四季めぐり
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居合道部に活気が出てきた。今まで道場で横一列に並んで練習ができていたが、今年からは二列になって練習している。
部活全体の様子を眺めながら、少しずつ前進していることを実感し嬉しくなる。
長雨が終わりを告げ、蒸し暑くなってきた季節。もうすぐ学生東日本大会だ。その団体戦に今年は参加する。それに上位に入れば全国大会への切符を手にする。団体戦は、先鋒・次鋒・中堅・副将・大将の全部で5人。補欠選手を含めたら6人だ。
顧問と相談し、大将か中堅に私、先鋒あたりに初段を獲得している先輩たち。後をどうするかとなった。立海の居合道部はできたばかりだ。新たに入部してきた人で、剣道経験者はいても居合道経験者はいない。
作戦を考えていたら後輩の一人が、型を見て欲しいとお願いしてきた。一緒にやろうと向かい合って行う。剣道の経験がある彼は熱心に練習に参加しており、期待できる存在だった。
部活の終盤、皆で十二本通しで行おうと声をかける。各々に練習していた皆が刀礼を行い道場の隅にはける。顧問と向かい合うように真ん中に行き、道場の両端にそれぞれ部員が並ぶ。
顧問が神前に礼を行い、皆がそれに続く。
十二本の型を終え、礼を行いお疲れ様と皆に声をかける。それぞれ挨拶を交わし解散となった。
道場を出て帰り路につこうとしたら、ふと真田君を見つけた。ユニフォーム姿だ。声をかけてもよさそうな雰囲気だったため、挨拶だけでもと声をかける。
「真田君、お疲れ様」
「む。大和か。今から帰りか?」
「うん。真田君はまだ部活?」
「もう帰るところだ」
「それなら、駅まで一緒に帰らない?」
「待たせることになる」
「全然平気。校門の付近で待ってるね」
「すまない。すぐ行く」
そう言い真田君は早足で戻っていった。テニス部のユニフォーム姿の彼は何だか新鮮だった。
すっかり花は散り、青々とした葉をゆらしている桜の木を眺める。柳君からテニス部は県大会を制し、次に開催される関東大会の準備をすすめていると聞いた。連覇を掲げ、頑張っているのだろう。居合道と違い、全国的にも人数の多いテニス部は全国大会まで勝ち進むのも大変なのだろうと想像する。
「あ!アンタ確か居合道の人!」
「?」
そう元気な声がした方を見ると、こちらを指さし珍しいものでもみたかのような顔をしている。
彼は、確か以前真田君に拳骨をくらっていた気がする。確か名前は。
「こら切原!撫子先輩になんて口きいてやがる!それに指さすな!」
そうだ切原赤也君。そんな切原君を叩くのは、居合道の後輩の彼だ。この二人はどうやら友達らしい。
「こんにちは、切原赤也君」
「こんにちは!って、名前知ってるんですか?」
「柳君から聞いたことがあるよ」
「そうなんですね。いやー!めちゃめちゃかっこよかったですよ先輩!俺あの時全力で拍手しましたよ!」
こんな感じでなんて言いながら、また大きく拍手をしてくる切原君。どこまでも明るい後輩だった。なんだか可愛くて、素直に賞賛してくれるその姿が照れくさくて思わず笑ってしまった。
そんな私を切原君は驚いたように見ている。
「あの時はめっちゃ厳つそうだったのに」
「怖かった?」
「いや、そのギャップ最高です!」
目を輝かせながら詰め寄るように言う切原君。圧がすごい。戸惑いながらもお礼を述べようとしたら、真田君の切原君を呼ぶ大きな声がした。び、びっくりした。
「赤也!大和に何を迷惑かけている!」
「げ、副部長!何もしてませんって!」
「げ!とはなんだ!」
全くたるんどるなんて言いながら、切原君を引っ張る。居合の後輩も、すごい圧なんて呟いている。
「この前の演武を褒めてくれたんだ。ありがとね切原君」
「ほんとにすごかったです!」
「当たり前だろう」
「なんで真田副部長が誇らし気なんですか」
突っ込みを入れる切原君を一瞥する真田君。それにひいいなんて焦っているあたり、切原君の人となりが何となく分かってきた。
私は真田君に帰ろうかと声をかける。真田君も頷き、待っていたことに対してお礼を告げられた。後輩に挨拶をし、二人で並んで歩く。
真田副部長が女の子と並んで帰ってるなんて後ろで騒いでいる切原君の声に、あのたわけがと呟いていた。立海のテニス部はやはり賑やかだ。
二人並んで歩く。この前の春の日以来だ。
「県大会、優勝したんだってね」
「当然だ」
「ふふ、おめでとう」
当然と述べるあたり流石だなって思う。こちらが賞賛を送ると、素直にお礼が返される。
「今年は団体戦に出られそうなのか?」
「うん。まだ誰が出るかまでは決められてないけど」
「大和は中堅か大将あたりか?」
「お。当たり」
「いつも通りいけば問題ないだろう」
「ありがとう」
お互いに頑張ろうね、と声をかけ別れる。一人で帰る時よりも短く感じる帰り道。またどこかで一緒に帰れたら、なんて思いながら電車を待った。
東日本大会。私は中堅で挑み、先鋒と次鋒に段位持ちの先輩をあて、三連勝で団体勝利を掴んだ。立海大附属高校居合道部。まだ無名であったため、相手が油断しているところを最速で勝ちに行く作戦は功を奏したようだ。
優勝はできなかったが、もともとの参加校が少ないのもあり、全国大会までなんとか駒を進めることはできた。
全国大会、恐らく今回のように油断をつくことはできないだろう。しかし、全国大会に進んだことは、部員全体のやる気をみなぎらせるには十分だった。
テニス部は関東大会を連覇し、全国大会へ駒を進めたと聞いた。
本格的な夏を迎える中、どの部活もその暑さに負けじと劣らず熱く燃えていた。