番外編
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跡部と共に、まつは立海を後にした。外は少しばかり陽が傾いている。
「立海って毎日こうやって海を眺めながら登下校できるんだね。なんかちょっと羨ましいかも」
そんなことを呟きながら、まつは跡部と並んで海沿いの通りを歩く。海沿いの大きな通りはそれなりに車が通るようで、波の音に交じって車の音も響いている。
ここ数日の跡部とのごたごたがあったということを忘れるほど、穏やかな時間が流れていた。
「そう言えば、昨日あたりにたけがお手伝いに行った六角ってところも海が近いんだっけ?」
「そうだな。立海もこうも海が近いとはな。六角の連中にとって海が身近なように、立海の奴らも海は身近なんだろうな」
「なるほどねー。氷帝も海が近かったら、海岸走りして足腰鍛えたりできるんだけどね」
「宍戸あたりが喜んでやりそうだな」
「芥川も起きて練習しそうね」
「はじめだけ張り切ってそうだな」
それからも氷帝の話になり、しばらく練習メニューやレギュラーそれぞれの話題になった。途中で跡部歯科といった看板を見つけ、まつは神奈川に侵攻したのかと跡部にツッコミをいれたが、どうやら跡部財閥とは関係なかったらしい。
話題の区切りがついたタイミングで、ふと、まつはこのように跡部と共に歩いているのは初めてであることに気が付く。以前雨の中、家に送ってもらった時は、家がすぐ近くでもあったため共にいる時間は長くはなかった。こんなにも穏やかな時間を跡部と過ごすことになるとは、新年度の時には想像もしなかった。
まつは自分の右隣に広がる大海原を歩きながら見つめる。近くの浜辺には、友人と遊んでいる人、二人で歩いている人、犬と戯れている人、絵を描いたり写真を撮っている人などそれぞれが思いおもいに過ごしている様子がある。
「折角だ。浜辺の方に降りてみるか?」
「それ私もちょっと思ってた。うん、行こう」
隣を歩いていた跡部からのまたとない誘いに、まつは笑顔でこたえる。二人で階段を降り、浜辺に赴く。
浜辺の砂は想像以上に柔らかかった。風情溢れる感じになるかと思ったまつであったが、柔らかい砂が積もっていたところに足を突っ込んでしまったのか、足がはまってしまった。その様子に跡部が笑いをこらえており、まつは風情も何もないと、なんとか足を踏ん張って出したら靴に砂が大量に入った。
「最悪」
「くく。まつらしいな」
「馬鹿にしているでしょう。この野郎」
どこが私らしいのよなんて言いながらまつが、砂が入ってしまった靴を脱ぎ砂を払おうとする。しかし足場が悪いのかバランスを崩してしまい転びそうになった。
「危ねえ!」
「っと。ご、ごめん跡部」
ふらついたまつをとっさに跡部が支える。その距離の近さ故か、転びそうになったことによる驚きからか、まつは心臓が一瞬跳ねた。
「片足でふらつくなんざ情けねえな」
「あれはたまたまですー。……けど、助かった。危うく全身砂まみれになるところだったわ。ありがとう」
そう言いまつは跡部の手から逃れ、片足を軽く上げて靴の中の砂を払う。跡部はまつがまた転びそうになった時にすぐに支えられるように傍に立っていた。
靴を履き、さてやっぱり上に行くかとなり、少しばかり浜辺を歩き、上の通りに戻った。階段をのぼり、通りを挟んだ向こうに公園があった。この海沿いを走っている緑色の電車が置かれているのがまつの視界に入った。どうやら公園にオブジェとして置かれているようだ。ちょっと気になると跡部に伝え、二人でそちらに向かう。
「どうやら昔の型のやつみたいだな」
「この時間は入れないのかー残念」
この海沿いを走る電車。氷帝の最寄駅などに走っている電車と比べ車両数が4両と短めであり、まつは立海に赴くときに乗った際、その雰囲気にどこか懐かしさを感じていた。
そんなことを思い返していると、背後で何かもめているような声がした。何事かと思い、跡部とまつは顔を合わせ後ろを振り向く。
そこには女の子たちが絡まれていた。女の子はどうやらバスケットをしていたようだが、後から来た不良っぽい人にどけだとかなんとか言われている。一人の女の子が他の子を守るように立っている。
