舞い降りた天使
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「全く。同じ日に同じ人物が。こんなこと前代未聞ですよ」
「お前、神様なのか?」
「そう言っていただけるのは光栄ですけどね。残念ながら違いますよ」
なら何者なんだ、そう告げる前に額に指に当てられ、静寂な空間は幕を閉じた。再び騒がしい空間に戻る。
周囲には病院の医師や看護師のような人たちに囲まれていた。意識戻ったぞなんて言いながら目に光を当てられたりなんだりされる。先ほどの松葉杖の人から謝罪を言われる。
またかよ。
何とか解放され、今度こそ病院を後にした。部活はとうに終わっている時刻だ。アイツを探したがどこにも見当たらなかった。
アイツは何者なんだろうか。俺のケガを治したりしているが、神様ではないらしい。あの白い羽からして、天使だろうか。
まあもう会うこともないだろうかなんて思っていたが、存外すぐに会うことになった。決まっていつも俺が死にかける。その度に、苦い顔をされまたあの空間にとんで、額に指をあてられ気が付けば元通りになっている。何なんだ。
そんな何回も会ううちに、少しばかり距離感が縮まるのもまた必然だった。
「私の方が聞きたいんですが。あなた何者なんです?」
「ジャッカル桑原だ」
「いえ、名前ではなく。それにしてもその名前、混血ですよね」
「混血?ハーフってことか?ブラジルとのハーフなんだぜ」
「どう見てもただの人ですよね。こんなにリストに載っていないのに私たちを引き寄せる人なんて、いるとは思いませんでしたよ」
「私、たち?」
微妙に会話がかみ合っていないような気もするが。彼女の発した言葉に引っかかった。たち、ということは他にもいるのだろうか。
「ええ。もちろんこんな役割ですから、一人でなんて無理に決まってます」
「役割ってあの人を助けることか?」
「逆ですよ。逆。助けるなんてしません。寧ろ連れて行くんです」
「は?!え、死神なのか?」
「まあお好きにどうぞ」
「けど、俺はお前に助けられているぞ?」
「あなたがそこにない死のタイミングで死のうとしているからですよ」
「そこにある死ってのが分かるのか?」
「今日はぐいぐい来ますね。まあ。分かると言えば分かります。リストがあるので」
そう言えば、いつもバインダーをもって眺めていたなと思い出す。それがリストというやつなのだろうか。そこに、死んだ人のリストでもあるのだろうか。
やっぱり死神というやつなのか。
「けど、羽生えてるよな。今はねえけど」
「私としては常にあるつもりですが、死に際の人だけに見えるんでしょうね」
連れて行くとき天使ってホントに羽が生えているんだなんだ言う人もいますしなんて、背中を微かに見ながら言う。あの白い大きな羽。綺麗だと思ったが、それは死に際の人だけが見るのか。白い羽といえばやはり天使な気もするが。
「天使と死神なんて紙一重なんですよ」
俺が思っていたことを察したのか、呆れたように笑いながら言う。
「そう言えば、名前ってあるのか?」
「何です突然」
「俺の名前を教えただろ」
「私は元から知ってますので」
「いいじゃねえか。せっかくのよしみだ。名前がないと呼ぶとき不便なんだよな」
「はあ。ナマエですよ」
「意外と普通だな」
「まあこの名は、この世にいるときのですが」
「なんだそれ」
案外すんなりと名前を教えて貰えたが、どうやらそれは仮の名前らしい。普段ナマエたちは、普通に人としてこの世に紛れている。リストの人の死を察知してそこに赴き、そのリストの人物をあの世に連れているのだろう。その役割のときだけ、人から見えなくなるとか。不思議なものだ。
人としているときのナマエを見かけては声をかけたりして、少しばかり親しくなった。そして、俺がまたリストにない場所で死にかけていると呆れながら助けにくる。
「ジャッカルさん。あなた不幸体質ですか?それとも死にかけるのが好きなんですか」
「んな訳ねえだろ!普通に生きてるだけだ!」
「はあ。思わぬトラブルに巻き込まれる。変なとばっちりをくらう。誰かを庇って死にかける。人がいいんだか何なんだか」
そう言いながら笑うナマエに、初めて会った頃より表情が豊かになったななんて思ってしまう。