桜花爛漫
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ナマエと別れ、卒業を迎えた真田。
今はもうない枝垂桜のもとに再び彼はやってきていた。
あの時の出会いは夢か現か。真田が当時を思い浮かべながらその場所に立つと、ふと、枝垂桜があった側に、ナマエがよく立っていた場所に真新しい苗木を見つけた。
何だと思い調べるように真田が見ていると、声がかかった。
「おや、若い人が珍しいですね。実は去年までそこに樹齢400年以上の枝垂桜があったんですよ。寿命が来て切り落とされてしまったのですが、こうやって新しいのを植えてみたんです」
そこにいたのは若い僧だった。どこか目元があの住職と似ていると真田は思った。僧はしゃがみ足元にある苗木を大事そうにそっと撫でている。
「数年前に祖父が亡くなって以来、この寺には住職がいなかったんです。やっと私が修行を終えましてね。この桜と共に、私も新しくやっていこうと思いまして」
さあ寺も再興ですねと呟く若い住職。いい寺にしたいものですと笑顔を向け語られた内容に、真田は戸惑った。
「住職は、いなかったのですか?」
「ええ。ここは6年くらい無人寺でしたよ」
ですが不思議なことに埃とかあまり被っていなくて、まるで何かに守られていたかのようですと語る住職。真田はキツネにつままれたような気分になり、思わず目を点にした。
そんな彼の耳に、どこかで風に揺れる桜の音が届いた。この音は、ナマエが笑っているときによく耳にしていた。
「……きっと、いい寺になるでしょう」
「そう言っていただけると嬉しいです」
若い住職と共に、まだ小さい桜の苗木を見つめる。そんな二人の頭を撫でるように、一陣の風が吹いた。
それからも、テニスを続ける彼の傍らには常に桜で染めた淡い桃色の手拭いがあった。
彼は生涯、それを手放すことはなかったという。