副編集長からの贈り物
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副編集長から受け取った封筒を開け、中身を取り出す。中には何枚もの写真が入っていた。
一枚一枚捲るように眺めていく。さすがは報道委員といったところだろうか、俳優のフォトと言われても過言でないくらい撮るのがうまい。
カメラに気が付いているときは、ばっちりカメラ目線であったりポーズをうまく決めているあたり跡部だななんて思う。だが、時折入っているカメラ目線でないそれこそ言っては失礼だが隠し撮りに近いような写真もまた違った良さがある。
跡部が真剣にテニスをしているときの写真を眺める。
「かっこよすぎでしょ」
思わずポロリと出た言葉に苦笑する。懸命に努力をして真っ直ぐに前を見据えているあの眼が好きだ。はじめはあの真っ直ぐさが、すべてを見透かされているようで、自分の弱いところを暴かれるようで苦手だった。だが、気が付けば跡部のあの眼が大好きになっていた。
思った以上に、私は跡部に惚れ込んでいるらしい。そう改めて思い、一つ息をついて、特に気に入った跡部の写真をこっそり手帳に挟んだ。
「あれ、まつじゃないか。何してるの?」
「滝」
私が写真をしまい、さて、副編集長から受けとったもう一つの封筒でも見るかとどこかふわふわした気分でいると、滝が来たようで声をかけられた。
先ほどの副編集長の衝撃的事実にどこかソワソワした気分になる。滝が私の持っているものに注目した。
「なんかすごく重そうな封筒だね」
「でしょ?さっき、副編集長から貰ったの。赤面必須だってさー」
副編集長?と一瞬疑問を浮かべた滝だったが、ああ彼女かと副編集長の名前を呟いていた。
「お。滝も知り合い?」
「まあね。親しい感じとはまた違うけど。報道委員だし、時々テニス部に来るからね。しっかりしている子だよね」
副編集長-!認知されてるよ!と叫びたい気分になったが、グッと飲み込んだ。そして、私の持っていた封筒に興味を持ったのか、何が書かれているのかと言った顔をした。
「滝も見てみる?なんか、関東大会前のインタビューでカットした部分だってさ」
「じゃあちょっとだけ」
そう言い、優雅に書類を受け取る滝。
ふと、滝はそのタイミングでは準レギュラーであったことを思い出した。気にするのではないかと少しばかり心配したが、滝が私が手渡すときに何となくそれを察したのか、大丈夫だよと微笑む。
宍戸との関係も後腐れなく、寧ろ相手を賞賛して自己鍛錬に励み続け、部を支え続けた滝。目の前で書類を読む彼の姿を眺める。書類を読み進めながら、景吾君もやるねーなんて呟いている。
テニス部に親衛隊が付くのも納得だななんてぼんやりと考える。
「もしテニス部の親衛隊で誰かのに入れって言われたら、滝のに入るかな」
「どうしたの突然。いやそもそも、そこは景吾君でしょまつ」
あれ声に出てた?なんて呟くと、思いっきり出てたよと呆れたように話す滝。
「いやまあ、景吾を応援するのは当たり前で。親衛隊というかなんというか。また別枠な感じが」
「ふふ。何となくそれは分かるかもしれないね。ん?……あれ、まつ。今、景吾って」
「!滝が景吾君、景吾君って呼ぶから!つい」
「あーん?まつ。俺様を呼んだか?」
「跡部!いつの間に……!」
「やあ景吾君」
どうしてこうもテニス部の皆は突然現れるのだろうか。いや私が周りを見ていなさすぎるだけ?そんな一人で心の中で格闘していると滝が立ち上がった。
「はい、まつ。ありがとう、なかなか面白かったよ」
「あ。え、ええ」
「重いから気を付けてね」
「いやそんな言うほど?」
滝が呼んでいた書類を私に返してきた。重いというが、そんな重くはないと思うが、何か含み笑いをして、それじゃあねと去っていった。
