四季めぐり
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俺は、何が起きたのか分からないままだった。話しを聞こうにも、距離をとられてしまい、取り付く島もなかった。
「真田。いい加減にしてくれないか」
「見ているこちらももどかしいな」
「気持ちが打ち込めていない。動きが悪すぎるよ」
「すまない」
あれから、明らかに大和に避けられている。理由が分からず、お手上げだった。幸村や蓮二からも指摘をされるほど、俺はテニスにも打ち込めていなかった。
県大会の後、テニス部の面々からみたことのない表情をしていると、落ち武者のようだと指摘された。理由を聞かれ、大和に避けられているかもしれないこと、今までありがとうなどと言われたことを告げた。それぞれが驚きの表情をしている。
何をしたのかと言われたが、何も覚えがないから困っているのだ。
「真田、急用が入った。部長会、お前が行ってくれないか」
「む。ならば、その急用の方を俺が……」
「真田は部長会。行くよね?」
「わ、分かった」
「あ。席は固定だから。一番端のところだからね」
「承知した」
そう昼休みに唐突に言われ、部長会に赴く。開始時刻までそれほど時間がなかったため、少し早足で向かう。幸村から告げられた席に座ろうとして、固まった。その席の隣には、大和がいた。俺は、黙って隣に座る。久しぶりの大和の姿。驚きの表情を浮かべている。名前を呼ばれ、胸が温かくなる。指定席であることを少しばかりありがたく思った。
視線を送るも、大和は一向にこちらを見ない。言葉をかけたいが、なんと切り出すべきか。部長会が終わり、一目散に去ろうとする大和を呼び止める。貼り付けたような笑顔を浮かべ悲し気なその様子に、冷たい風が心に吹いた。俺が彼女を悲しませているのか、そう思うとどうしたらいいのか分からなくなった。
部長会の解散後、教室に戻ると幸村と蓮二がいた。
「幸村。用事は済んだのか」
「ん?ああ。お陰様で。で、どうだった?」
部長会の内容を伝えると、礼を述べられた後、本題だと言うように、大和と話せたのかといったことを身を乗り出しながら聞かれる。なぜ大和のことがでるのか、と疑問にもちつつ、今日の様子を伝える。
二人がため息を溢した。
「弦一郎が身に覚えがないのであれば、何か大和が勘違いをしている可能性が高い」
「俺もそう思う。二人は話をした方がいいんだ。今日は居合道部も練習の日だ。帰り、彼女をしっかり捕まえるんだよ」
「……すまない」
「練習に集中できない奴がいると、他の士気にかかわる。それは俺としても困るからね」
相変わらず辛辣な友に苦笑する。だが、俺を思って言ってくれていることも分かっている。俺は改めて二人に感謝を述べた。
その日の帰り道、幸村たちに念を押されるように校門で大和を待っていると、赤也が来た。居合道部にいる友と帰ろうと思ったらしいが、恋人と帰ると言われたため、一人で帰ろうとしていたらしい。そこで俺たちを見つけたため、せっかくならと一緒に帰るようだ。大和を待つ。
突然、赤也が声を上げた。騒がしい赤也に静かにせんかと、声をかけようとした。
「よりによって、大和先輩なのかよ!」
大和の名前を出し指をさす方には大和がいた。大和の隣にいるのは居合道部の後輩だ。確か、赤也の友人。赤也の言葉から彼が一緒に帰ろうと思った友人だろう。そして、その友人は恋人と帰ると言った。その隣にいるのは、大和だけだ。しかも、手を繋いでいる。
今まで恋愛などしたことがなかった俺だが、その意味が分からないくらい、俺は鈍感ではない。
名前を呼ぶも、大和は後輩に手を引かれ、俺の前を通り過ぎた。すれ違い様に合った目は、驚愕と悲しみを浮かべていた。
一陣の風が吹く。その冷たい風は、心も凍えさせそうだ。
そうか、大和は恋人がいたのか。
俺の想いは、迷惑だったのだろうか。
「どういうことだよ、ジャッカル!大和に恋人はいないって言ったろ!」
「いや、あれは……あくまで去年の話で」
「俺のデータが、間違っているというのか……?」
「真田。元気出しんしゃい」
「失恋は、人を強くしますから」
「うーん。あれは、どういうことだろう」
「……これで、よいのかもしれん。やはり、俺にはまだ早かったのだ」
そうだ。居合道部に入り、彼女を支えている後輩。赤也から真面目で女子にも人気な人物だと聞いている。そんな人物の方が、俺より彼女にふさわしい。テニスと居合道。どっちつかずな形で揺れている俺などよりもずっと。
「え。え。えええ?!ちょ、ちょっと待ってください先輩たち!!」
そんな俺たちの会話に、赤也が入って来る。相変わらず空気を読まない騒がしさだ。
しかし、赤也から告げられた内容に、俺たちは唖然とした。赤也は、俺が誰かと付き合っていると思っていた。この前の夏休み明け、居合道部のその友人が赤也に、俺の恋人の有無を聞いてきた。その時、いると伝えたらしい。そのことを謝ってきた。
「だ、だって真田副部長は、付き合っている人がいるって言ったあの時、否定しなかったじゃないですか!!」
「あれは下らんことを言うお前に呆れていただけだ!」
「真田の中では、もう付き合っている感覚で、図星をつかれたようで焦ったんだろうね」
「それに!幸村部長たちもですよ!真田副部長はデート中って……!!」
「全く。デートは恋人じゃなくても言うよ」
「えええ!そうなんですか!!」
どうやら勘違いをしていた様だ。
「それにしても、恋人と帰ると、その友人は言ったのか?」
「いや。未来の、とか何とか、ついてた気はします……」
「赤也。ちゃんと形容詞はつけないとね」
「ひいい!すみませんでした!」
「で、彼は大和さんとどういう関係なんだい?」
「あいつ、片思いしてて。その相手にはもう好きな人がいたっぽくて諦めようとしていたんです。けど、夏休み明け、何か考えたのか、その人に告白したらしんですよ。まさかそれが大和先輩だなんて思いもしませんでしたから、今日はびっくりしましたけど」
そう赤也が告げる。成程、あの後輩は大和に告白をしたのか。それで、大和は何と返事をしたんだ。今日のあの感じからして、了承したのだろうか。
「弦一郎。やはり俺のデータに間違いはなかった。むしろ、これで聊か確信した」
「そうだね」
蓮二と幸村がこちらをみて嬉しそうな顔をする。テニス部の皆も、赤也を除いて安心したような顔をしている。どういうことだ。