四季めぐり
名前変換
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あの日、テニス部の皆から背中を押された。
疑問を浮かべる俺と赤也に、俺と大和は両想いだろうと告げられた。そんな馬鹿な。
大和の想い人。それは、恐らく俺だろうと何とも夢のような話を蓮二がする。
「だが、弦一郎には既に付き合っている人がいると勘違いした後輩は、大和にそのことを伝え、己の想いを伝えたのではないか」
「既に付き合っている人がいると思った彼女なら、迷惑をかけないようになんて考えて距離を取りそうだ。それが避けられていた理由の一つなんじゃないかな」
希望的観測だ。だが、蓮二や幸村が理路整然と述べるため、どこか説得力があった。
次の日、俺は逡巡しながらも入部届を手に取った。そこに名前を書く。幸村や大和に、どのように告げるべきか。自身と向き合いながら、機会を探っていた。
それから、委員会の集まりの際に、柳生から大和が嬉しそうにしていた様子をきいた。何でも、演武会に居合道部が呼ばれたらしい。その演武会で、立海大附属の居合道部の実力を示す。そうすれば、来年度の部の活性化につながる。重要な場だ。彼女を支えたかった。俺はテニス部と、どこか一線が引かれていたのが少し寂しかった。そうしたのは己自身でもあるが。
共に歩んでいきたい。
大和と同じ組の蓮二から、大和はここ最近毎日道場にいると聞いた。この機会を逃せば、きっと永遠にすれ違ったままだ。
そう思った俺は、幸村たちに、今日想いを告げることを伝えた。
「やっとか。俺たちも勘違いを生んでしまったとは言え、今回のは真田がいつまでたっても想いを告げなかったことも要因だと思うよ」
「返す言葉もない」
「それと、この際だ。いつまでも辛気臭く悩んでいるお前に言わせて貰う。彼女を支えたいなら、支えるんだ。テニスと居合道。どちらも好きならどちらも取る。諦めるのはよくないな」
「む。だが、それは……」
「一年の時にも言ったよね。兼部のこと。あれ、後押しのつもりだったんだけどな」
どうやら、俺は友の気遣いを無にしていた様だ。俺が相談するよりも先に、欲しい言葉をくれる友に、俺は感謝した。
「その格好、様になっているね」
そう笑顔で幸村に送り出された俺は、入部届を握りしめ、道場に向かった。不思議と今日は大和以外に練習をしている者はおらず、練習を覗いている者もいなかった。
演武を行っている大和。途中からであったが、久しぶりにその姿を眺めている。静寂を裂くように、刀を振る。大和が発する音以外、ここにはなかった。その姿に、胸が揺すぶられる。
演武を終え、息をついた大和がこちらを向く。視線が交わる。その顔には驚きが広がっていた。
今日こそ伝える。そう自分に言い聞かせ、決意をして前に足を進めた。
出会いは、5年前のあの日。思えば、あの日から俺はずっとお前に恋焦がれていたのかもしれない。春が来る度、想いは強くなっていった。今までの思い出を振り返るように、一歩一歩踏みしめて近づく。
入部届を見て驚く大和。俺はゆっくりと、誤解をといていく。
瞠目をする大和に、俺は呼吸を整え真っ直ぐに見つめる。
「好きだ」
たった三文字のこの言葉を告げるのに、いったいどれくらいの季節が流れたのだろう。
花のような笑顔が咲いた。それをずっと見たかった。
春が一足早く、俺の元にやって来た。