四季めぐり
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テニス部も居合道部も全国大会が終わった。テニス部は全国二連覇を飾った。
居合道部は、個人戦では二連覇でも、団体戦は初戦敗退の結果となった。だが、全国に行った。それだけでも顧問は嬉しかったようだ。全国大会の団体戦は大将として挑んだが、私まで番が回らなかった。全国の壁の厚さを実感した夏だった。
始業式の恒例の表彰式。今年はバスケットボール部も優勝を飾ったようだ。いつも扇子を持っているバスケットボール部の顧問の先生が微笑んで表彰を見守っていた。
テニス部とバスケットボール部と居合道部。それぞれが校長の前に立ち、賞状と優勝杯を受け取る。居合道部は賞状だけだが。いつか優勝杯を隣に人がいる状態で受け取れたら、と願ってやまない。
夏休み明けの浮つく気持ちから、普段の学校生活への切り替えも十分に行えて来た。そんな暑い盛りも落ち着いてきた頃。
もうすぐ県大会もあるため、練習に打ち込もうと部活動以外の自由練習日も道場を使って練習をしていた。
「先輩。一緒に帰りませんか?」
道場で練習を終え、片付けをしているとあの剣道をしていた後輩が立っていた。話したいことがあると言われ、何か居合の相談だろうかと思い、了承する。
片づけを終え、彼と共に帰り路を歩く。西日が眩しく海に反射している。
彼がふと、立ち止まる。どうしたのか聞くと、今恋人はいるかといった内容の質問をされた。いないと告げると、彼は、静かに口を開き、私が好きだと告げてきた。そして、付き合って欲しいと言われた。突然のことにただただ戸惑った。
「あの新入生歓迎会のとき、一目で惚れました。剣道部に入部しようと思っていたんですけど、居合道部に入ろうとあの時思いました」
そう真っ直ぐに告げる彼に更に戸惑った。今までこのような経験がなかったため、どう返したらいいのか困った。
「今すぐとは言いません。俺、今回の全国大会で負けてしまいましたし。けど、次の全国大会で必ず勝ちます。だから、先輩、その時は……」
「待って!」
追い立てるように言葉を紡ぐ彼に制止の声をかける。全くそのようなことを考えたことがなかったため、頭は混乱している。
「気持ちは嬉しい。こういうこと言って貰えたの、はじめてだし。けど、私……」
今は居合道のことで頭がいっぱいだった。気持ちを伝えてくれた彼に、なんと返したら傷つけずに済むか必死で考える。好きだと気持ちを伝えてくれた。ふと、真田君の顔が浮かぶ。なんで今、ここにいない真田君の顔が浮かぶんだ。
そんな私に、後輩はどこか悲しそうに微笑んできた。
「……先輩はやっぱり、真田先輩が、好きなんですか?」
「えっ」
突然いま思い描いていた人の名前を言われ驚く。好き?私が、真田君を?
真田君が、好き。そう思うと、今までの真田君を見て感じていた思いに、何かかっちりと当てはまった気がした。
笑顔に勇気を貰ったあの日。一緒のクラスでなく寂しく思ったあの日。もっと一緒にいたいと思ったあの日。褒められて胸が温かくなったあの日。女の子に何か渡されているのを想像して胸が重くなったあの日。今までの真田君との思い出が感情と共に蘇る。
そうか。私は、真田君がずっと好きだったんだ。
「好き。真田君が……。そう、かもしれない」
「やっぱり、そうなんですね」
そう言う後輩はどこか残念そうに言う。気持ちを気付かせてくれた彼に、勇気をもって自分の想いを告げてくれた再度お礼を言おうとした。
しかし、彼の口から、とんでもない事実が述べられ、私は時間が止まったような気持ちなった。
「真田先輩。もう、付き合っている人がいるらしいですよ」
なんでも、友達である切原君から聞いたらしい。
彼は、本当は私への想いを告げないでいようと思っていたらしい。けれど、私が想っている相手である真田君には、既に付き合っている人がいると知った。後輩は私が彼と付き合っているのかと、確認のために先ほど聞いたという。否定したため、それならと思い、想いを告げてきたようだ。
真田君は、既に誰かと付き合っていた。テニス部の、あの仲のよさそうな切原君から聞いたというならば、きっと事実だろう。人気な彼らが、誰かと付き合っているのは至極真っ当だ。納得はしたけれど、その事実は、どこまでも私を深い悲しみの沼に落とした。
自覚と同時に失恋。束の間に終わった恋に涙が出そうになった。
私は、感情がままならないまま、後輩に今は一人で考えさせてほしいと伝え、残りの帰り道は一人で歩いた。
もうすぐ県大会。いつもは楽しみでいたそれも、今はただ彼と会ってしまうことを考えてしまい、行くのが嫌になった。