副編集長からの贈り物
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まつは自然と早歩きになっていた。封筒を胸の前で抱え力を入れていなければ、身体が震えてしまいそうだった。
必死で足を動かしながら、肺の空気を全て出すような深呼吸をして微かに上を見る。
跡部にとって、私はいったい何なんだろう。まつの胸に再びその疑問がわいてくる。
自身にとっては、初恋の人で、初めての恋人。恋人として一つひとつのことを積み重ねていくたび、幸せを噛みしめていた。けど、それは私だけなのだろか。自分の経験が少ない分まつは、恋人らしいことはなんだろうかとたけたちに聞いていたりした。
「でっさーこの前なんだけどー!」
階段にやって来たタイミングで、手すり付近でひろがって女子生徒数人が会話している。確かあの子同学年だったな、なんて思いながら綺麗な顔立ちをしている女子生徒が嫌に目に付く自分にまつはため息を溢した。
女子生徒の集団の邪魔をしないようにと、まつは気配を小さくしながらその横を通り階段に足を踏みいれた。
その瞬間、話が盛り上がったのか一人の女子生徒がまつの方にドンっとぶつかって来た。
ちょうど足を踏み出したタイミングであったため、まつはバランスを崩し、浮遊感に包まれた。胃を鷲掴まれるような感覚と同時に、声が響く。
「まつ!!」
ふわりと薔薇の様な香りと聴きなれた心地よいその声と共にまつは何かに包まれた。
大きな音と微かな衝撃の後、静寂が広がった。
視界が白い。まつはこれは制服のシャツだと気が付いた。いったい誰の?と思い、見上げると跡部が目を閉じていた。
「え。あ、跡部……?」
跡部に抱きしめられ、倒れこんでいる状況だ。視界の端でとらえる周囲の景色から考えて階段から落ちたようだと把握する。冷静になりたいが何が起きているのか、パニックなりながらまつは、状況を把握すればするほど血の気が引いていくのが分かった。
いったいなぜこんなことに。なぜ跡部が目を閉じて自分を抱きしめた状態で共に倒れているのか。固まるまつの耳に、女子生徒の耳をつんざくような悲鳴が響く。先生を呼んでいるようだ。
跡部?、と声をかけながら腕の拘束から抜け、肩をゆする。息はしている。けれど、目は固く閉ざされている。
「跡部、どうして。やだ、」
「おどきなさい!景吾さん!景吾さんしっかり!」
震える声と手を伸ばそうとしたら、一人の女子生徒がまつを押しのけるように跡部の元に近付いた。
そんなに揺り動かしてはいけないと思うと告げようとしたまつの耳に、先ほどの集団の女子生徒だろうか「あの子のせいじゃない?」「誰あれ?」「ほらB組の。マネージャーもやってたでしょ」「うっそ跡部様を傷つけたの」といった会話が届く。
私のせい。そう思った途端、まつは足がすくんだ。とりあえずすぐに救急車をと動こうとしたら、ちょうど先生が来たためその場をまかせた。女子生徒たちが周囲を固めまつを跡部に近づけさせないようにしていたため近づけなかった。
世界がどこか遠くに感じる中で、まつは壁にもたれる。騒ぎを聞きつけ駆けつけてきたたけたちがまつに声をかける。
「まつ!」
「たけ。うめ。忍足」
どうしたら、と泣きそうな顔をしているまつを周囲から隠すように3人が囲んだ。とりあえず今は落ち着くんだとばかりに背中をさすりながら、たけたちは状況把握を行った。
忍足は、跡部の側にいる女子生徒が先ほど廊下ですれ違ったあの女子生徒だと気が付いた。
どうしてこんなことに、4人の頭には同じ疑問が何度も何度も渦巻いていた。