四季めぐり
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蝉しぐれを浴びながら、蒸し暑い校舎の中を歩く。
立海大附属高校に入学し、もうすぐ1学期が終わろうとしていた。今日は部長会が開かれる。
一年生と言う場違い感を覚えつつ、隅の方の席に座る。まだ部長たちは数人しか来ていなかった。気配を消し、様子を眺める。
「隣、いいかな?」
「どうぞ」
ぼんやりと開始を待っていると、優しい笑みをたたえた男の子が隣に座った。腕時計を眺めると、開始まで余裕のある時刻を示していた。今日の部活はどうしようか、夏休みはどうしようかなど考える。
立海大附属高校居合道部。新入生向けの部活紹介で、他の部活と異なりアナウンスだけだった時くらいから何となく予感はしていた。初の部活の日、訪れたら顧問に泣いて喜ばれた。道場にいたのは顧問や先輩も含めて5名。団体戦の人数に足りていないところか、部活存続自体が無理なのではないかと思った。顧問曰く、書類上は10人以上いるらしい。なるほど、幽霊部員が半数以上ということかと少し悲しくなった。
地味、よく分からない、合気道部と勘違いした、などという理由で人が来ないらしい。それに、立海大附属の他の運動部は全国区が揃っている。その部活をやりたくて来ている人も多くいるだろうし、特に何かを決めていない人は華がある部活をやりたいと思うのは至極真っ当だ。居合道部は立ち上げて今年で一応3年目らしい。部員の中で一番上の段位が初段だという。全国区の先輩はいない上に、人数上団体戦の参加経験もないとか。ここまでとは思わず絶句した。
だが、ここで居合道部に入り文武両道を極める。そう決めて入学した。なんとしても居合道部を盛り上げたかった。
そして、顧問から部長に命じられた。先輩に部長を、と断ったが、段位が一番上であること、演武が一番いい人がなるべきと部員たちも断固許さず、なし崩しで部長となった。
もうすぐ高校生大会がある。何とか団体戦も望みたいものだが、人数が足りない。困ったものだ。
そう悩んでいると隣から微かに笑い声が聞こえた。何かと思いそちらを見ると、隣に座っていた男の子が微笑んでこちらを見ていた。
「姿勢いいね。何部?」
「?居合道部です」
「ああ。てことは、大和さんだね?」
「ご存知なのですか?」
「うん。一年で部長同士だから、仲良くしたいなって思ってたんだ」
「え、同い年?」
「幸村精市だよ。よろしくね」
「大和撫子です。よろしく、お願いします。幸村さんは何部?」
「テニス部だよ。そうか、大和さんは高校からだもんね」
テニス部。それに驚く。テニス部ということは、彼の知り合いだろうか。同い年だし、中学から持ち上がりの様子だし、間違いなく知り合いだろう。立海大附属のテニス部は強豪だと聞いている。中学は昨年度まで全国優勝や準優勝を飾っている。高校も関東大会を連覇しており、日本で最高峰のテニス部といっても過言ではない。その部長。
「幸村君もテニス強いの?」
「強くなければ部長はできないよ」
「そうですよね」
微笑みの中に、底の知れなさを感じる。真田君が言ってた、自分より強いという中にきっと彼もはいっているのだろう。
真田君。入学式の日、クラスごとの終礼が終わり帰宅しようとしたと同時に、クラスにやって来た。私は、いるとは思わなかったため、声がしても空耳だと、顔を見ても普段の居合道着でもないため、そっくりな誰かだと思った。けれど、私の名前を呼ぶその様子は間違いなく彼だった。驚きと戸惑いにはじめは言葉が出なかった。思わず出たのは「昨日ぶり」なんて言葉だった。
まさか彼が立海大附属に通っていたなんて思いもしなかった。彼が居合道部にいてくれれば、そう時折思ってしまうが、昇段審査の日に居合道部に入る気はないといった様子だった。それに、彼にとって一番はテニスだ。それを尊重したかった。
そう考えていると、定刻になり部長会が始まった。それぞれの部活が夏の全国大会の予定などを伝えている。
居合道部を、団体戦で全国へ、その夢はまだ遠い。
とにもかくにも、着実に実力をつけて進むだけだと思い。今年度は個人戦をそれぞれ参加することにした。
部活自体の活動日は少ないが、部活のない日も道場は空いているため合気道部と重なることはあっても自主練習は可能だった。家が普通の家であるため、天井や周囲の物を気にせず道場で練習できるのは、私にとっては有難かった。自分と向き合える居合はやっぱり楽しい。
立海大附属高校の居合道部は始まったばかりだ。先行き不透明でくじけそうになる自分を、向き合って斬り捨てる。
高校生全国大会。その後は、県大会。一歩一歩進んでいこう。
(注)居合道の高校生全国大会はないですが、この話では居合道も全国大会があるくらいそれなりの人数がやっているとしています。