副編集長からの贈り物
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時は少し遡り、副編集長からまつが二つの封筒を受け取った時のこと。
忍足とうめが、険しい表情をした跡部の前に立ってた。
「おい。これ、開いたか?」
「?開いとらんけど」
そうかならいいと呟き、手渡した手帳を大切そうにしまう跡部に、うめと忍足は疑問を持つ。
うめが忍足と共に氷帝を歩いていた時にたまたま拾った落とし物。うめが気が付き、忍足がその見た目から跡部の持ち物であると気が付いた。手帳がなければ困ることもあるだろうと、二人で跡部を探して見つけた。
ちょうど跡部も探していたようで、こちらから話す前にどこか安堵の様子を浮かべた跡部が忍足の手にある手帳をしめした。
受け取る際に、先ほどの疑問を二人に投げかけたのだ。
意外と自分の領域に踏み込ませるのが好きではない跡部であるから、自身の手帳を誰かに持たれたのがあまりよく思わないのか、はたまた、見られたら何かまずい物でもあるのだろうか。
珍しく跡部が焦燥感を滲ませながら、どこか牽制するような眼差しを忍足たちに向ける。
「どないしたん?何かあるん?」
「……気にするな」
届けてくれたお礼を告げ、じゃあなと去っていく跡部。その背中を忍足は隣にいるうめと共に見送った。
「跡部くん、何か見られたくないものでもあったのかな?」
「まあスケジュールとかあまり他人に公表するもんでもあらへんしな」
「そうだね」
「せやけど、まああの反応は何か怪しいなあ」
そう目を光らせ眼鏡を上げる忍足に、うめは何か悪いことでも考えていそうだと頭によぎる。
「気になるの侑士くん?」
「そりゃまあ、あないに王様が余裕のなさそうなんは珍しいからな。いうて、うめも気になるんちゃう?」
忍足がうめに向けて笑いかける。一瞬驚いた表情を見せたが、うめは降参とばかりに手を挙げる。
「そうだね。まつが、色々悩んでそうなのとあわせて気になるかな」
「まつが?」
「本人は大丈夫って言うけどね。跡部くんとまつ、上手くいってるのか心配で」
突然のうめから、親友であり跡部の彼女でもあるまつの名前が上がった。
「けど、あの二人お互いに好きちゃうんか。跡部なんて、傍から見とったり話聞いてとる分にはまつしか見てへん様に見えるけど」
「そうなんだよね。まつも会話の端々から跡部くんが好きなことや大切に思っていることが分かるんだけど、時折こぼすの。恋人らしいことってなんだろうって」
うめいわく、まつは大胆見えて意外と純情な面があり、ファーストキスすら怖気づいてしまっているという。忍足も、跡部は御曹司であり、身体の関係など成人後はたまた結婚したあとなんて考えていてもおかしくないなどと話をしており、勝手に性事情まで話を膨らませている。いつもはうめがストッパーとなりそうだが、恋愛話しが大好きな二人はどこまでも話を広げていく。
「おい変態眼鏡。うめとなに嬉々として他人の性癖とかを話してやがる」
「たけ!」
「いや俺、街中のカップルとかめっちゃ気になるねん」
「跡部とまつは街中のカップル扱いかよ!」
「たけ声大きい!」
「あ、やべ」
跡部とまつが付き合っているということは今の氷帝学園では、テニス部しか知らない事実となっている。一部では気付いている人もいるだろうが、公表はしていない状況だ。
たけが二人から先ほどの跡部の手帳のくだりから話をきく。
「なるほどな。普通に手帳を見せてもらうのが手っ取り早いんじゃね?」
「あの感じは絶対拒否しそうだけど」
「マジ?めっちゃ気になるじゃん。怪しい」
「せやろ」
3人で顔を突き合わせる。まさか、とたけが呟く。その呟きに、うめと忍足が視線を送る。
「……浮気、とか?」
「ええ?!あの跡部くんが?!」
「うーん。せやけど、跡部はそのへん真面目や。まつ一筋な気もするんやけどな」
