番外編
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温かくて柔らかい布団に頬ずりをしながら、心地よい眠りから意識を少しずつ覚醒していく。
いつもより何だが温かい気がする。
それに、何かに包まれているような温かさだ……。
あれ、そういえば。私、昨日どうやって布団に入ったっけ。
そう思いながら重い瞼を少しずつ開けていく。
それから視界に入ったものに、私は硬直した。
視界一杯に誰かの胸元が広がっていた。服を着ていても、肩口から覗く鎖骨や私に伸びている腕から、相当鍛え上げられていることが分かる。
この布団の色からして、触り心地からして私の布団だ。けど、いつもは一人で寝ているここに誰かがいる。
待っておくれ。どうなっている。
いったい何事かと、混乱する私は、昨日のことを必死で思い出す。
昨日。昨日。そうだ。
てことは、この目の前にいるのは……と思い、私は恐るおそる息を殺して顔を上に向ける。
そこで私は再び硬直した。
めっちゃこっち見てるんですが!何なの!というより、起きてるの?!
そう。私を静かに、だが瞬きせずこちらを見つめているのは、付き合っている彼。
神の子こと幸村精市クンだった。
待って待って。落ち着け私。とりあえず現状把握だ。
うん。身体で痛いところとか変なところはないな。お互いに服は着ているし、過ちは犯していないはず。そうだよね。うん。まだキスすらしたことないんだよ?最近、手を繋ぐのにやっと慣れてきた、ってところだよ?
確かに幸村は、付き合ってから何かとグイグイくるけど、それなりに恋愛音痴な私のペースに合わせてくれている……はず。
キスは、まあ少し迫られたことはあるけど、この前は、もうちょっと待ってと言って、私から彼の手の甲へキスをして我慢して貰ったくらいだ。去り際に見たら、その私がキスした手の甲のところに、幸村がキスを落としていて悲鳴を上げたのも記憶に新しい。あの時、驚く私に向かって、笑顔を浮かべてきた幸村に、この確信犯めと内心毒づいたものだ。
そんな幸村と昨日はデートをした。土曜日の学校終わった後に待ち合わせをして、一緒に美術館に行った。それから、美術館にあった絵画の題材について語り合って、せっかくだからその映画でものんびり見ながら家でまったりしようとなったんだった。その映画以外にも気になる作品を借りて、私の家で二人で鑑賞会をしていた。
そうだった。なんか自然に家に来ていて、幸村も明日は休みだから折角だし泊まっていけばなんて、話になったよな。最近は時々たけたちが泊まりに来るから、来客用の布団を買ったばかりだったし、人を泊めることに抵抗もなかった。幸村も了承してから、一緒に夕飯を作って食べて、お風呂にも入って、布団を敷いて。
それから、また借りた映画を見ながらお互いの近況報告とかをしていた、気がする。そこらへんからもう曖昧だ。
どうしてこんな状況になっている。
私は再び今に意識を戻す。再び上をゆっくりと見る。
相変わらず、こちらを見ている。なんで瞬きしないの。眼球カピカピになるよ幸村。無言でこっち見るのやめて。幸村のその眼差しで全身に穴が開きそうだ。
にしても全く動かない幸村。まさか、目を開けたまま寝る人だったりするの?
「そんな訳ないだろ」
「あ。起きてた。と言うより心読んだ?」
「思いっきり口に出てたよ」
静寂の中、幸村と私の声が響く。
起きているならば、と思い、あの、と声をかける。
「なんで二人で布団にいるんですかね」
「フフ。まつが一緒がいいって甘えてきたんだよ?」
「ご冗談を」
「本当さ。ほら見て?」
そう言い幸村がゆっくりと、手を挙げる。それに引かれるように私も自分の手が挙がった。私の手が幸村の手首を掴んでいる。
「なんてこったい」
「まつが先に寝ちゃってね。布団に運んでから、俺も横に敷いた布団に寝ようとしたんだよ。けど、いざ布団に運んだら離さなくてね。仕方ないから一緒に入らせてもらったよ」
何してるんだ。穴があったら入りたい。幸村の手首を離し、自分の顔を手で覆った。
そんな羞恥と格闘している私の身体が、急に背中から何かに引っ張られた。温かい壁にぶつかり、覆っていた手をずらすと目の前は先ほどより近くなっている。幸村に抱き寄せられたのだと分かった。
暗がりの中でも分かる端整な、中世的な彼の顔。けれど、私を抱きしめるその腕や目の前にある胸板は男らしさしか感じられない。改めて、幸村という存在を意識して、顔に熱がいくのが分かる。
上から微かに笑い声が聞こえた。何かと思い、見ると幸村が楽しそうにこちらを見ていた。
「余裕のないまつの姿はやっぱり可愛いね」
「そりゃ、幸村と違ってこういうの慣れてないし」
「俺だって慣れていないさ」
「嘘だー」
嘘じゃないと言って、幸村が私の後頭部に手をあて、私の耳を彼の左胸に押し付ける。彼の鼓動が聞こえる。それは、私と同じくらいだ。冷静に見える彼も、緊張しているのだろうか。少し、嬉しかった。
私はゆっくりと幸村を仰ぎ見る。笑みをたたえたその眼差しは、どこまでも温かい。その姿に自然と口元が緩むのが分かった。
幸村が微笑み返してくる。
その顔が少しずつ近づいてきて、私の唇に温かいものが重なった。
初めてのキス。それはそっと触れるだけのものであったが、私の胸には温かいものがじんわりと広がっていった。
「好きだよまつ」
「うん。私も、幸村が好き」
心臓が高鳴る。けれど、満たされた感覚が強い。今はこの心地よい温かさに浸ろう。そう思い、幸せを噛みしめながら再び眠りにつこうとした。
「って、さっきより近いんですが」
「ん?」
「というより、なんでまだ一緒の布団にいるの!」
「いいじゃないか。折角だし」
更に密着しようとしてくる幸村を引きはがす。それに流れでまた一緒の布団で寝る感じになったが、危なかった。気が付いてよかった。
それ以上騒いだら口塞いじゃうよ、なんて妖しく言ってくる始末だ。全く。その温和な雰囲気に反して予想以上にガツガツ来る彼にため息を溢す。
次はいい加減名前呼びかなとぼやいていた言葉を無視して、私は布団にくるまった。
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