンは獰猛な獣だ。
襲われ傷だらけになりながら、自分は何を目指していたのか、自分がやりたいのは何だったのか、疑問を持った。
このままではポケモンが嫌いになりそうだ。それは、嫌だった。
命の危機を覚えながら、襲ってくるポケモンたちから逃げようと身構える。ふと嘶きのような鳴き声が響き、そのポケモンたちが、視界から消えた。私は何が起きたのか分からないまま、安堵と共に、意識を失った。
何かに頬をふにふにされ目が覚めた時、周りは何かが暴れたのか地面が抉れていたりしていた。私の頬を押していたのは、キモリだった。
「君が助けてくれたの?」
私が起き上がり、尋ねるも、キモリは首を傾げている。話があまり分かっていないのか手を叩き、尻尾でオボンの実を私の方に押し出してきた。
「ありがとう」
ポケモンの優しさに触れ、また涙が出そうだった。この子なら、もしかしたら相棒になれるかもしれない。ねえ、と声をかけるとキモリがまた首を傾げてきた。
「もし、よかったら。私の相ぼ……痛ったあ!!」
相棒になってと告げる前に、何かが私に思いっきり体当たりをしてきた。
この感覚は、間違いなかった。
「フカマル!いい加減に」
してくれと、いう前に私は言葉に詰まった。フカマルは、私以上に傷だらけだった。何があったのか、と聞くと、ふいと顔を逸らされた。キモリが横で手を叩き、抉れた地面を指しながら、去っていった。
抉れた地面。傷だらけのフカマル。意識を失う前のこと。それぞれの点と点を繋ぎ、まさかという結論を考えた。
「フカマルが、助けてくれたの?」
ふんと言うように、こちらを見てきた。その様子から、フカマルが助けてくれたのだと理解した。お礼と共に、先ほどキモリから貰ったオボンの実と自分が元から持っていたオレンの実を使う。
「ありがとう。さっきは、その、ごめんね」
隣にちょこんと座り木の実を食べているフカマル。まさかフカマルとこんなことをするとは思いもしなかった。フカマルがふと、食べるのをやめ、私の方に食えとばかりに残りを差し出してきた。
「いいよ全部食べて。ありがとう。じゃあそろそろ」
相棒を探すのを再開しないと、と告げ、陽が傾きつつある空にため息を溢し立ち上がる私に、フカマルがまた体当たりをしてきた。
「痛ったあ!もう本当に急がないといけないから。私がトレーナーになったらいつでもバトルしてあげるから」
そう言う私の服を頑としてフカマルは噛んで離さなかった。どうしたのかと思い、落ち着いてくれと言わんばかりにフカマルに触れた途端、フカマルの思いが流れて来た気がした。
「……相棒に、なってくれるの?」
一緒に行きたい、他のやつは嫌だ、という声が聞こえた気がした。私の疑問に、ぎゃうっと声を上げていた。
その姿に、口元が緩むのを止められなかった。ポケモンが一緒に行きたいと言ってくれている。しかもあのフカマルが。今まで他のポケモンではなかった感情が心に沸々と湧いてきた。
嬉しさがこみ上げ、フカマルをがっしりと包んだ。
「相棒。相棒!本当?!やったー!ありがとうフカマル!よろしくねフカマル!!」
喜ぶ私に向かってフカマルが体当たりをしてきた。相変わらず痛いが、もしかして、今までの体当たりはフカマルにとっては、私と遊んでいるつもりだったのだろうか?そう思いながら、泥まみれ傷まみれの姿のまま走って二人でスクールに戻った。
それから、晴れてポケモントレーナーと相棒となり、二匹のイーブイと出会い、共に過ごしてきた。心を通わせながら成長してきた私たち。ある日突然、光物が好きなガバイトが共鳴石を見つけてきた。それをきっかけにフェルムバトルをはじめ、相性が良かったのか順調に勝ち進んできた私たちは、頂点を極めることを目標とした。その最後の最後のところで、私はこの世界に来てしまった。
ポフィンを食べているガブリアスたちを再び見つめる。それぞれが最終進化の姿になり、これまでの成長に思いをはせる。
共に月日を重ね、存外さみしがりなフカマルは、ガバイトに進化したらやんちゃ盛りから少しばかり落ち着きが出てきた。更に、ガブリアスに進化してからは、落ち着きに磨きもかかり、陽気な姿も見られるようになった。意地っ張りな面もあるが寂しい時とかはさり気なく甘えてきたりする。
エーフィとブラッキーは、陽が水平線に溶けるような時に二匹とも進化した。
「ありがとね、皆」
急にお礼を言ってきた私に不思議な顔をしてきたが、すぐに嬉しそうに笑いかけてきた。けど私のお皿に、食べろとばかりにポフィンをのせるのはやめておくれ。
「わーお姉ちゃん、ポケモン連れているんだね!あっちに素敵なお屋敷があるの。一緒に遊ぼうよ!おじいちゃんも喜ぶと思うの!」
暗闇の世界の中、突如として場違いなほど無邪気な声が横から響いた。