「跡部」
「やめろといっても行くだろ、お前は」
「跡部もそうでしょ」
「ああ」
二人でアイコンタクトを交わし、その揉めている場に赴き、不良と女の子の間に入る。はじめは跡部とまつにも文句をつけてきたが、この二人に口で敵うはずもなかった。不良は捨て台詞をはきながら去っていった。
去っていく不良にじゃあねとまつが手を振っていたら、他の子を庇うように立っていた女の子が遠慮がちに声をかけてきた。
「あの。ありがとうございました」
「いえ。ケガとかないですか?」
跡部と共に、まつは女の子と話をする。その雰囲気に、話し易さを感じ取ったのか他の子たちも、口々に礼を言う。跡部のかっこよさにときめいているような子もいそうだ。
「ハルコさん!この天才桜木が退治してやります!!」
「ハルコちゃん大丈夫かい?!なんかヤバいのに絡まれてるって聞いて」
「桜木軍団が来たからにはもう安心してくれ!」
騒がしい声と共に、これまたすごい雰囲気の5人組の集団がやってきてまつは驚いた。彼らの中心にいるのは赤髪のもの凄く背が高い人物。樺地くらいあるんじゃないか、なんてまつが思っていると、赤髪の人が跡部が絡んだと勘違いしたのか、跡部につっかかっていた。
跡部もよせばいいのに挑発に乗ったため、話がこじれそうになったが、先ほどの女の子、ハルコと呼ばれた人物が仲介に入ってくれたことで誤解はとけた。見るからにガラが悪そうであったが、やって来た時も真っ先に女の子を気にかけていたり、素直に謝罪とお礼を述べるあたりこの人物は素直で根はいい人そうだとまつは思った。
「申し訳なかった泣き黒子くん!まさかハルコさんを助けてくれたとは!」
「花道。あのシャツのセンスからしてなんかブルジョアっぽいぞ彼」
跡部のことを泣き黒子くんと呼んで肩をバシバシ叩いている彼に、氷帝では見かけない光景であり、思わずまつは笑った。
それから少し話をし、ハルコさんを含め彼らは高校一年生であることが分かった。この付近にある湘北高校に通っているようだ。一方の彼らは、跡部とまつが中学三年生であることに驚いていた。こんな中学生がいるか、なんてツッコミが聞こえてきた。
せっかくなので一緒にバスケでもどうだと誘われたため、跡部とまつは彼らと共にバスケをした。桜木という自称天才の人物が決めたダンクに跡部とまつはおおと声をそろえてあげた。
傾きかけてきていた陽が、沈むような時間になってきた。先ほどまでは青かった空も、今はオレンジ色に染まり始めていた。海も夕日の光をうけ、オレンジに染まっている。
「すごいわ跡部くんもまつちゃんも!ぜひ来年湘北に来て欲しいくらいよ!」
「ぐぬぬ。流川だけでも厄介なのに……。泣き黒子くん!!ハルコさんのハートを奪うのは許さんぞ!」
「あーん?何言ってるんです」
「まつちゃんが湘北の制服着たらかなりいい感じじゃねえかな」
「こら大楠!何言ってんだ!どうみてもまつちゃんは跡部くんのアレだろ」
「え?まじ?けど、洋平がそういうなら……そうなのまつちゃん?」
「?何の話です?」
桜木軍団と名乗った彼らから突然話題を振られ、話を聞いていなかったまつは疑問を浮かべる。
挨拶を交わし、今日のお礼を述べる。相変わらずの俺様風だが、ちゃんと敬語を使い話している跡部の姿に、まつは何だか今日は珍しい跡部の様子をよく見るなと思っていた。
「そう。二人は東京なのね」
「たまたま今日、神奈川にある学校に用事があったんです」
「もしかしてテニス部なら、立海大附属かしら?」
「ご存知なんですね」
「神奈川のバスケの中で有名な学校と、何だか名前が似ているなって思っていたの。さ!私たち湘北もインターハイに向けて、頑張らなくちゃ!」
「応援しています!」
まつは自分たちももうすぐ大会があると伝えると、晴子たちが必勝祈願の神社がこの先の通りをまっすぐに行くとあると教えてくれた。折角なので跡部と共にそこに向かうことにした。
立海への出張マネージャー、跡部との和解、そして湘北高校の桜木や晴子たちとの出会い。今日は本当に濃い一日だとまつは参道を跡部と並んで歩きながら思っていた。
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