合縁鬼縁
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黄昏時の浜辺。太陽が水平線に溶けるように消えていく。その瞬間、海から吹いていた風がやんだ。
それと同時に、俺の背後で人の気配がした。
「また来たの?」
「悪いか?」
咎めるような言葉の中に嬉しさも混じった声音に、悪びれもせず俺は振り向く。ナマエ。あの頃と変わらないその姿を見つめる。別にいいけどさ、と呆れたように呟くナマエは俺の隣にきた。少し歩こうかと、並んで浜辺を歩く。太陽は沈んだがまだ空は明るい。
「どうよそっちは?」
「変わらないな。そう言えばこの前、弦一郎がな……」
普段と変わらない近況を伝える何気ない会話。ナマエは相変わらずな皆だねと、その内容に笑っていた。その笑顔につられ俺も笑みが抑えられなかった。懐かしいこの感じが永遠に続けばいいのにと願ってしまう。
「ナマエは、どうだ?」
「んー?こっちも変わらないかな。けど、そろそろお終いにしなさいって」
「……俺に会うことか?」
「そ。まあ、住んでる世界が違うから仕方ないよね。こっちにはこっちのルールがやっぱりあるみたいだし」
「そうか」
立ち止まり、ナマエに向き合う。鼻歌を歌いながら歩いていた彼女も立ち止まり、どうしたのかと俺の顔を覗き込んでくる。その変わらない彼女の癖に微かに口元が緩む。
「また、会えるだろうか」
俺の疑問にナマエは一瞬驚いた顔をする。まさか待つつもり?なんて当然のことを言う彼女に、何を馬鹿なことを言っているんだと呆れるように笑う。
「待っていてくれるか?」
「そうねー。人生を謳歌するって約束してくれたら。やりきったー!って蓮二が思えるような人生を送ったあとだったら、いいかな!」
「ふむ」
「いっぱいいーっぱい笑って泣いて、色んなことをチャレンジして、たくさんの人に囲まれて、」
そして長生きすること。そう笑顔で言うナマエに残酷なことを、と呟く。今度はナマエが呆れたような顔をした。風が海に向かい、微かに吹いてきた。ナマエの髪がふわりと風に揺れる。
「あー。そろそろ時間だね」
「ナマエ。俺は、今でも」
「ふふ。分かっているよ。けどそれは、ダメ。会いたくなっちゃうし寂しくなるもの」
「そうか」
空が群青に染まってきている。橙の光が塗り替えられるたび、微笑むナマエの輪郭が周囲に溶けていくように揺れた。
「ばいばい蓮二」
「またな、ナマエ」
俺の言葉に息をのんだような雰囲気の後、その場には微かにナマエの笑い声が響いた。
「俺は、お前と幸せになりたかったよ。……だが、そうだな。会ったときのために、土産話をたくさん集めとくとするかな」
振り向き、さきほどまで歩んできた砂浜を見つめる。そこに残るのは一人分の足跡。寂寞か郷愁か、胸にじんわりとこみあげる想いに小さく一つ息を落とした。
愛している。今までも、これからも。だから待っていてくれ。俺の呟いた言葉は、海へと吹く風に溶けて消えていった。