四季めぐり
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あの日から、なんとか奮起して気持ちを戻そうとしたがなかなか上手くいかなかった。それなりの日数がたったのに未だ心は重い。
秋風が吹き始めた季節。私の心は空虚だった。
幸いにも真田君と学校では鉢合わせせずに済んだ。校門で風紀委員の彼に会わないように、早く学校に着くようにしたのも功を奏した。早めに着いた分、居合の練習が道場でできた。だが、どこか気持ちがのりきらない。
自分でも情けない演武に、更に焦りが出てしまう。剣に迷いがあると、師範にも指摘された。己と向き合いなさいと、鏡前で練習をしばらくしていた。
あと数日で県大会。師範が心配そうな面持ちをしている。深くは聞いてこなかったが、日常で何かあったと察してくれたのか、こういう時ほど、平常心だよと言われ焦らず行くように諭された。
部活では、後輩は態度を変えず気さくに接してくる。言っていたように来年の全国大会まで待つつもりなのだろう。
県大会当日。
私は身を隠すように、あまり歩き回らないことを心がけ、師範の後ろに張り付いていた。試合に出るか直前まで悩んだが、自分に負けた気がして嫌だった。この大会で、いつまでも落ち込んでいる自分を断ち切りたかった。
彼の気配を感じると、私は素早くそこから離れ師範と会話をしたりした。
トーナメント表が発表される。嫌でも彼の名前が目についてしまう。彼と私は、逆の場所にいた。決勝までいかない限り、当たることはない。どこか安心した自分に喝を入れる。
師範に背中を叩いてもらい、喝を入れてもらう。試合は順調だった。三段取得をして二年目。日々の練習もあり、昨年よりも成長しているという自負はあった。
昨年度は敗れた試合で勝利し、次はついに決勝となった。
相手は、真田君だった。
待機場所に向かう。真田君と目が合う。私は、胸が痛んだ。彼をまっすぐに見るなんて無理だった。鼻の奥がツンとして、試合前なのに何を考えているんだと頭を振る。目を瞑り、深呼吸をする。
開始の宣告がされる。
彼と並んで決勝を行う。これが二回目だ。あの時は、すべてが輝いて見えた。高揚感に溢れていた。けれど、今はただただ胸がいたい。
どうして彼と同じ県で同じ時に居合道を始めてしまったのだろう。どうして彼と同じ年なんだろう。どうして彼と同じ学校なんだろう。
こんなに苦しいならば、出会わなければよかった。居合道を始めなければ、彼と出会うこともなかった。
なんで、居合道を始めてしまったのだろう。
そう自分が思ってしまった刹那、自分の想いに驚き手の力が抜けた。
大きな音が、静寂な会場に響く。会場が凍り付く。
私は、何を考えた。何をした。あってはならないことをした。
固まる私の隣で、刀が力強く風を切る音がする。その音に現実に引き戻される。
私は頭を下げ、急いで落とした刀を手に取る。一礼をし、続きから演武を行うが、頭は真っ白だった。それでも練習を重ねた体は、勝手に演武をしていく。どこか俯瞰して自分を見ている気分だった。
演武を終え、終わりの礼を行う。
主審が判定と声を上げる。迷いなく上がったのは、すべて赤。
今回、赤は彼だ。
私はどこか放心したまま、後ろに行き挨拶の礼を行う。向かい合うのは真田君。目を見ることなどできない。だがずっと下を向いているのも失礼だ。彼の首あたりをみて、私は礼を行った。手が震えている。足がすくむ。
「大和」
いつまでも立ち上がろうとしない私に真田君が声をかける。その声音はどこまでも優しい。
どうしようもなく、涙があふれた。もうやめよう。もういい。
逃げと言われようがいい。大好きな居合を否定してしまった。その事実が辛かった。
真田君への想いは、はじめからなかった。忘れるんだ。
「お疲れ様。今まで、ありがとう」
私は顔を上げ、あふれている涙を少し乱暴に拭う。
精一杯の笑顔を彼に向ける。
これで終わりにするんだ。これからは、好敵手で、たまたま同い年の人。