無声の声
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
喉が張り付く感じだ。
喉に何かがつかえているような感じで、唾を飲み込む時に痛みが走る。
一昨日の帰りから何となく違和感はあった。一緒にいた撫子に、咳払いや喉を触る様子が多い自分に対し、大丈夫かと尋ねられていたことも思い出す。そして、案の定声を出そうとしても、小さくかすれている。蚊の鳴く声というものはこんなものだろうか、なんて暢気に考える。
困った。熱を測るも、特に熱はない。
一応ということで、学校を休んで病院に行き、のど風邪と診断を受けた。他人にうつす心配はないだろうとのことだが、薬を貰った。
健康オタクの白石にとって、自身の体調不良はいささか戸惑うものだった。
空を見上げれば、曇り空が広がっていた。その鉛色が、学校に向かう足どりを更にどこか重くさせた。
思わずため息を溢しそうになった時、背後から雲を取り払うような声が耳に届いた。
「蔵! おはよう!」
声をかけられ、足を止める。白石はそのまま振り返った。先ほどまで胸につかえていたものが、どこか軽くなった気がした。
「心配したよ。一昨日から調子悪そうだったもんね」
白石が撫子に笑いかける。その行いに撫子は、違和感を覚えた。
「どうしたの?」
隣にやって来た撫子は、疑問を浮かべながら白石を見つめた。撫子の歩調に合わせながら、白石は、困ったように手を自身の喉にあてバツ印を作る。そして、口の前で手の平を開く動作をして、再びバツ印を作った。
撫子はそのジェスチャーで何となくを察した。先ほど感じた違和感。――そう、いつもなら撫子はおはようと言えば、白石はおはようと返してくる。それが、今日はなかった。
「まさか、声がでないの?!」
眉を下げ、こくりと頷く白石。
「わ、分かった。じゃあ私、頑張って蔵の思っていること、考えていることを読み取るね!」
そう撫子が告げると、白石が微かに驚いたような顔をした。そのまま流れるように、感謝を告げるような微笑みをうかべた。その微笑みに、周囲の賑やかな声が一瞬遠のいた気がした。気を紛らわせるように、「よし!」と撫子が声を上げた。
「じゃあ、さっそく。何か問題出して!」
白石は、問題を考えるように顎に手を当てる。しばらく置いて、あっと何かひらめいたように白石はとある動作をした。
その動作を、じっと見つめる撫子。
「んー?……あっ!今日のテストのこと?」
プッと吹き出し、違うというように首をふる白石。もうすぐ四天宝寺に着く。校門が視界にとまり、撫子はもしや、と考える。
「え。じゃあ、校門のギャグのこと?」
違うと首をふる白石。当たらずに焦る撫子を見つめ、白石は目を細めた。
「え?! こういうのって、即答できるもんじゃないの?!」
マネージャーをしていたのに何てことだと叫びながら、難しいと声を上げる撫子。ふと、こちらにゆったりと向かってきていた石田を見つけ、撫子は手を振り声をかける。石田は撫子と、その隣にいる白石に挨拶を交わした。
「銀さん!どうしよう、蔵がどこぞのプリンセスのように……!」
「お、落ち着くんや撫子はん」
突然困り顔で縋られ、石田は戸惑った。話を聞いて、白石がしばらく声を出せないことを把握した。
撫子が頑張って意思疎通を図ろうと努力しているらしい。だが、なかなか上手く考えを読めず、「手話をしっかり勉強しておけばよかった」なんて心底悔しそう呟き落ち込む撫子の肩を叩く。
「撫子はん、白石はん。共に戦い抜いて来た者同士。まさに、以心伝心」
大丈夫と安心させるが、「それができてないんですよ!」と再び嘆く撫子。
何を騒いでいるのかと、金色と一氏もやって来た。二人も、白石が今日は登校していることに安心しているようだ。
撫子が、白石は声が出せないことを伝える。それを聞いて、お大事にと二人は労わった。
「にしても、蔵リンの声が聞けないのは残念やねぇ」
「安心しぃ!俺が白石のアフレコしたるわ」
「けど、蔵が何を思っているのか分かるの、ユウジ君?」
「任せや撫子。モノマネはな、相手の表情、声、癖、すべてを観察して行うもんや」
「さすがユウ君」
金色に褒められ、鼻の下を伸ばす一氏。
さて、とばかりに咳ばらいをして、白石を見つめる。白石はじっと見つめてくる一氏に、微かにむず痒さを覚えた。
「『なんやユウジに見つめられても嬉しないわ。見つめるんなら撫子が見つめて欲しいわ』――ってなんやねんこれ!なんか腹立つわ!」
「おお!さすがユウ君」
「うむ。流石や」
「ちょっとなんか恥ずかしい内容なんですけど!」
一氏のモノマネは完璧だった。ユウジが発した言葉に対し、白石も正解とばかりに顔を綻ばせた。声もまさしく白石。だが発せられた内容に、冗談だと思ってはいても撫子は僅かに顔に熱が集まった。
それからも一氏は、白石の表情から何となく言葉を読み取り、白石の声でアフレコをした。そんな様子に、すごいとばかりに隣にいた金色と盛り上がる撫子。
「小春ちゃん!すごいねユウジ君」
「ユウ君のモノマネはぴか一やからね」
「『撫子!小春はユウジのやから、そないに引っ付いたらあかん!まあ小春はユウジ一筋やからそないなことで靡かへんからな。小春はユウジのお嫁さんなんや。そこんとこテストに出るさかい。しっかりその頭に叩き込むんや』」
「ごおら一氏!蔵リンの声でなんちゅーことかましとるんじゃあ!」
「小春に追いかけられとる。幸せやー!」
白石のとんでもアフレコをかまし、金色が一氏をはたいた。嵐のように騒がしい二人のやり取りに、校門前の生徒たちからもクスクスと笑い声が漏れている。
「撫子ー、相手の表情をよーく見るんやで!」
そんなアドバイスを残しながら、一氏と金色は去っていった。石田もではまた、とばかりに撫子と白石に合掌して去っていった。
「頑張ってみるね、蔵」
急に静かになった周りに、撫子が白石の方を向いて笑う。白石はありがとう、と心で告げながら微かに頷いた。
1/2ページ