「デートの約束とか書いてあったり、とか。だって、あいつあの跡部財閥のお坊ちゃんだぜ。パーティとかもあるだろうし、面もよくて家柄もよくて、高嶺の花の様な女性なんて選び放題のより取り見取りじゃね?それに、お見合いとかもありそうだし」
不穏なことを述べていくたけ。うめとしても、絶句しているが、その内容が否定もできないのもまた困ったものだった。
「真面目だからこそ、家のために律儀にお見合いとかしていたり……?」
たけが呟くと同時に、何かが落ちたような音がした。何だと思い3人があたりを見回すも誰もいない。
「?何だろう?誰かいた?」
「おらへんな」
しばらくあたりを見つめるも変化はみられない。それからすぐ、3人は再び顔を突き合わせる。
「何はともあれ、怪しい跡部の調査だなこれは」
「そうだね」
「もし浮気とかしてやがったら、握りつぶす」
「私も協力するわ!」
そう言いうめとたけは息まいてその場を離れた。
そんな二人を見つめながら、忍足は微かに空を見上げた。あの跡部が浮気をするなんてあるんだろうか。普段の様子、まつを見つめる姿や、話しているときの様子、それらを全て考えると跡部がまつ以外の女性に興味を持つことがあるのだろうかという思いがよぎる。
「まつと跡部の関係は何ら心配しとらへんけど、まあ、あの時の跡部の様子はごっつ気になるんよな」
「おい忍足!はやく来い!お前は調査兵団として跡部のもとに送り込ませてもらうからな!」
「それ生存率低いやんけ。うめと憲兵で頼むわ」
そう呟き、忍足は二人の背中を追った。
それからあれやこれやと推測をしながら3人は跡部を探した。
「けどさ、浮気するとしても誰がいるのかな」
「そうだなあ。もし氷帝内で挙げるとしたら……」
うめの問いにたけが視線を上にしながら考え込む。氷帝には社長令嬢、有名企業の重役、両親が医師など家柄がいい子が多い。その中でも、跡部に特に気がありそうな女子生徒を二人はあげたりしていく。忍足は二人の会話を聞きながら、顔が浮かぶ人もいれば浮かばない人もいた。改めて男子テニス部の、いや跡部の人気さに感心していた。
そんな会話をしながら少しして、すぐに3人は目当ての人物を見つけた。樺地を後ろに連れ、何やら誰かと会話している。
「あれ副編集長じゃん」
「副編集長って。ああ、報道委員のあのお嬢ちゃんか」
「ほんとだ。何してるんだろう」
報道委員の副委員長となにやら内緒話のようにひっそりと話をしている。跡部が頷き、副編集長は満足したように去っていった。その背中を見送りながら跡部は何やら考え込むような様子を見せていた。
「何やあれ」
「まさか。跡部の野郎、副編集長と……?!」
「ええ?!」
全くノーマークであった人物にうめとたけは驚く。
「いやあの雰囲気はちゃうやろ」
「いやいや!甘い忍足!問い詰めてやらあ」
「ちょっ、たけ」
「落ち着きたけ」
「あーん?何騒いでやがるお前ら」
鼻息荒く腕まくりをしながら跡部の元に向かおうとしたたけを抑える忍足とうめ。その騒動で向こうにいた跡部がこちらに気が付いた。忍足が跡部の名前を呟く。
血気迫るたけの様子に何があったのかと、跡部は樺地と共に訝し気にこちらを見ている。
「跡部!そこになおりやがれ!」
「……生憎俺様も用事がある。急ぎでないなら、」
「待ちやがれー!」
「たけ、一旦落ち着いて」
「堪忍な跡部。まつのこと、なんやけど」
ノープランのためいったん冷静になろうと忍足とうめがたけを抑える。その様子に、跡部も用事があり去ろうとしたが忍足の発した「まつ」の名にピタリと足を止めた。
「樺地、先にこれを生徒会室に運んでおけ」
「ウス」
樺地に物を預け、跡部がうめたちの元にやって来る。
「で、何の用だ?」
腕を組み、3人の前に対峙する。何でも聞けというような雰囲気だ。この様子なら色々と聞けそうだと3人は顔を見合わせ、頷く。任せろとばかりにたけが咳払いをするような動きをして、一歩前に出る。跡部がたけを見据える。
