四季めぐり
名前変換
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高校の入学式。立海大附属高校は中学からの持ち上がりが多くいる。工業高校に進学した者もいるが、高校でその分新たに入学してくるため在校生の規模は大きく変わらなかった。
蓮二に同じ組だと告げられ、その組の一覧を見て自分の名前を確認する。テニス部で同じなのは蓮二だけのようだ。相変わらずの生徒数とそれに見合う組の数だと思いながら、蓮二とともに向かう。
「弦一郎。そう言えばだが、以前言っていた居合道の同胞の名前、大和撫子で間違いないか?」
「そうだが、なぜ大和の名前など?」
唐突に蓮二から大和の名前が出たことに戸惑う。蓮二から、組分けにその名前があったことを告げられ、俺は驚いた。なんだと、と言い改めて組分けの紙を確認する。
そこには、大和撫子の名前があった。同姓同名か。いや、神奈川ならその大和である可能性も高い。戸惑う俺はその人物の組に向かおうとした。しかし違う可能性だってある。居合道部に入ると言っていたのも考えると、ここにいる可能性は低いのではないか、そんなことを考えているうちに、朝礼の開始時刻が迫っていたため一旦は席についた。
始業式が始まっても、心は浮ついたままだ。本当に大和なのか、それらしい人物を探したが、組からして遠いのもあり見つけられなかった。
終礼後、俺は急いで大和撫子のいる組に向かった。その組はまだ終礼をしている。遠くから教室の様子をうかがう。
「真田、そんな不審者みたいな動きして、何しているんだ?」
見ると幸村と丸井がいた。どうやら幸村たちの組も終礼を終え、この組にいるジャッカルに用事があり来たらしい。笑いを堪えながら面白いものを見るように言う幸村に、自分の挙動不審さを気付かされた。確かに自分は何をしているんだと思う。名前があるだけで、こんなにも気になる。もし、いるなら顔が見たい、言葉を交わしたい。こんなことを考える人は今までいなかった。
「お。終わったみたいだぜ。おーいジャッカルー!」
「全く高校になっても、丸井たちは変わらないな」
丸井は教室に堂々と入っていく。幸村がその様子を微笑んでいる。そんなやり取りを横目で見ながらも、それぞれの生徒が帰宅しようとしている中で俺は目を凝らした。そして、見つけた。
大和。いつもの居合道の格好でないが、すぐに分かった。思わず早足で向かった。
「大和」
名前を呼ぶも、聞こえなかったのかこちらを向かない。彼女の前に立ち、再度、名前を呼ぶ。
彼女は驚愕の表情を浮かべ、絶句している。いつもの格好でもないことに加えその様子から、普段の大人っぽさから急に年相応に見えた。
「昨日ぶり」
戸惑いながらも挨拶をする様子に、彼女が同級生になったのだと実感した。心に温かいものが広がる。少しばかり会話をし、別れる。
浮ついた気持ちのまま教室をでると、珍しいものをみるようにこちらを見ている三人の顔があった。幸村はどこか楽しそうに、ジャッカルや丸井は信じられないものを見るかのような驚愕の表情を浮かべている。
「おい、どういうことだよあれ」
「真田があんな風に女の子と喋っている……。アイツ、何者だよい?!」
「フフ。二人とも、彼女は大和撫子さん。真田の想い人だよ」
「た、たわけ!」
「あれ?違うのかい?」
幸村がとんでもない発言をした。その発言に俺と同じように他の二人も驚く。
お、想い人だと?!想い人とは、その、恋仲になりたいと思う人物のことだよな。
大和と俺が恋仲。そんな想像をして浮わつく自分に、幸村に違うのかと聞かれ、否定しようとする自分に、たるんどるっ!!と自身で鉄拳をくらわした。
夏の日差しが強くなってきた季節。もうすぐ夏季休業に入る。夏季休業に入れば、関東大会、そして全国大会ももうすぐだ。
大和は居合道部に入部し、部長をしていると聞いた。組も部活も委員会も違うため、彼女と話す機会は皆無だ。そんな中、幸村が部長会で大和と話したらしい。
「彼女、お前から聞いていたとおり、まっすぐで良い子そうだね。居合道部をどうにかしたいと必死な感じがしていた。居合道部、入らないのかい?」
「俺はテニス部だ」
「そうか」
幸村からの居合道部に入らないのかといった質問に、一瞬驚く。居合道部に入るなど考えもしなかった。
「一応だけど、兼部してもテニス部の練習メニューとかの内容は一切変えないからね」
「当然だ。だが、兼部する気はない」
兼部は許さないといったところだろうが、俺にとってはテニス部一筋で行くと考えていたため全く問題のないことだった。
全国大会、昨年度の雪辱を果たし、立海大附属は優勝を飾った。
夏季休業明けの始業式。テニス部は始業式だろうが関係なく通常通り朝練をしていた。
そんな朝練から戻る道すがら、担任から今日の表彰で優勝杯と賞状を受け取るため、別のところに集合するように告げられた。今年は団体優勝はテニス部だけらしい。個人では優勝がいるらしく、どの部活か聞くとまさかの居合道部だった。
俺は急いで大和の組に向かい、優勝の祝福を伝えた。
始業式。幸村と柔らかい雰囲気で会話をしている大和の様子に思わず頬が緩んだ。後ろに大和がいる。そのことに何だか落ち着かなくなる。ふと、幸村が後ろを微かに確認して笑っていた。それから俺に耳打ちをしてくる。
「大和さん、真田の背中をじっと見てるよ。下手なことしないようにね」
大和に後ろで見られていると知り緊張が走る。姿勢は大丈夫だろうか、制服に何かついていないだろうかそんなことを考える俺に幸村が面白そうに笑っていた。
表彰の時、緊張や不安の表情を浮かべる大和に、自信を持てと伝えるように見つめた。居合道部が呼ばれ、堂々と返事をして前に出ていく。格好は違えど、いつもの凛とした大和だった。賞状を受け取るその姿も、綺麗だ。校長もそんな大和の姿に、満足そうな顔をしている。俺はありったけの賞賛を込めて、力強く拍手を送った。
戻って来る大和の顔には笑みが浮かんでいた。本当に、綺麗だ。
昨年より残暑の厳しい季節。暦上は秋だが、秋らしさはあまり感じない。
そんな中、今年も県大会が開催され、俺は参加することにした。二年ぶりの県大会。大和もいるだろうと思っていたら、まさかの初戦で当たることになってしまい驚いた。
試合。隣から聞こえる刀が風を斬る音。気迫。全てが二年前と異なっていた。俺がテニスに打ち込んでいる間、大和は居合に真剣に向き合っていたのだろう。結果は全て大和の色があがった。悔しさよりも、納得感が強かった。自分も精進せねばと、奮い立たせてくれる存在である大和に感謝した。
普段学校で会話ができないことを取り戻すように、俺は彼女と話をした。
そして、以前幸村から言われたことを思い出した。
「大和さんは着付けとかできそう?」
「中学は伝統文化部と言っていた。できるのではないだろうか」
「なら、着付け練習のお手伝い頼めない?」
「蓮二もできるではないか」
「人数と規模から言って、蓮二やお前だけでは厳しい。短時間で済ませたいからね」
ということでよろしく、と幸村に半ば強引に大和をテニス部の着付け練習に誘うように言われていた。
突然の依頼に大丈夫だろうかと心配だったが、了承してくれた。当日、丁寧に部員に向けて着付けを教えていた。もとから人当たりのいい大和は、テニス部の面々とそれなりに打ち解けたようだ。