桜花爛漫
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「ナマエ」
枝垂桜が咲き誇る傍らで、隣に向かって呟く。驚いたようにこちらを見つめる視線を感じる。俺はその視線に合わせるように横を向く。
「どうだろうか」
「……ナマエ。ナマエ。はい。とても、とても素敵です」
「よかった」
そう言い微笑む彼女。その様子から気に入って貰えたようだ。伝えるまでは不安だったが安堵した。長い間考えたかいがあったものだ。
「素敵な名前を、ありがとうございます」
「そこまで言われるとこそばゆいな」
「弦一郎殿」
「なんだナマエ」
「ふふ。呼んでみただけです。ああ。名前がある、名前を呼び合うって素晴らしいことだったんですね」
そう優雅に微笑む。嬉しそうにしている彼女に自分の頬も自然と緩んだ。再び名前を呼び合う。自分が提案した名前を何度も小さく呟いているその姿に己の胸に温もりが広がった。
彼女が笑う度に枝垂桜の枝も嬉しそうに風に揺れ、葉の擦れる音と笑い声が心地よく耳に響く。揺れた枝から桜の花びらが舞った。
「また来る」
「無理はなさらないでくださいね」
「気にするな。無理はしていない。通り道だからな」
「ふふ。では、また」
お待ち申し上げておりますと彼女は桜の傍らに立ち、纏っている着物を整えた後に頭を下げてきた。そんなかしこまらなくていいとは言っているが彼女の性分だ。
俺と入れ替わるように見知らぬ子連れの家族が来た。立派な枝垂桜だ、綺麗だ、誰もいないから静かにお花見ができる、といった声が聞こえる。
微かに後ろを振り向くと、桜の根元に腰かける彼女はやって来た家族をあたたかく見守っていた。彼女と家族がシートを広げた距離はほとんどない。普通ならば、そこに先客がいればシートを広げないような距離だ。
それもそのはず。彼女は、俺にしか見えないのだから。