番外編
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まもなくU-17ワールドカップがオーストラリアで開催される。
こちらは少しずつ寒くなっている季節だが、南半球のオーストラリアはこれから夏本番となってくる。
まつはあの夏の日々が再び訪れるのかと、ぼんやりと考えていた。
「まつ。なに黄昏てんだ」
「オーストラリアは夏だろうなって思って」
「いいよなー。寒いの苦手だから私も一緒に行こうかな」
「はじまったら、跡部が色々手配してくれるって」
「まじかよ。流石跡部様だな。ありがて」
「相変わらずだね跡部くん」
けど、現地で応援できるのは嬉しいねとうめは笑顔を溢す。
「ホンマ、うめは前乗りしてくれてもええんやで」
「ゆ、侑士くん」
「だああ!だからお前!いつも急に背後に立つのやめろよ!」
「スーツなんだね。かっこいい」
「せやろか?そうストレートに言われると照れるわ」
「無駄に様になってるのが腹立つな」
急にスーツ姿で背後に現れた忍足に、たけが心臓に悪いとばかりに告げる。背後から肩に手を添えられたうめはいつもとはまた違った大人っぽさを醸し出す忍足に微かに頬を赤らめていた。
「たけ。そんなに騒いでどうしたんだい」
「周助!ってスーツ似合いすぎ!」
「ふふ。ありがとう」
まばらに出発準備の場所に人がやって来る。それぞれが日の丸のついたスーツを纏っている。
そう、今日は日本代表となった彼らが、オーストラリアに旅立つ日だ。
高校生だろうか?見慣れない人もそれなりにいて、すごい大人っぽい人もいるなんてまつは遠目で見ながら考えていた。
「真田とかもう完全にサラリーマンだね」
「む?そうだろうか?」
「似合っているからいいんだけどさ」
たまたま近くにいた真田に声をかけるまつ。おかしいところはないかと尋ねてくる真田に大丈夫だと告げる。幸村と跡部が何かを話している。絵になる姿だ、なんて思っていると、行きかう人々が、何?モデル?なんてひそひそと話しているのが聞こえた。本当にそれくらい、それぞれがオーラを纏っていた。やっぱり第三者からみてもそう見えるよねと一人納得していた。
それぞれがばっちりと準備をしていた。
ふと、隅の方で何か戸惑っているような雰囲気を纏う人物に目が留まった。まつは珍しいその人物の様子に、どうしたのだろうかと近付いた。
「白石?どうしたの?」
「!まつ。いや、その」
顔をこちらに向けた白石はどこか困っている様子だった。その、なんて言葉につまる白石に疑問を浮かべたが、その手にあるもの、その表情を見て察する。
白石の手には、ネクタイがあった。首からかけてはいるが、両手でしっかりと握っている。
「まさか、白石。ネクタイ結べない?」
「……。普段は学ランやからなあ」
そう遠い目で告げる白石。合宿所で何となく教えて貰いながらやったらしいが、ちょっと直そうと思い軽く外したら戻らなくなってしまったらしい。
気まずそうに話す白石に思わずまつは噴き出した。
「ちょ。笑わんといてや」
「はは、ごめんごめん。いやー白石にもできないことあるんだなって改めて思えて」
それに、気まずそうなのがちょっとかわいくてなんて告げるまつに、白石はデコピンをかました。全く痛くないのに痛いなんて口をとがらせるまつに白石は笑う。
そしてまつは手を差し出した。
「ほら、貸して」
「ネクタイ?」
「氷帝の制服で慣れているから結べるわ。あ、四天宝寺の時も小さいけど女子はネクタイだったし」
そう言いながら差し出されたネクタイをまつは受けとる。いざと思い、ネクタイを白石にかけ結ぼうとする。なんだかこんなことをされると、お嫁さんみたいだなんて言葉を白石は飲み込んだ。そんなことを言った暁には跡部や幸村にいてこまされるだろう。それに、まつも怒らせそうだ。
「堪忍な」
「うん。……。あれ?うーん」
「いけそう?」
はじめは鼻歌でも唄うようにやっていたが、次第にまつの雲行きが怪しくなる。あれれなんて言いながら、おかしいなといった表情をしている。
「まつ?」
「いや。そう言えば、人にやったことなかったなって思って。自分でやるのは慣れているんだけど」
「ぷっ。まつも人のこと言えんやんけ」
先ほどと打って変わって、今度はまつは気まずそうに話し、白石が噴き出した。
自分がやるのと違い、人のを結ぶのは全く慣れていないため、上手くいかなかった。なんとかああしてこうして、こうだから、なんて考えているまつ。
「そうだ。こうなったら。……ちょっと白石、かがめる?」
「ん?こうか?」
まつが何かひらめいたとばかりに、白石に向けて告げる。白石は微かに屈む。ありがとうとまつは告げて、白石の背後に回った。
「こっちからすればいつも通りだから」
そう告げながら、まつは背後から白石のネクタイを結んでいく。きっと彼女にとっては無意識であるし、ネクタイを結ぶことにしか注力していないためなんてことないのだろうが、白石にとっては終始落ち着かなかった。
せっかくなんだからこれで覚えてと告げられ、生返事をする。ネクタイの結び方をレクチャーしてくれているが、どこか穏やかな海辺でさざ波を聴いているときのような感覚だった。
「はい!できた!おしまい!」
そう元気に告げたまつの声で現実に引き戻される。
「あ。堪忍な。ばっちりや」
「どう?次はできそう?」
「んーどうやろな?」
向こうでどうするのよなんて呆れるように告げるまつに笑いかける白石。
ばっちりと結ばれたネクタイを見つめ、ありがとうと感謝を告げようとまつの方を見て固まった。
ものすごい眼光とともに、すさまじいオーラをまとった二人がいた。白石の様子に何かあるのかと、自身の後ろを振り返ったまつはそこに立つ二人の名を呼ぶ。二人はまつがそちらに振り向いたとたん、雰囲気を変えた。まつはいつもの二人の様子に、挨拶を交わすように告げる。
「跡部。幸村。さすが二人はばっちり決まってるね」
そう告げるや否や、何かを思い至ったのか、二人はほぼ同時にネクタイを外しまつに差し出した。わあネクタイを外す姿を動画におさめたらどこかのCMに起用されるんじゃないかというくらいですこと、なんて再びのんきなことを考えるまつ。
「?どうしたの?」
まつが尋ねると、またも二人同時に結んで欲しいと告げてくる。そんな二人にまつは何が起きているのか分からないと言った顔をしている。そんなまつを前にして、微かに跡部と幸村の間に牽制するような眼差しが交わされた。
「俺が先に呼ばれただろう。俺様からだよなまつ?」
「五十音順で呼んだにすぎないよ跡部。俺の名前の方が、気持ちがこもっていたね。ねえまつ?」
そんなことを言いながら、ずいっとネクタイを突き出してくる。
「え。けど、二人ともネクタイ自分で結べるよね?」
分かっとらん!まつ!それはちゃうんや!なんて一人まつの背中を見ながら心の中で全力でツッコミを入れ、頭を抱える白石。
そんな4人の様子を、微笑ましく見守っている周囲であった。
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