合縁鬼縁
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チャイムを押し、どうぞーと言う声と共に家に入る。玄関の鍵をかけていないあたり、こいつの防犯意識大丈夫かと心配になる。仮にも女の一人暮らしだろ。
「赤也が来るってわかってたから。普段はそれなりに閉めてるから安心して」
「お前なあ」
俺の心配もよそに、あっけらかんと言う。彼氏である俺を信頼してくれているのか、はたまたどこまでも大雑把なのか。色んな意味であまり気にしない性格であるからこそ、ナマエはあのバケモノ集団の立海テニス部とも仲良くやっていたのだろうと納得する。
今はお互いに大学4年生。就職も決まり、俺は新生活に向けて物件を探す傍らで、卒業論文を仕上げなければならなかった。ナマエはどうやらこのままここに住みつつ、大学院に通うようであり、俺と違い今は卒論やアルバイトをメインにやっている。俺と違い卒論はほぼ仕上がっているようだ。
ナマエが今はゆとりがあるからと、物件探し、卒論に追われ忙しなく過ごしている俺を泊めてくれている。卒論へのアドバイスもくれるおかげもあり、なんとか物件探しと両立をできそうな気がする。
「つーか、ハロウィンの時期だからって気合入りすぎだろ」
「何が?」
「いやあのドアの手形だよ。本格的だけど、あんなベットリつけたら大家さんに怒られんじゃねえの?」
「あー。いいのいいのそれ込みの家賃だから」
休憩がてらナマエに気になったことを尋ねる。家の扉に真っ赤なペンキでつけたような手形があったのだ。前に家賃を聞いたら、この立地ではありえないほど安い破格の値段だった。どこにそんな値段のがあるんだと言いたくなるくらいのものだった。それに、修繕費も込みなのか。ますます謎だ。大家さんがめちゃくちゃ気前のいい人なのかな。
「俺もいい物件はやくみつかんねえかなあ」
「実家からはもう通うの難しそうだもんね」
「それに社会人になったら自立しろって」
「大事大事」
もう一緒に住もうぜと言っても、ナマエは今のこの家の値段に助けられているからと言ってくる。ナマエの家で一緒に住むことも考えたが、広さ的に厳しそうだ。
まあ俺が先に社会人になるから家賃とか俺が出してもいいと思っているんだけどななんて思っていると、突然隣の部屋から強く壁を叩く音が聞こえた。
「まあた喧嘩してんのか隣の家の人」
「そうだね」
ナマエの隣人は何人かで住んでいるのか、よく激しい音が聞こえる。同じ部屋の広さならそんなに広くないはずなのによくやるぜ。
その激しさに呆れるようにため息を溢す。はじめは何事かと驚いたが、今はもう慣れたものだ。
「いつも思うけど、アレ、そういうプレイしているとか?」
「あんたは思春期の中学生か」
含みがあるようにちょっと仕草も交えて伝えたら、ナマエに呆れられたように笑われた。
それからも二人で卒論を進めていくが、激しい音は続いている。ナマエはちょっと今日は長いかな、なんて少し怒りを含んだ声音で壁の方に向かった。何する気だ?
「ちょっと静かにしなさい!こっちは卒業かかってんのよ!!」
「えええ。ナマエ?!」
ナマエは思いっきり壁を叩き、叫んだ。そんなこと言ってご近所トラブルとか大丈夫か?!ほら、隣人に刺されたとかあるじゃん。大雑把すぎる性格もここまでくると大胆すぎる。
俺が顔を青くしていると、ナマエはよっこいせとまた座り卒論を進め始めた。
音はやんだ。
「あのーナマエ。大丈夫なのか?」
「ん?ああ。平気平気。どうせ入れやしないんだから」
「?」
俺の心配に対し相変わらず、何が?といった表情をしてどこ吹く風の様子のナマエ。
「それより赤也。時間平気?そろそろ物件のとこに行くんじゃない?」
ナマエに言われ、俺は時計を見る。まずい。約束の時間と照らし合わせ、俺は急いで準備をする。卒論を一時保存して、俺は荷物を持ちナマエに行ってくると伝えると、ナマエもいってらっしゃいと手を振った。
外に出て、今から走って向かえば間に合いそうだと靴をトントンしながら考える。今日こそいい物件を見つけてやる!そう意気込んだ。
ナマエはきっとカギを閉めないだろうから、俺がしっかり閉めてやらなきゃと、ポケットにある鍵を取り出そうと視線を下にやった。
ふと足元にあるものが目に付く。それと同時に、一瞬にして鳥肌が立った。
足元には足跡。まるで、雨の中を歩いてきたかのような。ナマエの家の前まで来て引き返している。しかもなんで裸足……。
そして、その足跡がやってきて戻っていった先を視線でたどる。それは始まりも終わりも隣の部屋だった。
今まで気にしたことのなかった隣の部屋の扉とポストが、目にとまる。
ポストはテープで入り口を塞がれ、扉の近くには鍵が入っているダイヤル式のケースが置かれていた。
それが意味することは、一つ。今まで数多くの物件の内覧に行ったからこそわかる。
そこは、空き家だ。
俺は急いで閉めたばかりの扉を開け、中で優雅にお茶を飲みながらパソコンに向かっているナマエの手を掴む。ちょっとどうしたのよ、と相変わらずあっけらかんとしているナマエ。
「今から一緒に物件探すぞ!」
一緒に住むからな!!戸惑っているナマエの手を掴んだまま、俺たちは家を飛び出した。