四季めぐり
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あれからも真田君と会わない日が続いた。
昼休みに顧問から呼び出され、何事かと訪ねたら思ってもいない吉報が告げられた。神奈川県の学生代表が行う武道演武会で、今までなかった居合道の部ができ、立海大附属高校居合道部に声がかかったという。
顧問は全国で強豪である神奈川県で居合道部を広めたいとずっと考えていたため、今回のこのことはある意味で願いが叶ったことになる。嬉しそうにする顧問を見て、私も嬉しくなった。
どこか浮つく気持ちの中、教室に戻る道すがら廊下で柳生君とすれ違う。
「おや、大和さん。何かいいことでもありましたか?」
そう聞かれ、居合道部のことを伝える。部活が成長してきていることを実感し、話ながら、嬉しくてつい口元が緩んでしまう。柳生君も一緒に喜んでくれた。これから委員会の集まりがあるようで、別れを告げ、教室に戻る。クラスメイトからも嬉しそうだと言われ、私はそんなに分かりやすいのだろうかなんて思ったが、嬉しいものは仕方ない。
部活で皆に告げると、皆も喜んでいた。それぞれが、より一層気合いを入れる。今回の演武会は、試合ではなく演武を披露するのみだ。皆で並んで演武を行う。この演武をみて、居合道をやっている人が、この学校に入学を決めてくれる可能性もあると顧問は言っていた。
演武会までは時間はあまりない。昇段審査まであと1年半ほど。県大会も終わり、来年度の全国大会が直近の大きな予定だった。突然に入った演武会に、少し練習に息をついていた自分を奮い立たせ、練習に力を入れた。
今日は、部活指定日以外の日。クラスメイトの柳君に最近毎日その姿を見るなと言われるくらい、ここ最近の放課後は殆ど毎日道場に赴いていた。テニス部も部活をしているようだが、次の全国大会に向けた練習は年度明けから本腰をいれるようだ。
道場は静かだった。部員たちも時々やって来るが、今日は誰もいないらしい。
久しぶりに道場に誰もいない中で、己と向き合う。
刀礼から始め、すべての型を行う。刀礼で締め、退場の儀を行い、少し休憩しようと息をつく。
出入口の方にある荷物を取りに、体をそちらに向ける。
そこに立っていた人物に私は体が固まる。
どうしてここに。彼がそこにいることもさることながら、その姿にも驚きを隠せなかった。
居合道着を着て、刀を持つ彼。まっすぐにこっちを見ている。久しぶりにその顔を真正面から見つめている気がする。真田君の眼差しに、私は射貫かれたように動けなかった。
無言の空間。刹那とも永遠とも感じる時間が流れた。まるで、初めてのあの大会の時のようだ。
「真田君。どうして、ここに……」
必死に紡いだ言葉は、道場に小さく響いた。
真田君は微かに頷き私の方に来る。一歩一歩だが、まっすぐと迷いのない足取りでこちらに来る彼に、胸が高鳴る。どうしたのだろう。逃げ出したい思いに駆られながらも、彼の真剣なその姿に動けずにいる。
目の前に来た彼に、背筋が思わず伸びる。真田君の意図が読めない。
疑問に思っている私に、真田君が何かを私に差し出すように手を前にだした。何か、紙を持っている。
「入部、届……?」
彼の手にあった紙を見ると、入部届だった。
居合道部、そして、彼の名前が達筆に記されていた。