四季めぐり
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春が来た。私は無事に立海大附属高校に合格し、明日から立海生となる。期待と不安があるが、今はそれよりも別のことで心は張りつめていた。
三段昇段審査。今回も、入学式の前日に昇段審査だ。変な時期に始めてしまったのかもしれないな、なんて思いながら師範と共に会場に向かう。
桜が昇段審査に来た人を歓迎するように吹雪いていた。
花びらで桃色に色ずく会場で、私は同じく審査待ちをしている人の中にいた彼に驚いた。
1年半ぶりだ。背も、また伸びている。彼も私を驚いたように見ている。よかった。辞めてなかったんだ。それに、自分を覚えていてくれたらしく、更に嬉しかった。
「真田君」
「大和。久し、ぶりだな」
どこか落ち着かなさそうな彼の様子にどうしたのかと思う。
「大丈夫?久しぶりの会場だから緊張してる?」
「問題ない」
そう言う彼は、いつもの様子に戻っていた。お互いに昇段審査前でもあり、長話しはせず挨拶程度の会話だけをし解散した。別れ際、前回大会で優勝したことを祝福された。
三段の昇段審査は二段の時と同じくらいの人数だった。今回も、もちろん隣は真田君だ。受験の間も欠かさず練習には参加していた。大丈夫と自分に言い聞かせ、緊張している自分がいることも肯定しつつ審査に向かう。
指定された演武を終え、恒例の後ろで円になり挨拶の礼をする。それが終わり、立ち上がりいつも通り真田君と目が合う。本当に大人っぽくなった。元から大人っぽくはあったが、雰囲気も見た目も、もう大人と言っても遜色ないくらいだった。
「かっこいいね真田君」
素直に思ったことを口にしただけなのに、真田君は「ぬおっ」など変な声をあげた。その顔は驚いている。目が逸らされたと思ったら、顔も背けられた。
「お前も」
小さくそう呟かれた言葉に疑問を浮かべる。かっこいいということだろうか、そんなこと言われたこともないし、ちょっと驚いた。とりあえず褒めていると信じて、お礼を言っておいた。
「真田君が辞めてなくて安心した」
「辞める訳がなかろう」
「そうだよね。この前の大会、不参加だったからもしかして、なんて思っちゃったんだ。よかった」
「去年は部活を優先していた」
「部活って、居合道部?」
「いや。テニス部だ。居合道部はそもそも俺の中学にはなかった」
テニス部と言われ驚いた。居合道部を否定された時、剣道部あたりだろうかなんて思ったが、意外だった。テニスと居合、どこか共通点があるのだろうか。
「ちょっと意外」
「俺は、テニスをずっとしてきていた。居合はテニスのため、己の精神力を鍛えるためにはじめたのだ」
「そうだったんだ。テニスも強いの?」
「そうだな。だが、俺より強い奴が多くいるのも事実だ」
そうか、彼にとってはテニスが一番なのか。少しだけ寂しい気もしたが、それからもテニスについて語る彼の姿はひたむきで、本当に好きなのが伝わってきて聞いているこちらも楽しかった。
「高校もテニス部?」
「ああ。俺の場合は、中学の持ち上がりだからな。そのままで行くつもりだ。友とも誓ったからな。大和は、決めているのか?」
「そうなんだね。私は、居合道部を考えているよ」
「中学も居合道部か?」
「ううん。中学は、伝統文化部。居合は道場だけでやってたよ」
そうかと真田君はこぼす。真田君の高校には居合道は引き続きないのか聞いたら、あることにはあると曖昧な返事をされた。
そんな会話をしているうちに、そろそろ審査結果発表だと声がかかった。真田君と、発表の場に赴く。発表者が合格者番号一覧を巻いた状態で持ってきた。その紙が、ゆっくりと壁に広げられていく。
番号はあった。真田君のも。
無事に三段に昇段し、安堵の息をつく。
受付では、今回は真田君が前にいる。受付の時に渡す紙に書かれた字は、とても達筆だった。字も綺麗なんだな。彼は何か不得手なものはあるのだろうか。
受付を無事に終え、真田君と並んで戻る。お互いの師範がお疲れ様と手を振っている。
私はちらりと隣にいる真田君を見る。
次の昇段審査は3年後。もし次の大会、彼がまた不参加で、それが続けば、会うのは下手したら3年後。今のうちに目に焼き付けておこうなんて思い、真田君を見つめる。
「……何か、あるのか?」
「ううん。またね、真田君」
「ああ。またな」
笑顔でまたね、と声をかけ真田君と挨拶を交わす。次の大会で会えたらいいな、なんて思いながら、昇段の喜びも抱え私は帰宅した。
この時は、次の日に再会するなんて露ほどにも思わなかった。