ここには、私と跡部だけとなった。
「まつそれは何だ?」
「これ?副編集長から貰ったの。後で読むわ。で、跡部こそどうしたの?」
「たまたま見かけたから声をかけただけだ」
「何それ」
てっきり何か用事があるのかと思ったが違ったようだ。茫然としている私に跡部が笑いかける。
「用事がなければお前の元に来ちゃいけねえってことはねえだろ」
「ま、まあ、そうだけど。忙しくない?」
「まつとの時間を少しでも作りたい。それだけだ」
またあの真っ直ぐな眼で告げられる。こう恥ずかしげもなくサラリとこんなことを言えちゃうあたり流石だな。女の子の扱いに慣れてそうだなと思うとどこか心に靄がかかる。
黙っている私に跡部が微かに首を傾げ、私の名前を呼び近づいて来ようとした。
「いらしたわ!跡部様ー、先ほど榊先生がお呼びでしたよ」
跡部を探していたのか、微かに息を切らした女子生徒が向こうから跡部に声をかけてきた。
「あーん?分かった。すぐに行く」
「行ってらっしゃい」
「またなまつ」
そう言い、跡部は踵を返していった。やはり忙しい身なんだなと改めて感じる。
跡部が去り、先ほど声をかけた女子生徒が他の生徒と跡部様に声をかけちゃった、しかも返事して貰っちゃったと嬉しそうに顔を綻ばせていた。
「跡部、様だよね。やっぱり」
女子生徒たちのやり取りを遠目で見ながら、呟いた言葉は虚しく空に溶けていった。
教室に戻る道すがら、ふとうめの声が聞こえたと思ったら、たけの声もした。二人がいるのかとそちらに向かう。
遠くからだが、たけとうめのほかに忍足がいることに気が付いた。何やら顔を突き合わせている。深刻そうな様子に何があったのかと疑問に思う。
ここからは聞こえないが、たけが何かを呟いたようだ。その言葉に反応したうめが驚いており、跡部と言う単語が耳に届いた。忍足も顎に手をあて、何か言っている。何だろうと思い、何となく不穏な雰囲気と跡部という単語に、何か嫌な予感がした。
気配を消し、3人から見えないような場所で、声が聞こえる距離まで近づく。デートというワードが聞こえる。
たけがだって、と言葉を紡ぐ。
「あいつあの跡部財閥のお坊ちゃんだぜ。パーティとかもあるだろうし、面もよくて家柄もよくて、高嶺の花の様な女性なんて選び放題のより取り見取りじゃね?それに、お見合いとかもありそうだし」
聞こえてきたたけの発言に、冷や水を浴びた感覚になった。
跡部という存在が急に遠くの存在に感じられる。先ほどの女子生徒の様子が頭によぎった。
そうだ。今は同級生で彼の人柄もあって身近な存在に感じているが、本来、彼は跡部財閥の御曹司で雲の上のような存在であるべき人だ。経営学を学ぶために海外に行くかもしれないという話も、この前ちらりと聞いたことも思い出す。その時はまだ確定ではないし、自身も色々と考えることがあるし心配するなと言っていた。
心臓が激しく脈打つ。先ほどのたけの発言は、私自身もずっと心のどこかで引っかかっていたのものだった。
誰かに否定してほしい、誰かが笑い飛ばして冗談だと言って欲しい。そう願ったがうめも困り顔で聞いている。
「真面目だからこそ、家のために律儀にお見合いとかしていたり……?」
その呟きに、限界だった。脱力した私の腕から、持っていた封筒が滑り落ちた。しまったと封筒を取ろうとしゃがみ込んだ。
落とした音に気が付いた3人があたりを見回している気配が感じられた。口を手で押さえ、息を殺す。激しく脈打つ心臓の音があたりに響かないか本気で心配になった。
「?何だろう?誰かいた?」
「おらへんな」
それからすぐ、3人はどこかに向かっていった。何か会話をしていたが、全く耳に入ってこない。
床にある封筒が二重にも三重にも見える。私はそれが何故かを考えたくもなく、3人が去った後にそれを拾いその場を逃げるように去った。