四季めぐり
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
残暑は厳しいが、夜になると鈴のような音色が響くようになってきた。
新年度が始まり、久しぶりに会うクラスメイトと夏休みの思い出を語り合っていた。部活にもかなり力を入れている学校なだけあり、夏の風物詩でもある全国大会、インターハイの話は自然と多く耳にする。
居合道の全国大会は、つい先日終わったばかりだ。
「今年、全国優勝を飾ったのはテニス部だけか。バスケ部も惜しかったんだけどね」
「でも準優勝だもんね」
「優勝でなきゃ意味がなーい!」
そう悔し気に来年こそはと燃える友人に応援を送る。一緒に話していたもう一人の友人が、そういえば、と思い返したように呟く。
「全国優勝、なんか他のどこかもしたって聞いたけど。どこだったかな……えーっと。確か」
「え?本当?」
友人が何か武道の部活だったような、合気道?いや確かなんて語る姿に笑みがこぼれる。私が口を開こうとした途端、思い出した!といったように顔を上げる。
「あ!そうだ!居合道部!個人で優勝みたいだけど」
「そうなの?!いつの間にって感じ」
「あれ。そういえば、撫子って居合道部じゃなかった?」
「うん」
「優勝おめでとう!先輩が優勝したの?」
「ありがとう。実は、」
「大和」
戸惑いながらも私だと伝えようとした時に、真田君の声がした。朝練の後だろうか、微かに汗をかいている。友人たちも突然の真田君の登場に驚いている。
「全国優勝したらしいな。流石だ」
「ありがとう。真田君も、テニス部おめでとう」
真田君の口からもお礼の言葉が告げられると同時に、予鈴が鳴った。
「表彰、楽しみにしている」
そう言って、真田君は教室に戻っていった。朝練後の忙しい時間の合間を縫って、わざわざ言いに来てくれたようで、その心遣いに胸が温かくなる。
やりとりを見ていた友人たちが、私がその優勝した居合道部の人と知り、仰天していた。それから祝福を述べられ、居合道についていろいろと聞かれた。居合道に少しでも興味を持ってもらえたことが嬉しかった。
始業式の最後に表彰が行われる。担任の先生から、表彰を受ける生徒は別の列に並ぶように言われており、そちらに向かう。
全国優勝、準優勝など賞を飾る部活は多い。団体戦では賞状と盾を受け取るため、部長と副部長の二人で並んでいる部活が殆どだった。一人でどこに並べばいいのかあたりを見回す。
「大和さん。こっちだよ」
「幸村君。真田君も」
幸村君と真田君が並んでいるところに手招きされる。見慣れた顔がいて安心する。お礼を述べながらそちらに向かった。
どうやら、全国優勝は最後に表彰されるらしく、優勝した男子テニス部と居合道部の私たちはここで待っているようにとのことらしかった。
「ふふ。おめでとう」
「ありがとう幸村君。テニス部もおめでとう」
そう言い、前後に並んで式の開始を待つ。道着姿でない真田君の後ろ姿を眺める。相変わらず姿勢もいい。座っていても威厳がある。式の開始を同じく待つこの時間に、同じ学校に通っているんだと実感して、不思議な感じがする。
幸村君がこちらをちらりと見て、微笑んでくる。私は突然のことで驚いたが、笑みを返しておいた。それから、真田君に何か耳打ちして微笑んでいた。一方の真田君は、肩を跳ねらせ幸村君の名前をまごつきながら呼んでいる。何を言われたんだろう。
始業式も終盤となり、いよいよ表彰式となった。
それぞれが、当然というような顔で表彰される生徒を見つめている。テニス部の二人が優勝杯と賞状を受け取り、戻ってくる。その姿は誇らしげで、見ているこちらも心に喜びが波打った。拍手を送りながら、つい口元が綻ぶ。真田君と目が合い、堂々と行ってこいと背中を押す眼差しが向けられる。
続いて、その部活発足初の優勝を飾ったなどと謳われ、居合道部の個人戦優勝が読み上げられる。居合道?といった疑問符を浮かべている生徒も多くいる。
真田君の応援を胸に、私はいつも通り、いや、いつもより姿勢を意識して返事をし前に向かった。
校長から、賞状の文章を読み上げられた後、おめでとうございますと言われ賞状が差し出される。それを受け取り、頭を下げる。呼吸を整え、頭をあげ、校長の顔を見ると嬉しそうに納得したような表情で頷いていた。
一礼をし、元のところに戻ろうと体を向けた途端、大きな拍手が鳴り響いた。それから、波のように拍手が広がった。立海生が祝福してくれている。
立海の居合道部を背負うものとして、これが一歩になるようにそう祈りながら、全体に軽く一礼をして、真田君と幸村君のいるところに戻った。
真田君は誇らしげに笑っていた。いつも勇気をくれる彼に、ありがとうの思いを込めて微笑んだ。