四季めぐり
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彼との出会いは、暦上は春でも寒さの残る時期のこと。
私は昔からよく、友達から大人っぽいとか、下手したら婆くさいともいわれる。それくらい、何かと古風なものが昔から好きだった。
そんな私は、習い事として居合道をしている。もうすぐ中学生になるその機会に、弓道などでも習おうかと考えて近所の武道館祭りに赴いた。そこで黒い袴姿で演武をしている居合道の人たちをみて、そのかっこよさと凛々しさにあこがれた。道場の師範と話をし、居合道は己を敵として己と向き合うもの、と言われ興味を持ち門下になった。
それから月日は経ち、初めての審査の日。私が最初に受けたのは一級だ。一級が取れれば次の昇段審査で初段が受けられる。審査は年に2回、各級や段ごとに時間別で各都道府県に行われる。居合道の昇段審査は、年数が基盤だ。初段から二段を受けるときは、1年間修行する。二段から三段を受けるときは2年間修業するといったように。
師範から、今日ここで同じ一級を受ける人は、互いに居合道を続けていれば、四段の審査くらいまでは同じく進んでいくだろうから、毎回の審査で顔を合わせると思うよ、と会場で言われた。神奈川県内の居合道、ほとんど同じ時に始めた人たちがこんなにいるのかと驚いたものだ。
そんな審査の日、老若男女そろうなか、私の隣の番号だったのは男の子だった。周囲が高配な方が多い中、それなりに若い人が隣だったので驚いた。
審査前の練習の時、一級の人は恒例の合同練習があるとかで、一級の審査を受ける全員で練習が行われた。素振りの掛け声に指名されていた彼は、よく通る声をしていた。声量がとても大きかったから少しびっくりしたが。横から聞こえる刀が風を切る音が心地よかった。同じ段階のはずなのに、貫禄がすごい人だ、そうその時強く思った。
一級の審査は、いつも通りにいればいいと、作法や演武を間違えなければ問題ないと言われたものの緊張した。4人ずつ審査を行われた。演武の際は、彼が隣だ。私も頑張らなければと奮起しつつ、恙なく終えられた。
最後に、後ろで共に演舞した4人で厳粛に円になり頭を下げる。その時、初めて正面から彼を見た。自分の思っている以上に、年若い人かもしれないと思った。
師範のところに戻ったら、彼は県内でも有名な道場のお孫さんだと知り、私と同い年だと知った。仰天した。猶更、私も頑張らねばと思ったものだ。
一級は全員が合格した。貼りだしをみて、師範と共に喜んだ。全員が合格するだろうとは思っていたが、いざ結果を前にすると安堵が心に広がった。
師範と喜んだ後、登録の手続きに行っておいでと受付に並んだ。私の後ろにいたのは、彼だった。手持無沙汰で並ぶ中、同い年でこれからも昇段審査で顔を合わす可能性が高いことを考えると、少しでも話をしたかった。初めての級位を取得できたことで少しだけ勇気が出せた私は、もうすぐ手続きの番になる時、彼の方に振り返り声をかけた。
「お疲れ様」
「……ああ」
少し驚いた様子をした彼は、ぶっきらぼうだったが返事をしてくれた。私は、それだけでもちょっと嬉しかった。軽く笑って前を向き、手続きをして無事に審査が終わった。
交わしたのはたった一言だったが、私にとっては忘れられない出来事だった。
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