「率直に聞くぜ跡部!お前、誰と浮気してやがる!」
「……は?」
ビシッと尋ねたたけ。忍足が微かにため息を溢した。
跡部は予想外の質問だったのか、一瞬のフリーズの後に、たった一言だけ溢した。忍足がその様子に微かに俯いて眼鏡を抑えた。
うめとたけとしても跡部の反応に疑問を浮かべる。
「俺様が?浮気?何を言うかと思えば」
心外だというように、嫌悪のような表情を浮かべる跡部。その様子に忍足が頷きながら微かに笑った。
「俺様は女に興味ねえよ」
自信満々に告げる跡部の発言に、うめとたけが絶句した。そんな二人を見て、忍足の頭にこれはアカンとよぎった。
うめが驚愕と共に口元を抑える。たけが一瞬の驚愕の表情の後に、顔をゆがませ微かに引きながら跡部を指さす。
「えっ。跡部君、まさか」
「お前、四天宝寺のアイツと一緒だったのかよ!」
「あーん?」
四天宝寺のアイツって誰のことだと眉間に皺を寄せる跡部。「ホ、」と言葉を告げようとしたたけの口をうめがふさぐ。跡部がそれで二人が何を思っているか、察したようだ。そんな二人にブハッと噴き出している忍足に跡部が再び心外だというような表情を浮かべた。
「馬鹿野郎!そういう意味じゃねえ!」
跡部がたけを軽く叩く。
「惚れた女以外に興味なんざねえよ」
腕を組み自信満々に告げる跡部。跡部の言う惚れた女、それはお前ら分かってるだろと言うような雰囲気を醸し出している。跡部の発言、その様子にうめとたけは息をのんだ。忍足は納得の表情をしている。
「……なんだよ。じゃあ、手帳見せろよ」
「手帳?」
「ごめん跡部くん。さっきの様子から、てっきり私、そこにお見合いとか浮気デートの予定とか書かれていると思ったんだ」
「そういうことか」
そう告げて跡部は呆れたように徐に手帳を取り出した。何かを挟んでいたのか、それを落ちないように跡部が手に取り、手帳を渡してきた。すんなりと渡したことに3人は戸惑いも浮かべながらたけが受け取る。
中には部活、学業、家のことなど忙しいスケジュールが書かれていた。どこにも女性の気配は感じられない。
「満足か」
「あ、ああ。悪い跡部。勘違いで嫌な思いさせた」
「ごめんね」
「堪忍な跡部」
「忍足。てめえは分かってやっただろ」
「まあ跡部が他の人に懸想することなんてあらへんやろうなとは思っとったわ」
忍足の言葉に跡部が手帳をしまい満足げに頷く。時計を見て、じゃあもう行くぜ、といって去っていく。
その背中を見送りながら、3人は拍子抜けしていた。浮気に関しては全くの白だろう。あの手帳はプライベート用ではないかもしれないが、なぜ先ほどはそんなに焦っていたのか3人は疑問に思った。普通に許可なく見られたかもしれないというのが嫌だったのか。
教室に戻る道すがらも色々と再び憶測を話し合う3人。
忍足たちが横を通りすぎた集団の中に、先ほどたけたちが跡部の浮気候補で挙げていた女子生徒がいた。その人物をみて確かに美人さんだなと思いながらも、友人と思われる横にいる人物に何か耳打ちをされ何か企むような顔つきをして頷いている。一瞬であったがその歪んだ顔つきに、忍足は美人さんが台無しだなと思いながらも、何か嫌な予感がした。
「侑士くん、どうかした?」
「うめ。何でもあらへんよ」
「変態眼鏡。また変なこと考えてたんだろ」
「ちゃうって。跡部んことをえらい勘違いしたたけに言われたないわ」
「うっせー!あれは跡部の言い方が悪ぃだろどう見ても!」
覗き込むようにして尋ねてきたうめの表情に癒されながら忍足は心配するなと告げる。たけをからかいながら、胸に過った嫌な感じは気のせいだと思うようにした。
そう思った刹那。
「跡部様!!だ、誰か!はやく先生を!!」
耳をつんざくような悲鳴と共に、何やら階段の方が騒がしくなった。
跡部という名前とその様子に、何事かと3人は顔を合わせその騒動の方に足を速めた。